アニメ「青のオーケストラ」で主人公・青野一の声を担当して、繊細かつ説得力のある演技が高く評価されている、声優の千葉翔也。彼の作品に対するさまざまな思いを聞いたインタビューは、前編後編にわたって掲載したが、そこで紹介しきれなかった内容を、今回改めて公開。青野のライバル・佐伯直を演じている土屋神葉の印象や、千葉自身の“青の時代”について語ってもらった。


作品に漂う雰囲気は、唯一無二だと思います

――改めてになりますが、千葉さんが感じている「青のオーケストラ」という作品の魅力は、どんなところにありますか?

千葉 この作品に登場するキャラクターたちは、彼らが本当にそう思っていることを言葉にしているだけで、自分が誰かを元気づけようとか、立ち直らせようとか、そういう「欲」を持たずに会話をしているように感じられて、そういう雰囲気が唯一無二で、とてもいいなと思っています。「このセリフをかっこよく言えたら、感動的なシーンに仕上がる」みたいな作品ではなく、どちらかと言うと、言葉をキャッチする側のリアクションや雰囲気が大切にされている気がするんですよね。

例えば、僕が「いいな」と思っているシーンで言うなら、第5話の青野くんが帰り道で部活の入部届を手にしているところ。あそこは、「なぜオーケストラ部に入部しようと思ったのか」が、説明過多じゃないのに、すごくよく伝わってくるんですよ。彼は入部届を持って帰っているから、家で書いたかもしれないですけど、あの場で入部届に名前を書き込んでくれる秋音さんがいて、それを見ていた僕は、青野くんとして「俺、一人じゃないんだ」って強く思ったんです。そういう「なんか、うれしいなぁ」みたいな気持ちが、すごく尊重されている作品だと思います。

ⓒ阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション

共演しているキャストのみなさんも、そういう気持ちを分かっているからだと思うのですが、「このキャラクターって、こうだよね」というところに否定がない、というか。「青野くんって、こんな子だよね」とか「佐伯は、こうだから」とか、それぞれのキャラクターのことを深く考えてくれているキャストだなと思いますね。(秋音律子役の)加隈亜衣さんと(小桜ハル役の)佐藤未奈子さんと(佐伯直役の)土屋神葉くんがとても優しいから、そう思うのかもしれませんが(笑)。

――たまたまだと思うのですが、千葉さんが仙石昴/Mr.ブラック役で出演されている「TIGER&BUNNY 2」も、同じ春・夏クールのアニメとして、総合テレビで放送されていますね。

千葉 本当にタイミングがぴったり重なって、びっくりしました。NHKで放送される作品に出演する機会は、ゼロではなかったのですが、メインで、レギュラーで、というのは初めての経験で。
「タイバニ2」もそうなのですが、NHKで放送される作品では、そのテーマや視聴者に投げかけていることが、人の根幹に関わる、という印象を持っています。そういう意味では、「青のオーケストラ」がNHKで放送されていることに、ものすごくしっくりきています。高校生たちの物語ですが、若い世代だけを狙い撃ちしていない、幅広い世代に普遍的に楽しんでいただけるものだと思っていますので、そういう作品に出られている自分のことも誇らしいし、何よりも作品が誇らしいなと思っています。

――この「青オケ」がEテレで放送されることを、オーディションを受ける時点でご存じだったのですか?

千葉 いや、オーディションのときは、それを知らなくて。だから後で聞いて、よけいにしっくりきました。放送局や放送される時間によって、オーディションに対する向き合い方は一切変わらないのですが、すごく素敵な作品だなと思っていたので、夕方帯という見やすい時間、普段の日常の中でテレビをつけてたら流れているような時間に放送されるのは、この作品のテイストに合っていて、それを考えただけでワクワクしました。
個人的には、夕方帯や朝帯のアニメでメインの役どころを演じるのは初めてで、それは僕の目標のひとつだったんです。僕が目指している先というか、子どもたちが日常の中で何気なくアニメを見ていて、10年後くらいに大人になって調べてみたら、この人が演じていたんだと気づく、この声ずっと知ってたと思ってもらえる、そういう「ぼんやりとした日常」の中に存在していることが、大きな夢なので。それに近しい機会をいただけて、本当にうれしく思っています。

NABE「『青のオーケストラ』“イッキ見”を出演者と同時視聴の会」より

青春、と言うには泥くさすぎるけれど……

――物語の中盤以降は、青野くんと佐伯直が正面から向き合うような流れになりますよね。その佐伯を演じている土屋神葉さんの印象について聞かせてください。

千葉 神葉くんが演じている佐伯は、僕が思い描いてた佐伯とは違っていたというか......。なんて表現すればいいんだろう。人が違うというよりも、そもそも「使っている筆記用具が違う」という感じがするんですよね。だから僕は、佐伯のことを「予想」せずに演じることができて、めちゃくちゃ楽しいんですよ。
(青野の言葉が佐伯に対して)「そこ、刺さらんのかい!?」とか、(返ってくる言葉が)「えっ、そんなに元気なんだ」とか、本当にひとつひとつが、おそらく僕のリズムと神葉くんのリズムがいい意味で全然違っているので、演じていてとても楽しい。青野くんにとって佐伯とのキャッチボールの仕方は全然わからないままだけれど、「きっと何か、自分のペースがあるんだろうなぁ」ということはすごく伝わってくるので。だから変に合わせることもなくて、こっちも自分のリズムでしゃべれるんですよね。

ⓒ阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション

――さて、作品のタイトルの「青のオーケストラ」の「青の」には、孤独で不安を感じることもある青春時代、いわゆる“青の時代”に通じるところもあると思うのですが、千葉さんにとっての“青の時代”はどんなものでしたか?

千葉 “青の時代”ですか......。僕は、部活で大きな大会に出場したり、体育会系のことをやったりすることがなくて、受験勉強に時間をかけていた人間なので、そのころかなぁ......。大学受験を考えながら、声優事務所に所属するための養成所に通っていて、特に大学の受験日と養成所の最終公演というか発表会の開催が重なっていたので、自分でもよくあんなにがんばれたなと思います。
本当に今後の人生がどうなるかわからない中で、いくら努力しても足りない二つの軸が同時に走ってる時期だっので、あの、高校3年生ころなのかと思いますね。

その声優の養成所というのが今まで知らなかった環境で、できることだけじゃなくて、できないことにも直面する。新しいことを教えてもらえる。人がたくさんいて相互理解ができないことがあったりもして、全部が新鮮でしたね。そのあたりは青春というには泥くさすぎて、「この時代が楽しかった」という意味でのピックアップではないのですが、その前後で明らかに自分の中で何かが変わった時期ですね。大学受験も、自分の中では戦いみたいなもので、自分 vs 不特定多数という周囲、みたいな部分を感じていたので、自分の人格はそのあたりで作られたんだろうなと思いますね。

NABE「『青のオーケストラ』“イッキ見”を出演者と同時視聴の会」より。

あとは、一人暮らしを始めた直後も、自分自身と向き合っていたような気がします。仕事と自分の関係値だけの時間というのが、すごく長時間になったので。ありがたいことに実家が都内なので、常に家族がそばにいるっていう状況はとてもありがたかったのですが、そうなると、一日の中に必ず自分が自分である時間がすごく存在しているというか、過去の自分とひとつなぎの自分が必ずそこにいるので、どうしても切り離せない部分があったんだろうと思うんですよ。だから一人暮らしを始めて大人になった、とかではなくて、何もない時間を自分で埋めていかなきゃいけないとなったときに、仕事の面でもより集中できるようになったというか。
そこからもう一段階、自分の仕事、オーディションだったり、自分が演じているレギュラーの役への向き合い方だったりが、より集中できるようになったので......。この3年ぐらいかな? 主人公の役が決まりにくくなったときに「新人だからこそ主人公を任せてもらえるような時期は、もう終わったのかもしれないな」と、どこか変に達観しようとしていたのですが、「そんなことをするには、まだまだ青すぎ、若すぎる」と思い直して、また決まるようになって、という感じですね。
例えば、テープオーディションひとつとっても、今までだったら5分で終わる原稿を、自分が納得するまで1時間かけてやってもいいのかなと思うようになって。それを事務所に交渉するのも自分の勇気だし、1時間かけてもらうってことは、落ちたときに「1時間かけたのに落ちたね」って、より責任が大きくなると思うんですけもど、その「vs 自分の時間」が深められているのは、この3年ぐらいなのかなと思います。

千葉翔也(ちば・しょうや)
1995年8月29日生まれ、東京都出身。2015年から声優として本格的な活動を開始し、数多くの作品に出演する。代表作は「月がきれい」安曇小太郎役、「ようこそ実力至上主義の教室へ」綾小路清隆役、「86―エイティシックス―」シンエイ・ノウゼン役、「パリピ孔明」KABE太人役など。今秋から放送される「最果てのパラディン 鉄錆の山の王」ではウィルを演じる。

 取材・文/銅本一谷
 

「青のオーケストラ」 
毎週日曜 Eテレ 午後5:00~5:25
再放送 毎週木曜 Eテレ 午後7:20~7:45

※放送予定は変更になる場合があります。
【番組HP】https://www.nhk.jp/p/ts/3LMR2P87LQ/

☆8月のアニメ「青のオーケストラ」は、以下の放送が休止になります。
8月6日(日曜)/【再放送】8月10日(木曜)
8月13日(日曜)/【再放送】8月17日(木曜)
8月20日(日曜)/【再放送】8月24日(木曜)
☆放送再開は、8月27日(日曜)の予定。