「青のオーケストラ」
毎週日曜 Eテレ 午後5:00~5:25
再放送 毎週木曜 Eテレ 午後7:20~7:45
※放送予定は変更になる場合があります。
【番組HP】https://www.nhk.jp/p/ts/3LMR2P87LQ/
アニメ「青のオーケストラ」で主人公・青野一を演じているのは、人気声優の千葉翔也だ。これまで多くのアニメ作品で主役を務め、総合テレビで現在放送中の「TIGER & BUNNY 2」にも出演している彼は、どんなことを考えながら「青オケ」の収録に臨んでいるのか。アフレコが進むスタジオを訪ねて率直な思いを聞き、青野一というキャラクターの魅力を深掘りしていく。
青野は、モノローグのほうが雄弁である
――アフレコが始まる前に、原作コミックスの「青のオーケストラ」をお読みになったと思うのですが、阿久井真先生が描かれた作品世界に接して、どのような印象を持たれましたか?
千葉 原作は、ネット連載の漫画です。僕の個人的なイメージですが、ネット連載の漫画は、連載される作品も読む人の数も膨大なので、一話一話に強い「引き」を持たせたり、大きなインパクトを与えるような展開を特色に据える作品が多い気がしていたんです。それはそれで大きな魅力だと思うのですが、「青のオーケストラ」は、いつの時代でも通用する、普遍的部分が作品の軸になっていると感じました。描かれているキャラクターひとりひとりの表情にもご都合主義的なところがなくて、どのキャラクターにも共感できるところがありますね。
青野くんであれば、中学生のころの、父親に裏切られたことへの怒りや憎しみとか、ヴァイオリンをやめて心を閉ざしてしまった感情の機微がものすごく丁寧に描かれていたから、キャラクターとしてよりも、ひとりの中学生の男の子として、スッと心に入ってきました。(青野役を選ぶ)オーディションのときから演じやすいな、と思っていたのですが、収録が始まる前に改めて読み返してみて、「演出しようとした中学生らしさ」ではなくて、――中学生って、周囲が思うより大人だと思いますし―― とても自然な人物像だと感じました。
――そんな青野を演じるにあたって、どんなことを大事にしようと考えられたのですか?
千葉 役作り的な部分で言うと、彼は根っこから現在の人物像だったわけではないんですよね。少年時代はヴァイオリンに対して一途に取り組んでいたし、人としゃべるのが嫌いとか、苦手とかでもなかった。そんな人でも、父親のことで、いきなり学校で好奇の目にさらされたりしたら、周囲をシャットアウトするだろうし、思いもよらない変化を遂げることもあるだろうなと思います。
何と言えばいいのかな……、ちょっとした人の言葉で影響を受ける、青野くんが「その時々で思っていること」を大事にしたいなと思いました。一話一話通して成長していくし、「この子はこういう声でやろう」みたいなものをあまり決めていなくて、という感じですね。
オーディションのときから岸誠二監督に言われていたのは、「大人の悩み方にはしないでほしい」ということです。僕もまさにその通りだなと思っているのですが、今悩んでいることに対して、疑念がない純粋さというか。大人になってくると、悩んでいても実は結果は見えているとか、悩んでいる自体にあまり意味がないとか、そういうこともわかってくるけれど、この年代は自分がこの先どうなっていくのかわかっていなくて、悩みに対しても純粋。その純粋さを大切にするようにしています。すべての言葉に裏がないというか。
―― こういう言い方で合っているのかどうかわからないのですが、その時その時の感情を、ライブのように表現しようとしている、ということなのでしょうか?
千葉 そうですね。「若さを若く演じる」のではなくて、「純粋であること」を軸にしようと思って演じています。青野くんには、ちゃんと喜怒哀楽もあるし。
それと「モノローグのほうが雄弁である」という指示も最初にいただいていて、それもすごくしっくりきているんですよ。やっぱり人は、頭の中でめちゃくちゃ考えていても、口に出そうとすると言い淀んでしまったり、言い方が変になってしまったりすることがあると思うし、青野くんは人と話すのは得意ではないけれど、別に暗い人間ではないので。コミュニケーション能力が欠如しているわけではなくて、経験値不足だったり、コミュニケーションに対する意欲の低さが目立っていただけで。だから、モノローグの中ではスパスパしゃべれている感じは、冒頭から出せたらいいなと思っていました。
―― 確かに、人付き合いは苦手だけど、人が嫌いというわけではないんでしょうね。
千葉 そうですね。「人が嫌い」っていうのは、結構能動的な感情だと思うのですが、青野くんの場合は「無」なんですよね。コミュニケーションに関しては、そこに意識がいってないというか。
声優4人で、モデルになった学校のコンサートに
――ところで、番組放送が始まる前の3月に、秋音律子役の加隈亜衣さん、佐伯直役の土屋神葉さん、小桜ハル役の佐藤未奈子さんと、千葉県立幕張総合高校(劇中に登場する海幕高校のモデルになった学校)オーケストラ部のコンサートに足を運ばれていますよね。それも、役作りのひとつだったのですか?
千葉 あれは仕事外で、プライベートで行ったんですよ。もともとは僕ひとりで、役作り的な意味で幕張総合高校を自分の目で見たいなとは思っていたのですが、そのタイミングがなかなかなくて。それが加隈さん、佐藤さんと最初にお会いしたころだったのですが、お2人がそれぞれヴァイオリンの体験レッスンに行ったという話をされていて。それを聞いて「もしかしたら、みなさん(役を演じるときに)自分自身の体験も大切にされる方なのかな? 誘っても大丈夫かもしれない」と感じたので、神葉くんにも声をかけて一緒に行くことになりました。
――日時限定のコンサートに、お忙しい4人が揃うというのは、なかなかないことですよね。
千葉 いや、本当に(4人のスケジュールが)合うとは思ってなかったです。ほかの仕事との兼ね合いもあって、人数が増えれば増えるほど実現は難しくなってくるし、どうなるかなと思っていたのですが、いろんな幸運が重なって運よく行けたので。しかも、たまたまアニメ制作のプロデューサーの姿を僕が見つけて、声をかけさせてもらったら、最後はオーケストラ部の顧問の先生や高校生のみなさんとも顔を合わせることができたんです。そんなことはまったく意図していなくて、これは作品に「愛される運命」がある、選択は間違っていなかったなと思いました。
コンサート自体も本当によかった。「クラシックだから、自分はちゃんと理解できるだろうか」「学生で全国優勝というレベルはどのくらいなのだろう」と勝手に想像していましたが、エンターテインメントとしてひたすら楽しかったです。休憩時間から、みんなで「すごいね!」「あそこ良かった!」と言葉を交わして、終演後もたくさん話をしました。逆に仕事で行ったのであれば、もうちょっと「分析」しなきゃいけなかったと思うのですが、プライベートだったので、普通に「楽しかったね」という話で終わってしまって(笑)。僕は、キャスト同士の空気感や関係性が、作品を作るうえで絶対に大事だなと思っているのですが、こうしてプライベートで同じものを見て、同じテンションで感想を話せる機会は、実はそれほどないことなので、うれしかったですね。
一話の中で、誰かの感情が動いている
――千葉さんご自身が、この作品について、ツイッターで「たった一話分なのに映画一本分くらい心が動かされてる…」「秋音さんの言葉と音一つ一つが青野の心の真芯を捉えていくのは、彼女が本当に正直だからで…。僕自身も心を深く揺さぶられました」と書かれていて……。
千葉 うわ~、音読するのはやめてください(笑)。お恥ずかしい。
――いやいや、それだけ深い思いを持って取り組んでいらっしゃるのではないか、と。最初にリリースされたコメントの中にも「アフレコ収録で、毎回感動しています」とあったのですが、それは例えばどんなところですか?
千葉 そうですね(少し考えて)……。じゃあ、まず、大枠からお話ししますと、このアニメの構成ってものすごく考えられていて、一話ごとに、その回に登場する誰かの感情が動いているところで締めくくられていると感じているんです。原作の話数通りに区切りがあるのでもなくて、「この回は何のためにあったのか?」を考えるときに、無駄な回がないというか。「この回は、この子のこんな感情がこう変化したな」とか、あるいは「ここが変化しなかったことを見せる回だな」とか、そういうものが僕的にはすごくしっくりきていて、それが今のところ一話も漏らすことなく続いている。ということは、このアニメを作っている方々がものすごく作品を大事にしているんじゃないかな、と想像して、勝手に心強く思っていますね。
そして、キャラクターに変化が起きて感情を動かされるときに、それが自然な流れで語られていくのも作品の強みになっていると思います。例えば第2話「秋音律子」だったら、秋音さんが学校でほかの人と違う状況に置かれているのに自信を持って未来のことを語っているシーンで、ものすごく盛り上がるBGMを使ってキラキラした表情にすることも演出としてできるところが、スッと入ってくる感じになっていて。あと、すごく小さな喜びを……、友達と少しだけ距離が近くなったとか、ひとりで下校していた青野くんが友達と一緒に帰るようになったとか、そんな小さな部分が拾い上げられているところがとてもいいなと思います。
「ヴァイオリンを再開しました」「高校に受かりました」というような出来事が起きての感動じゃなくて、「何も起きてないけど、心持ちが変わりました」「何かができるようになったわけじゃないけど、つらくなくなりました」「今まで言えなかったけど、ちょっとだけ言えるようになりました」みたいなところ。そういう、人によっては些細なところも表現してあることに、僕はすごく感動しています。
――その気持ちの揺れを、言葉で表現されている声優さんの凄さも、見ていて感じます。第2話の、青野が河川敷で「カノン」を弾く場面、千葉さんが発した「羨ましかったんだ」という一言で、一気に心を持っていかれました。
千葉 そう言ってもらえると、めちゃくちゃうれしいです。僕もオンエアを見て「こんな言い方をしてたんだ!」と思いました。あのセリフはオーディションのときにもあったのですが、第1話の「青野ハジメ」から演じてきて、やっと本当の意味がわかったというか。アフレコで、僕は涙ぐみながら(セリフを)読んでいました。それができたのは、秋音さんを演じた加隈さんのおかげです。原作の漫画を読んだときは平面で見て、視覚で楽しんでいるから、秋音さんの声は僕の中にある声で再生されていたんです。だから「秋音は、こんな言い方をするだろう」という勝手なイメージがあったのですが、加隈さんが僕の世界の中にはなかった言い方をしてくれて、それを受けたときに、あの「羨ましかったんだ」という表現が自然とできたんですよね。
――加隈さんも、秋音律子の元気で前向きなところ、体育館の裏で武田先生に「教室に行きたくない」と打ち明けるところ、いろんな感情を巧みに表現されていますね。
千葉 加隈さんが演じる秋音さんには、ひとつの答えが出ているというか、「元気に見せよう」とか「可愛く見せよう」とかを意識していない、ストレートな印象を受けています。それが僕的には、すごくよくて。だからこそ秋音さんと思い切りケンカできるし、落ち込んでいたらびっくりする。その時々の素直さを感じるので、第1話のころから、めちゃくちゃやりやすかったですね。何というか、アニメーションとして「ブライトな」お芝居なんですよ。僕が演じている青野くんはわかりにくいというか、息の入れ方も音にならないくらいで、セリフのテンポもその時々の「間」で演じている部分があるのですが、秋音さんは誰かに媚びたりしないで、パキッとしているというか。
――そんな秋音だからこそ、ずっと心を閉ざしていた青野を、また元の世界に連れ戻してくれるんでしょうね。
千葉 そうですね。おそらく青野くん自身は自分が立ち直れると思っていなかったし、たぶん僕が「立ち直れそうな人」を演じなくて済んだのは、加隈さんが表現してくれた秋音さんの力によるところが大きいですね。これは原作のある作品の難しいところで、「ここで立ち直る」とか「このセリフで感動する」とか、原作を読んでいるとわかっているわけですが、それを加隈さんが新鮮な雰囲気で演じてくれるので、初めて聞くセリフとして受け止めることができています。
これは永遠の課題だと思うのですが、原作をどこまで読むのか、今、とても悩んでいます。これから物語がこうなっていく、というのは、なんとなく知っていますが、あまり先まで原作を読んでしまうと「こういう青野くんになろう」って思っちゃうだろうから、できるだけ直前に読んだりしていて。だから、青野くんが秋音さんや小桜さんとこの先どう接していくのか、僕はまだ知らない部分もあるんですよ。
(後編に続く)
→インタビューの後編は、こちら。
千葉翔也(ちば・しょうや)
1995年8月29日生まれ、東京都出身。2015年から声優として本格的な活動を開始し、数多くの作品に出演する。代表作は「月がきれい」安曇小太郎役、「ようこそ実力至上主義の教室へ」綾小路清隆役、「86―エイティシックス―」シンエイ・ノウゼン役、「パリピ孔明」KABE太人役など。今秋から放送される「最果てのパラディン 鉄錆の山の王」ではウィルを演じる。
取材・文/銅本一谷