「青のオーケストラ」 
毎週日曜 Eテレ 午後5:00~5:25
再放送 毎週木曜 Eテレ 午後7:20~7:45

※放送予定は変更になる場合があります。
【番組HP】https://www.nhk.jp/p/ts/3LMR2P87LQ/


アニメ「青のオーケストラ」の主人公・青野一の声を担当し、作品の魅力を「感情の機微がリアルに表現されているところ」だと語る声優の千葉翔也。インタビューの後編では、青野の人物像を作り上げるのに欠かせなかったヴァイオリニスト・東亮汰の演奏に対する印象や、千葉が作品の中で印象に残ったというシーンなどを紹介する。


キャラクターを2人で作りあげるおもしろさ

――この作品はクラシック音楽と深く関わっていますが、千葉さんご自身は、これまでクラシック音楽に親しむ機会が多くありましたか?

千葉 それが、全くなくて……。クラシックを扱った作品にも出演したことがなかったので、とにかく新鮮でした。青野くんがヴァイオリンの天才少年として、本当に大きなプレッシャーの中でやってきた部分についてはイメージでしかないから、ちょっと不安でしたが。ただ、その不安は、青野くんのヴァイオリン演奏を担当されている東亮汰さんの音が、完全に払拭してくれました。

第1話収録の段階で、冒頭に中学1年生の青野くんが弾いていたメンデルスゾーンの「ヴァイオリン協奏曲」の演奏が入っていたり、第2話だとパッヘルベルの「カノン」を久しぶりに弾いたときの音を聴くことができたので。それを聴いたから何か表現を変えた、ということではなくて、ヴァイオリンを弾けるという青野くんの人生と切っても切り離せない部分、彼が人生の軸としてきた部分は東さんが演奏でやってくれているから、僕は人物像の形成に注力できたんですよね。「クラシックの素養があるから、こういう人物」みたいに作らなくてすむというか、「ヴァイオリンを持ったら、すごい人」感を出さなくていいというか。2人でひとつのキャラクターを作る今回のやり方だと、そのギャップが自然と生まれてくるので、ありがたかったです。

ⓒ阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション

――東さんともお会いになったと思いますが、どのような印象を受けましたか? 

千葉 実は3月に行われた「超体験NHKフェス」の「青のオーケストラ トークショー&コンサート」の開演前にお会いしたのが初対面だったんです。そこで少しお話ししたのと、あとはアニメ雑誌の企画で対談をさせていただきました。僕の勝手な思い込みなのですが、クラシックの世界に進んだ方々って、幼少期から家族ぐるみで音楽を学んでいた人たちが多いイメージがあるので、もっとガチガチの「一声しゃべっただけで雰囲気が違う!」みたいな方を想像していたんです。でも、フランクに声をかけてくださったので、「あれ? 思っていたより『クラシック奏者』感がなくて話しやすいぞ」と思ってしまいました(笑)。でも、淡々と話しているのに、出てくるエピソードが僕の想像を超えて凄いというか、明らかに僕とは違う人生を歩んでいることがわかりましたね。そして本人は、それを意識をしないで言っているんだろうと思わされて、より凄みを感じました。

――それは、どんなところが?

千葉 中学のころから部活動をやらずに、学校以外のほとんどの時間をヴァイオリンを練習していて、多くの人たちが部活動に参加している、周りの友達と過ごしている、趣味に熱中している時間に、ひたすら楽器に向き合っていたわけですよ。週末は、ほぼ1日中、練習に時間を費やして。やっぱり学生のころって、どうしたって周りの友達とか、いろんな人に影響を受けると思うのですが、そうじゃないひとりの時間を、しかもポジティブな方向に使われてきた……。そこに僕は感銘を受けたというか、自分を省みて少し怯んでしまうほどでした。

☆「超体験NHKフェス」の舞台裏で、東亮汰さんと。

――その東さんを含めた弦楽合奏を「超フェス」のコンサートで、ステージの近くでお聴きになっていますね。

千葉 はい。あれは2023年が始まってから、いちばん楽しい30分間でした。心からそう思っていて、それまで聴いていた音がリアルで聴いても同じだったことにとても感動したし、ヴァイオリンの音って、こんなに意味がわかるものなんだ、と思えて……。

――意味がわかるというのは、その曲が作られた意図がわかるということ?

千葉 「こっちからがんばらなくても、その世界に入れてくれるんだ」と思いました。僕は、例えばピッチが合っているかどうかもよくわからない、100点の演奏を聴いたことがないから、50点の演奏を聴いて、それが悪いのかどうなのかわからないぐらいの尺度なんですけど、そんな相対的なものではなくて、絶対的にすごくいいものなんだとわからせてくれたというか。肩肘を張らなくても魅力的なものなんだな、と感じられて、あの場で「カノン」を聴けたのは、自分にとってものすごくプラスになりました。


「だから青野は天才なんだ」と感じたセリフは

――ところで、劇中の青野のセリフで、千葉さんが好きな言葉はどれですか?

千葉 好きなシーンだと、まず第2話の「カノン」のところだけど、青野くんのセリフで? うーん。誰かに言われたセリフなら、いろいろあるんだけどな……。あ、そうだ。僕は第6話の「お前って下手だけど、音はデカいよな。」が好きですね。結果的に、青野くんは秋音さんを励ましているんだけど、彼的には励ますつもりじゃなくて素直にそう思っている、みたいなところが、僕が思っている青野くんの人間性とむちゃくちゃしっくりきていて。「その言い方を許してくれるんだ、このアニメは」と思いました。演出として、もっと「励ますように言って」と指示されるかと思っていたんですよ。わかりやすく、このセリフが「秋音さんの心に刺さります」という感じを求められるかな、と。でも青野くんは、保健室で秋音さんの演奏を聴いたときから「下手くそだけどポジティブな感じ」をキャッチしていたから、下手だけど「すげーな」って本当に思っている。こんなに上手な人が下手な人の演奏に感動できる、ある意味、論理的じゃないのかもしれないけれど、そこにこの作品の良さが感じられて、このシーンも好きです。

ⓒ阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション

――ちなみに、阿久井先生にお話をうかがったときには、この先に登場する「俺を見ろ!!!」というセリフに自分の思いがあふれている、とおっしゃっていました。

千葉 へぇぇ! 意外ですね。あれは逆に、僕の中には全くない感情でした。いや、僕も目立ちたがりだから、ない感情ということもないけれど、あのセリフは僕が青野くんとは違う人物である「特異点」と言っても過言ではないくらい、言い方が本当にわからなくて。オーディションのセリフにも入っていたのですが、僕が思い描く青野くんの人物像と、演奏で「俺を見ろ!!!」と主張する青野くんがまったく結びつかなくて。でも、わからないことは、いいことだと思っているんですよ。ああいうセリフがあるからこそ、青野くんが根っこから天才だと思える。青野くんが、自分の想像の範疇にいないでくれる、というか。自分が想像できる世界で人物を作ってしまうと、僕が生まれて、育ってきた人生の中での幅になっちゃうから、そうじゃない部分を自分の中に引っ張り込むのではなくて、自分の予想できないようなセリフに引っ張ってもらう、それがより豊かな表現に結びつく、みたいな感覚がありますね。


この作品に出会えて本当によかった

千葉 あと、これから放送される第8話「G線上のアリア」の中で、秋音さんと小桜さんが公園で語り合うシーンも好きですね。青野くんは登場してないのですが(笑)。2人の関係性が、単に親友というだけではなくて、それぞれに複雑な思いを抱えていて、それが深く掘り下げられていく絶妙なセリフがあって、改めて「これは、すごい作品だな」と思いました。

――それにしても青野は、かつて小桜ハルと出会っていたことを、なかなか思い出しませんね。ハルはあの約束をずっと覚えていて、青野のことをずっと意識しているのに……。

千葉 でも、何かとっかかりがないと、青野くんは思いださないと思う(笑)。その現象に、僕はすごく共感できるというか。僕も誰かに言われたことは全部覚えているんだけど、自分がその場で思って言ったことは、ほとんど覚えていなくて。友達に「あれを言ってくれて、すごくうれしかったんだ」と言われても、言った言葉が記憶に残っていない(笑)。ただ、「これが相手の心に届け!」という思いは残っていて、それは「普段からあなたに対して思っていることだから、いつでも言うよ」と思っているから。だから、幼い青野くんも、いつか小桜さんと一緒に弾きたいなと素直に思ったんだという気がします。

ⓒ阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション

――なるほどね。さて最後になりますが、千葉さんは今回「青のオーケストラ」という作品に出会えたことをどのように受け止めていらっしゃいますか? ツイッターには「気が早いけど、携われて良かった」という投稿もありましたが。

千葉 あまり大仰なことは言いたくないのですが、この作品のオーディションを受けたときから、自分の中では、これが決まらないようなら、もうダメだなっていう気持ちを持っていたんです。ここまでキャラクターのイメージができる役柄で、それでも受からないっていうことは、もう本当に……。野球でいえば、ボールがくる場所も、バットの振り方もわかっているのに、当たらないに等しいというか。それぐらいの余裕と切羽詰まった感じが同居していたので、オーディションの結果はドキドキしながら待っていました。そして、この作品にかかわれて……。

僕は、やっぱり「自分が携わっている作品こそが、いちばん素晴らしい作品なんだ」と思っているんです。相対的な評価ではなくて、この作品に込められた熱量だったり、かかわっている人たちの気持ちを考えると、主人公がそれを疑ったら終わりというか。そして第1話や第2話を見て、いろんな人の工夫や、きめ細かい演出が詰め込まれて、「ここにいられてよかったな」と思いました。

結局、僕ができることはとてつもなく限られているから、本当に自分ができることをしっかりやって、自分ができないことはほかの誰かがやる、オーケストラのアンサンブルのような感じがすごくあるんですよね。それこそ、僕のきわめて小さな息の入れ方とかも音響スタッフが、その息の意味をちゃんと汲み取って、拾ってくださっていて、感動を覚えました。

だから次の段階として、見てくださった視聴者のみなさんに「見てよかったな」と思っていただけるように、気を引き締めてアフレコ収録に臨みたいと思っています。これからも見逃せない展開が続きますので、ぜひ楽しみにしていてください。

ⓒ阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション

→インタビューの前編は、こちらへ。

千葉翔也(ちば・しょうや)
1995年8月29日生まれ、東京都出身。2015年から声優として本格的な活動を開始し、数多くの作品に出演する。代表作は「月がきれい」安曇小太郎役、「ようこそ実力至上主義の教室へ」綾小路清隆役、「86―エイティシックス―」シンエイ・ノウゼン役、「パリピ孔明」KABE太人役など。今秋から放送される「最果てのパラディン 鉄錆の山の王」ではウィルを演じる。

 取材・文/銅本一谷