「青のオーケストラ」
毎週日曜 Eテレ 午後5:00~5:25
再放送 毎週木曜 Eテレ 午後7:20~7:45
※放送予定は変更になる場合があります。
【番組HP】https://www.nhk.jp/p/ts/3LMR2P87LQ/
鮎川先生から「昔のお前の音色は、そんなものではなかったはずだ」と言われて以来、青野くんが探し求めている“自分の音色”。将来のコンサートマスター候補として、今のままの演奏ではダメなんだ。そう思い悩む青野くんが、思い切って羽鳥先輩に意見を求めたときに、返ってきた言葉は……。
答えは、演奏の中で探せばいい。
おおお、名言ですね!
この言葉に至るまでに、「もっと曲のイメージを伝える努力をすればいいのに」と語りつつ、「演奏者は作曲家が想いを込めて書いた『曲』を、自分なりに想像して、膨らませて、『ここ』に訴えかける」と、青野くんの胸を指さした羽鳥先輩。あ、これは惚れる。羽鳥マジック!?
鮎川先生には「お前は口も演奏も軽い」と厳しく諭されていたくらい、一見チャラそうに見えてしまうけれど、彼のヴァイオリン演奏に対する想いは真摯で、後輩の面倒見もよくて(鮎川先生の発言も、それらを承知したうえでの強烈な激励だと思われます)。そんな羽鳥の想いが込もった言葉は、青野くんにとって、きっと何かをつかむための「手がかり」になることでしょう。
そう思えるくらい、第13話「自分の音色」の物語では、羽鳥の存在感が際立っていました。
オーディションの翌日、鮎川先生(声:小野大輔)は青野(声:千葉翔也)と羽鳥(声:浅沼晋太郎)を職員室に呼び、青野には「技術は高いが、お前だけの音色が見えてこない」と、羽鳥には「自分の立場を考えて演奏しろ」と伝えていた。羽鳥はその言葉の意味を自分なりに考え、次期コンサートマスター候補としての決意を、同じ2年生の裾野姫子(声:金澤まい)に語る。
期末テストを控え、オーケストラ部は1週間の部活動停止期間に。テスト勉強中の青野の脳裏には、幼少期に予選敗退したコンクールで、父・龍仁(声:置鮎龍太郎)から「今のつまらない演奏で上に行けると思ったか?」と言われた記憶がよみがえっていた。焦りと迷いの中、とにかくヴァイオリンを弾きたいと渇望する青野は、勉強の息抜きをしたいと思っていた佐伯(声:土屋神葉)に誘われて、小音楽室へ。そこでヴァイオリンを手にしている羽鳥と出会う。
前述したように、今回は羽鳥の「頼れる先輩感」がマシマシ。部活動停止期間の練習を鮎川先生に見つかりそうになったのをカバーしてくれたり、勉強を教えてくれたり、コンマスの原田先輩(声:榎木淳弥)と同じような「人たらし」ですね。というか、部員が250人以上もいる海幕高校オーケストラ部を束ねるコンマスって、「人たらし」じゃないと難しいポジションなのかもしれない(そういう意味では、中学時代に周囲と距離を置いていた青野くんは、これからもっとがんばれ!)。
その羽鳥もまた、ダンス部と兼部している自分を後悔する気持ちはないけれど、現状のままでいいとも思っていなくて。そういう意味では、青野くんと同じように、彼も自分自身の道を模索しているのかもしれないと思います。
そして、羽鳥とともに“ちょっぴりいい感じ?”の関係を築いている姫ちゃんも、クローズアップされていました。この2人のやりとりは、阿久井真先生の原作が持っている情感を、さらに豊かにして描かれていたような気がしたなぁ。エンディング曲の放送後に流れるイレギュラーの「Cパート」として、原作コミックスの「巻末おまけ漫画」に登場していた姫ちゃんの焦げたクッキーもアニメ化されていたし。
総じて、今回の物語は、シリアスな部分とコミカルな部分がうまく配合されていた印象を受けました。緩急自在の演出、と言えばいいのかな。例えば、「期末テスト」と聞いたときの青野くんの描写は……。
て す と ?
あー、宇宙をさまよってしまいましたね(笑)。
この場面も含めて、羽鳥が冗談として語る「海幕高校オーケストラ部に代々伝わる勉強法」とか、アニメオリジナルの描写もあって。それもバランスよく挿入されていました。
もしかすると。これまでのアニメ放送では、だいたい原作の2話分がアニメ1話として描かれてきた(例外として、第1話のみ原作1話分だった)のだけれど、今回は原作の1話+αで。ゆえに、いろいろと描き込める余地があったのかもしれない、と思ったりもしました。いずれにせよ、これで原作の第3巻の最後(第21曲「自分の音色」)までが、アニメ化されたことになりますね。
原作を未読で、アニメで「青のオーケストラ」という物語に興味を持たれた方は、ここまでをお読みいただくくと、ネタバレを気にせずに楽しむことができます。どうしてもアニメに入りきらないエピソードが出ているので、それを拾い上げるためにも、ぜひ。そのうえで放送の録画、もしくは配信をご覧いただくと、作品世界をさらに深く理解できること間違いなしです。東さんがインタビューで語ってくれたように、原作は「楽譜」ですから! ただ、一度読み始めると先が気になりすぎて、ネタバレとの二律背反に思い悩んでしまう可能性が高いですけれどね(笑)。
ところで、配信公開されている恒例の【青のオーケストラ 聴きドコロ♪】は、視聴者からリクエストが多かったという名シーンの振り返り。
♪ドヴォルザーク「交響曲第9番『新世界より』第3楽章」(1st ヴァイオリンパート)
演奏:東亮汰(ヴァイオリン)、尾張拓登(ヴァイオリン)
おお、第9話「先輩」で、教室で個人練習をしていた青野くんの横に佐伯直が座ってきて、勝手に音を合わせ始める場面ですね。これ、曲の途中から、2人の演奏がぴたりと一致して、むちゃくちゃ息の合った感じが伝わってくるのが、ものすごく心地よいです。
ちなみに前回の放送で、青野くんのオーディションでの演奏を聴いて「やっぱり君は……」と口にしていた佐伯直は、今回、小音楽室で青野くんに「あれは…、全力の演奏だった…?」と問いかけてきます。そのときは羽鳥先輩が現れたから即答できなかったものの、帰り道で、青野くんはこう答えました。
全力だったよ。
あの演奏が、きっと今の自分なんだと語り、ヴァイオリンを辞めていた時期があったことを打ち明けた青野くん。その理由を「今度話すよ」と言った彼に対して、佐伯は明らかは何か言いたげですよね? そして青野くんと別れた後も、駅のホームのベンチにひとり座って空を見上げる佐伯の、あの表情は……。演奏会での席を最終決定する次の勝負まで、まだまだ何かが起きそうな予感が漂っています。
さて次回、7月9日に放送される第14話「歩み寄る」から、物語の中では夏休みに突入。定期演奏会は8月下旬だから、あと1か月とちょっと!? 青野くんたち、濃密な時間を過ごしているなぁ。あらすじは、こんな感じ。
夏休みに入り、本格的な合奏練習が始まった。青野は、大勢で音を合わせることの難しさを、改めて痛感。1人ずつの音程やリズムは正しいのに、合奏すると音がまとまらない。しかし、そのとき、コンサートマスターの原田が、ヴァイオリンの弓や身体の動きを使って、オーケストラ全体に合図を送り始めた。ゆるやかに、陽気で、楽しく。皆の呼吸が徐々に揃って、演奏がひとつになっていく。オーケストラの全員、そしてすべての楽器の音と向き合う原田の手腕に、青野は感銘を受ける。
なお、次回予告のセリフから判断すると、トップサイドの町井先輩とチェロの山田くんが活躍することになりそう。今回の羽鳥と同じく、青野くんに「手がかり」を与えてくれる存在として描かれていくのでしょうね。その「手がかり」を集めていくことが、青野くんの演奏家としての成長につながることを期待しています。
第13話「自分の音色」の再放送は、Eテレ 7/6(木曜)午後7:20~7:45。見逃し配信は、NHKプラスで7/9(日曜)午後5:25 まで。
https://plus.nhk.jp/watch/st/e1_2023070215370?cid=jp-3LMR2P87LQ
追記
8月のアニメ「青のオーケストラ」と「5分で楽しいクラシック」は、以下の放送が休止になります。この時期は、例年、アレの生中継が入るだろうからなぁ……。
◆アニメ「青のオーケストラ」
8月6日(日曜)/【再放送】8月10日(木曜)
8月13日(日曜)/【再放送】8月17日(木曜)
8月20日(日曜)/【再放送】8月24日(木曜)
☆放送再開は、8月27日(日曜)の予定です。
◆「青のオーケストラ 5分で楽しいクラシック」
8月6日(日曜)
8月13日(日曜)
8月20日(日曜)
8月27日(日曜)
☆放送再開は、9月3日(日曜)の予定です。
カツオ(一本釣り)漁師、長距離航路貨客船の料理人見習い、スキー・インストラクター、脚本家アシスタントとして働いた経験を持つ、元雑誌編集者。番組情報誌『NHKウイークリー ステラ』に長年かかわり、編集・インタビュー・撮影を担当した。趣味は、ライトノベルや漫画を読むこと、アニメ鑑賞。中学・高校時代は吹奏楽部のアルトサックス吹きで、スマホの中にはアニソンがいっぱい。
☆これまでの感想記事は、ここに(https://steranet.jp/list/category/stera_aniken )。