「青のオーケストラ」 
毎週日曜 Eテレ 午後5:00~5:25
再放送 毎週木曜 Eテレ 午後7:20~7:45

※放送予定は変更になる場合があります。
【番組HP】https://www.nhk.jp/p/ts/3LMR2P87LQ/


高校のオーケストラ部を舞台にしたアニメ「青のオーケストラ」の大きな特徴は、登場するキャラクターごとに演奏家がキャスティングされていることだ。主人公・青野一の演奏を担当しているのは、ヴァイオリニストの東亮汰。ソリストとして、またオーケストラのメンバーとして活躍している彼に話を聞き、「青のオーケストラ」という作品に対する印象や、自身が考える演奏家としての想いを紹介していく。


原作を「楽譜」として読み解いた青野の人物像

「青のオーケストラ」の主人公は、世界的に活躍するヴァイオリニスト・青野龍仁を父に持つ青野一。数々のコンクールで優勝して「ヴァイオリンの天才少年」と呼ばれていた彼は、龍仁との確執から一度は演奏することをやめたものの、ヴァイオリン初心者の同級生・秋音律子と出会ったことをきっかけに、再び楽器を手にすることになる。そんな青野一が劇中で弾くヴァイオリンの演奏を実際に担当しているのは、新進気鋭のヴァイオリニスト・東亮汰だ。

東は1999年生まれの24歳。4歳でヴァイオリンを始め、第65回全日本学生音楽コンクール小学校の部で東京大会第1位及び全国大会第2位、そして第88回日本音楽コンクールでは第1位に輝くなど、数多くの受賞歴を持つ。これまで数多くのオーケストラと共演し、ピアニストの反田恭平が率いるJapan National Orchestra(JNO:ジャパン・ナショナル・オーケストラ)の最年少コアメンバーとしても活躍している。

その特徴は、端正で美しい音色。絹糸のように繊細で艶のある音、あるいは熱く情熱的な音など、さまざまな表情をヴァイオリンで作り出していく。それが、青野の奏でる音(原作では「謹厳実直な演奏スタイル」とも評されることも)のイメージに合っているということで、演奏担当として白羽の矢が立った。そんな東が、劇中曲の収録にあたって第一に意識したのは、「青野のヴァイオリンの音」だった。

大事にしたいと考えたのは、青野くん自身のストーリーというか、阿久井真先生の原作漫画を読ませていただいて想像した、純度の高い、透明感のある音色で紡がれているであろう演奏のイメージです。青野くんは「天才少年」と呼ばれていましたが、彼自身がそれを誇示してはいないというか、「上手いでしょ?」みたいな感じで弾くタイプではない気がしたので、彼が持っている純粋な、曇りのない音色が自然と滲みでてくるように心がけました。また、青野くんは美しい音色を持っていても、演奏者としてはブランクがありますので、それも伝わるように。そんな「青野くんの音楽」を膨らませて、それを自分の中に落とし込んで演奏する、という作業を行いました。
元々は、僕の演奏が、青野くんのイメージに近いということで今回のお話をいただいた経緯もあったので、自分の音を青野くんに寄せていかなきゃ、とはそれほど考えなかったのですが、いつも自分が自然に弾いている音を、青野くんのストーリーを考えながら、楽曲ごとに調整して、という感じでしょうか。

©阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション

そのために、とにかく原作を読み込みました。原作は大ヒットしていて、たくさんの読者がいらっしゃって、そのひとりひとりが青野くんの音のイメージを膨らませている中での演奏担当なので、目に見えないプレッシャーを感じていて、大ファンの人たちに少しでも近づけるように、ちゃんと読まなければならないと思いました。自分が物語から何を感じたのか。それを、どのように音で表現すればいいのか。原作からどれだけのものを読み取れるのか、演奏家が楽譜からイメージを読み解いていくように、原作を読んでいきました。

原作を読みながら、東は音楽にかかわる人間として、迫力のある演奏シーンにリアリティーを感じ、作者の阿久井が綿密にリサーチを重ねたうえで描いていることを感じ取ったという。演奏家の視点で見るとよくわかる部分も多いゆえに、「細かい描写も気にして見ていましたが、いつの間にか(作品の世界に)すごく入り込んで読んでいました」と語る彼は、原作のどんな部分に魅かれたのだろうか。

演奏シーンはもちろんなのですが、それぞれのキャラクターが個性豊かなところですね。青野くんは当然として、秋音律子ちゃんの、まっすぐな気持ちとかヴァイオリンへの情熱とか、そういうところに青野くんが心を動かされたというのは、僕自身もよくわかります。音楽を一応仕事として、最近は日常的にやらせていただいていますけど、そうなってくると、自分の根底にあった「ただヴァイオリンが好き」という思いよりも、目の前に迫る本番というか、コンサートに向けて曲をどう仕上げるのかという意識が強くなってしまうので。この作品に接して、音楽に対する純粋な気持ちや自分がヴァイオリンを弾く意味みたいなものを思い起こさせてもらえて、それは演奏家が常に持っていなきゃいけない大事な気持ちだと思うので、グッと胸にくるところがありました。

それから原作の先々で描かれていくのですが、オーケストラ部の先輩も複雑な事情を抱えていることがわかって、それに気づいた青野くんがかける言葉とか、そのあたりも僕が青野くんのことをもっと好きになったポイントの一つでした。それぞれ本当に魅力的なキャラクターたちが揃っているから、名前を挙げていくのは大変ですけれど(笑)。

©阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション

音楽の収録で、演技を体験

劇中曲の東の演奏は、映像の制作がスタートするよりも前の去年夏、2日間にわたって収録された。今回のアニメ制作では、演奏家やオーケストラが演奏する姿がさまざまな角度からビデオで撮影され、その映像を基にしてアニメの原画が描き起こされている。東は収録前、縁の深い反田恭平(アニメ「ピアノの森」で、主人公・一ノ瀬海の師である阿字野壮介のピアノ演奏を担当した)に、「青オケ」で演奏を行うことになったと報告。「なかなか得られない機会だから、ぜひ頑張って!」という激励を受けたという。とはいえ、演奏収録では、普段の演奏では考えられないような場面も多かったようで……。

シーンに合わせて、楽曲をいろんなバージョンで弾くのですが、その場面の「尺」があらかじめ決められていたんです。「多少は前後しても、この時間内に演奏を収めてほしい」という注文を受けて、それが多いときだと20秒くらい違っていたんですね。それを不自然に聴こえないようにするために、音楽の流れを上手く前向きにしたりとか、そういった作業にかなり気を遣いました。一歩間違えると、ただ焦って弾いているだけの演奏になってしまうので。

ヴァイオリンを弾くときも「もっと笑顔で」と言われたりして、普段演奏するときには表情を気にして弾いたりしてないので、ちょっと戸惑いもありました(笑)。弾くところ以外でも、身振り手振り、例えば弾き終わった後に脱力して椅子にもたれかかるように座るとか、そういう動きも撮影されて。最初はいつものように座ったら「動きが全然足りない。もっと大げさに」みたいな指示があって、「これ、ほぼ演技じゃん!」みたいな(笑)。それでも、半ば俳優さんのような仕事を体験できて、すごく楽しかったですね。また、その演奏も自分としての演奏ではなく、青野くんという人物になりきっての演奏でした。子どものころに、著名なヴァイオリニストの真似をしながら演奏する、みたいなことをやっていましたが、それを本気でやる機会はなかったので、すごく貴重な経験になりました。

©阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション

音楽の収録時には、青野を演じる声優はまだ決まっていなかったため、青野がどんな声で喋るのか、それも自分で想像しながら演奏を行ったという。そこで収録された演奏と、青野役・千葉翔也の声が組み合わされた作品を見て、どんな印象を持ったのだろうか。

千葉さんが演じている青野くんの声を最初に聞いたのは、事前に放送されたPVでした。僕が思い描いていた青野くんの声を、そのままというか、より美しく、ハイクオリティーに届けてもらったような印象で、その声と自分の演奏が放送の中で合わさって流れているのを聴いたときには、鳥肌が立ちました。そこで青野くんの姿を、初めて「目撃」できたような気がして。
放送が始まるころに千葉さんとお話しする機会をいただいたのですが、千葉さんがアフレコでセリフを言うときにも、僕の演奏を聴きながら録られていたとお聞きして、演奏からもインスピレーションをもらった、ということをおっしゃられたので、僕としても本当にうれしかったですね。アニメを見ていても、千葉さんだからこそ表現できる青野くん像がそこにあると感じています。
だから、仮に、このアニメが長く続いて、また青野くんの演奏を担当させていただけるとしたら、声を含めた青野くんの具体的なイメージを持ったうえで演奏に臨めるので、さらに深いところまで演奏で表現できるのではないかと思っています。そんな日が訪れることを、心から願っています。


ソロとオーケストラ、それぞれの魅力は

「青のオーケストラ」の第12話「オーディション」には、オーケストラ部顧問の鮎川が、青野の演奏を「お前の演奏は『ソロ』なんだ」と指摘する場面がある。演奏技術の高さを認めながらも、それはオーケストラが求めている音ではない、と。そこで青野は、将来のコンサートマスター候補として自分がどんな演奏をすべきなのかを考え始めることになる。実際に、ソリスト、オーケストラ・メンバーの両面で活動している東は、それぞれの違いや魅力、コンサートマスターについて、どのようにとらえているのだろうか。

ソロは、とにかく自分がやりたい音楽や、目指している音楽を追求できる、表現できるというのが最大の魅力だと思っています。一方、オーケストラの場合は、基本的には指揮者の解釈をいかに再現するかが大事で、指揮者と一緒になって理想とする音楽を、あれだけの人数がひとつになって演奏する。でも、それはメンバーが自分を押し殺して弾くのではなくて、「比率が違う」ということですね。オーケストラで、さまざまな楽器の音が重なってひとつの音楽を表現できたときの喜びというのは、ソロとは違う充実感があるので、それぞれベクトルの違う喜びがあるんじゃないかと思っています。

コンサートマスターについて言えば、いろんなスタイルがあって、その違いもおもしろいポイントなのですが――僕はコンマスの方にお会いする機会が多いのですが、拝見していて、ものすごく勉強になります――合図の出し方ひとつにも、それぞれ個性がありますね。ただ、共通しているのは、どなたにもリーダーシップがあること。コミュニケーション能力はもちろんですし、本当にいろんな能力に長けていなければ務まらない役職なんだろうなと感じています。

ところで、青野の父親である青野龍仁の演奏を劇中で担当しているのは、世界の超一流オーケストラとの共演を重ねて、当代屈指の名ヴァイオリニストとして知られるヒラリー・ハーンだ。彼女が作品に参加するという話を聞いたときの印象も聞いてみた。

とにかく驚きでした。小さなころからCDを買って聴いてきた方で、家にCDが何枚もありますし、そんな方が(演奏上は)父親にあたる位置で参加されるというのは、本当に驚きで、すごく不思議な気持ちになりました。勝手にですけれど、急に距離が縮まったような感覚になって……。青野くんはお父さんにヴァイオリンを習っている設定なので、もし僕がヒラリー・ハーンさんに指導を受けていたら、いま自分がどんな演奏をしているんだろうと考えると、すごく興味深いですね。
いつかは親子共演? いやいや、それは……(笑)。そんな話が出てくるように、これからがんばっていきたいと思っています。

©阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション

今回、青野の演奏を担当したことで、「青のオーケストラ」に関連する演奏会にも数多く参加することになり、大学院生として学びつつ、ソロ、室内楽、JNOなど多岐にわたる演奏活動、NHKクラシック番組への出演など、超多忙な日々を過ごすことになった東。これまで経験したことのないような毎日は、とても楽しく、充実しているという。中でも5月7日に東京芸術劇場で開催され、NHK交響楽団との初共演となった「N響×青のオーケストラ コンサート」には、特別な思いがあったようだ。

それはもう、本当に夢のような……。子どものころから「N響アワー」を家族で見ていて、それこそN響と共演している気持ちで、テレビの前でヴァイオリンを弾いたりしていた自分が、実際にステージに立てるなんて、やっぱり夢のような経験でした。N響の弦楽メンバーのみなさんとは何度か共演していましたが、秋山和慶先生指揮のフルオーケストラにも参加できるというのは、うれしさ、緊張感、プレッシャー……、そういういろんな気持ちが、演奏会当日まで混在していました。それゆえに前日はあまり寝つけずに過ごしてしまいましたが、「最終的には、もう目の前の曲に集中して弾くのみ」と考えて、本番に臨んで。本番では、自分でも驚くほど落ち着いて演奏ができて、本当に特別な時間を過ごすことができました。

写真提供:NHK交響楽団
写真提供:NHK交響楽団

そうした特別な経験は、これからの東自身の演奏にも大きくフィードバックしていくことになるだろう。かつて反田恭平は、「ピアノの森」を経験した後に、2021年ショパン国際ピアノコンクールで第2位に輝いた。今後、海外での活動を視野に入れているという東にも、同じような活躍を期待したいところだ。そんな東から、ステラnet読者へのメッセージは……。

このアニメでも描かれていますが、やっぱり音楽は人と人の心をつなぐ存在になりうるものだと思いますので、クラシック音楽の魅力を感じ取っていただけたら、うれしいですね。それを伝えられる存在の一端になれれば、さらにうれしい(笑)。僕自身も、今後のアニメの展開を一視聴者としてすごく楽しみにしていますので、ぜひ一緒に見ていただければと思っています。

☆第2話「秋音律子」のクライマックス、夕焼けの河川敷で青野一がヴァイオリンを弾く場面で使用された「カノン」を東亮汰が新録音!
♪パッヘルベル:カノン(無伴奏ヴァイオリン版/編曲:萩森英明)
https://RyotaHigashi.lnk.to/canonPR

東亮汰(ひがし・りょうた)
1999年6月3日生まれ、神奈川県出身。第88回日本音楽コンクール・ヴァイオリン部門第1位。桐朋学園大学音楽学部を首席で卒業し、特待生として同大学大学院音楽研究科修士課程2年に在学中。ソリストとして、NHK交響楽団、東京交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、神奈川フィルハーモニー管弦楽団などと共演。コンサートマスター、アシスタント・コンマスとして、読売日本交響楽団、東響、神奈川フィルなど、国内主要オーケストラへの客演も重ねている。反田恭平がプロデュースするJapan National Orchestraの最年少コアメンバー。Eテレの「クラシックTV」をはじめ、メディア出演も多数。ユニバーサル ミュージックよりデジタル・シングル「パッヘルベル:カノン」が配信中。

Twitter: @HigashiRyota_Vl
Instagram: eastviolin

取材・文/銅本一谷