現在放送中のドラマ10「しあわせは食べて寝て待て」が、5月27日(火)に最終回を迎える。第1話のNHKプラスでの視聴数(同時または見逃し配信)が、連続テレビ小説(朝ドラ)と大河ドラマをのぞく、NHKドラマ作品の中で歴代1位を獲得し、その後の回でも記録的な視聴数を集めている。

ドラマの主人公は、こうげんびょうにかかって会社を辞め、家賃5万円の団地に引っ越してきた麦巻さとこ(桜井ユキ)。隣に住む大家の鈴さん(加賀まりこ)と、鈴さんの家の居候で、薬膳の知識を持つ司(宮沢氷魚)などとの出会いから、さとこの生活にも少しずつ変化が訪れるという物語。

人当たりはいいものの、人との距離を一定以上に保ち、多くを語らない司が山へと旅立ち、鈴さんが「司、もう帰ってこないつもりね」とつぶやくところで第8話が終わったが、最終回で司はどうなってしまうのか? 司を好演する宮沢氷魚に話を聞いた。


大河ドラマ「べらぼう」の撮影現場でも、「観てるよ」と言われました

――第1話のNHKプラスでの視聴数が、朝ドラと大河ドラマをのぞいて、ドラマ作品で歴代1位になりましたね。

宮沢 ほのぼのとした物語で、進み具合もゆっくりですが、この作品を必要としている人に届いてくれればいいなという思いがあったので、歴代1位になったことを聞いた時、僕が想像していた以上に、みなさまにこの作品が届いているという印象を受けました。それと同時に、日常や人の心に寄り添ってくれるこの作品が、こんなにもたくさんの人に必要とされていたんだっていうことにも驚きました。

今、同時に大河ドラマ「べらぼう」の撮影もしているんですけど、現場で、「観てるよ」「あのドラマが癒やしになってるんだよね」というキャストさんやスタッフさんが結構多いんです。僕の家族や友達、知り合いからも連絡が来ていて、「このドラマを観ていると、日々抱えているものや、肩の荷が下ろせる気がする」と言われたりもしました。すごくうれしいですね。

――原作を読んだ時、司という人物に対してどのような印象を持ちましたか?

宮沢 この作品への出演が決まって、すぐに原作を取り寄せて読んだのですが、本当に柔らかくて優しい世界観で、大きな出来事は起きないのですが、逆に親近感が湧きました。日々の小さな出来事や変化を楽しみつつ、時には傷つき、どう乗り越えていくかっていう、リアリティのある日々の進み方が見事に描かれていたからです。だから、司という人物を通して、この世界で生きていく姿が鮮明に見えてきたので、物語に気持ちが入り込みやすかったです。

司はすごく優しくててきな人ですが、どこか見えてこない部分があります。そこが司に興味を持ってもらえるポイントになるので、そんなところも意識して、ドラマの中の司を演じたいと思いました。

――司は穏やかで、適度な距離感で人と接する一方、自分を多く語らない人物です。第1話では、司に薬膳を教えてほしいというさとこに「申し訳ないけど、病人には責任が持てないので」と冷たく拒絶する場面はインパクトがありました。冷たい態度をとってしまうこともある司の人物像をどうとらえていますか?

宮沢 司は一見すごく優しいし、薬膳のことも詳しいし、人としてすごく出来すぎているような印象を持つ人もいると思うんですけど、でも決してそうではありません。第5話で明らかになりましたが、司には司なりの苦悩や、つらい過去があって、日々戦っています。人間誰しもそうですが、司にも弱さがあるので、そこはしっかりと表現したいと思いました。第1話でさとこを突き放してしまったあの場面もそうですが、悪気は全くないんですけど、司はさとこに冷たく接してしまうような不器用なところがあります。鈴さんを思うあまりに表現が冷たくなってしまうところも、人間らしくていいなと感じました。

この作品は、誰かが誰かを助け、その人も誰かに救われて、というように、お互い助け合いながら生活している人たちの集まりです。僕も普段、できないことや不安なことがたくさんあるけど、誰かがサポートしてくれて日々生きていると感じます。自分の弱さを認め、誰かの助けも借りつつ、少しでも成長していけたらいいなと思うので、司という人物を演じながら、そのことを再認識しています。

――第5話では、さとこと一緒に山に登った司が、自分の過去や、鈴さんの家に居候するようになった経緯が明らかになりました。どのような思いで演じられましたか?

宮沢 今まで描かれてこなかった部分が明らかになるので、演じていてすごく楽しかったですね。司は1人で生きていくことを決めたというか、そうなりかかっていたものの、鈴さんと出会い、一緒に生活をすることで、また誰かのために、自分の時間を費やして、それで自分が幸せを感じるようになります。司が感じたであろう純粋にうれしい気持ちと、それを受け入れていいのかっていう葛藤をしっかり演じたいと思っていました。

司は鈴さんといる時間が楽しいのだけど、自分で自分のことをわかっていないところもあります。誰かを傷つけてしまう可能性があるかもしれないから、人と距離を置きたくなってしまう司ですが、そんな部分を埋めてくれたのが鈴さんの優しさで、司も最終的には、そこに甘えてみようかなと思うようになります。司にとって大きな成長が見られた回で、司の新しい一面を見せられたのはよかったと感じています。

――司と宮沢さんご自身に共通する部分はありますか?

宮沢 僕は司ほど優しくはないかも(笑)。僕は5人家族で、3人兄弟の長男ですが、長男だから必然的に、下の兄弟2人のために我慢せざるを得ない時があり、自分の本当に思っていることや、やりたいことを後回しにしてきた部分がありました。そういう状態が続くと、自分が本当に何を欲しているのか、何がしたいのかがわからなくなってくるんです。

だから、第5話で、自分のことがわからなくなり、誰かと親密になりすぎることへの恐怖感を抱く司を演じている時は、自分にもリンクする部分があると感じました。でも、結局のところ誰かがいないと自分が成り立たないし、信頼している人が周りにいないと生きていけない。時には葛藤もあるけど、自分の居場所は鈴さんのいる場所なんだと思い至るところは、自分も同じかもしれない、と共感できました。


桜井ユキさん、加賀まりこさんとは初共演!

――さとこ役の桜井ユキさんや、鈴さん役の加賀まりこさんとは初共演ですか?

宮沢 そうです。桜井さんは、本当にさとこそのまま! さとこの人を思いやる気持ちや優しさといった要素は桜井さんの中にあるものだと感じました。この作品でお会いするまでは、桜井さんにはかっこよくてクールという印象があったんですけど、実際にお会いすると、すごく柔らかい方。桜井さんが他のお仕事などでどこかに行くと、必ずお土産をくださるんですよ。別の場所にいても、この作品のキャストやスタッフさんのことも常に考えていてくださっているんだなと、桜井さんの優しさを感じました。

加賀さんは、すごく面白い方! 加賀さんの過去の作品はたくさん拝見していましたので、初顔合わせの時はものすごく緊張しました。

加賀さんは、現場で結構いろんなことを提案してくれるんです。第2話ですき焼きを食べ終わった後、司と鈴さんがリモコンを取り合ってぐるぐる走り回るのも、第5話で司が鈴さんの髪を切るシーンも、加賀さんのアイデア。加賀さんのちょっとした遊び心で、司やさとこの自然な表情やリアクションが引き出され、それぞれのキャラクターの幅も広がったと思います。

――司は薬膳に詳しく、料理が上手ですが、宮沢さんはいかがですか。また、ドラマで薬膳のことを知って、変化はありましたか?

宮沢 一人暮らしは長かったですし、アメリカに留学をしていた時はアパートを借りて自炊していたので、10代から料理をしています。ただし、自分が食べるものなので、見栄えを気にせず、お腹いっぱいになればいい、という感じでした。この作品で薬膳に出合ってからは、食材の効能を知った上で何かを作ることで、料理が楽しくなりました。何かを意識してみるだけでも、自分の体と心にいい感じがしますし、自然とどんどんポジティブな気持ちになります。

第2話の、「薬膳って、ガチガチにやらなくてもいいと思うんですよね」という司のセリフが好きなんですけど、本当にその通り。薬膳はお金も時間もかかるし、ちゃんと知識がないとできない、難易度の高いものだと思っていました。でも、この作品では日常の中で薬膳をうまく生かしていて、素敵だなと感じました。毎日忙しいのですが、ちょっと余裕がある時に、無理のない範囲でいろいろやってみたいと思っています。

――ドラマでは、いろんな料理が出てきましたが、印象的なものはありましたか?

宮沢 第1話の「肉だんと野菜のスープ」は衝撃でしたね。自分がどんな効能があるかを説明しているだけあって、それを知った上で食べると、自分の体にすごく染みてきました。セリフを言いながら学びになっています。

第4話で天ぷらが出てきましたが、特にあの中にあった鶏ささみの天ぷらはすごく美味おいしくて感動しました。ドラマでは説明していないのですが、前日に鶏ささみを梅酢に漬けていて、すごく柔らかくなっているんです。梅の風味もあって、ひと手間加えるだけで全然違ったものになることを実感しました。

――いよいよ最終回の放送が目前に迫っています。これから観る人にメッセージをお願いします。

宮沢 司が団地から離れたことで、団地のみんなは司という人物がどれだけ必要だったかということに気づきます。一方の司も、自分は1人でもやっていけると思っていたものの、鈴さんやさとこなど、自分の身近にいた人たちの存在の大きさに気づくんですよね。距離をとった時にはじめて気づくことはたくさんあると思うので、それに気づいた時、司をはじめ、みんながどんな行動を取り、どういう感情の変化が生まれるのかが、最終回の見どころの一つ。まだ謎が多い司ですが、最後、どうするのかということは、たぶん本人も途中まではわかっていないと思うので、司の心情の変化も楽しんでいただけたらうれしいです。

【プロフィール】
みやざわ・ひお

1994年、アメリカ・カリフォルニア州生まれ。2017年、ドラマ「コウノドリ」第2シリーズ(17)で俳優デビュー。2020年 連続テレビ小説「エール」、2022年 連続テレビ小説「ちむどんどん」に出演。2023年 映画『エゴイスト』で、アジア全域版アカデミー賞「第16回アジア・フィルム・アワード」(AFA)、毎日映画コンクールでは助演男優賞、日刊スポーツ映画大賞石原裕次郎賞を受賞。現在、大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」にも出演中。

【あらすじ】
麦巻さとこ(桜井ユキ)。週4日のパートで質素に暮らす38歳、独身。
「一生つきあわなくてはならない」病気にかかったことから生活が一変。
会社を辞め、新しい住まい探しを余儀なくされる。
見つけたのは築45年、家賃5万円の団地。隣に住む大家・鈴さん(加賀まりこ)と、訳あり料理番・司(宮沢氷魚)を通じて、旬の食材を取り入れた食事で体調を整える“薬膳”と出会う。
地味だけど身体においしそうな薬膳ご飯とたおやかな団地の人間関係を通して、
心身を取り戻していくさとこは、身近にあった自分次第のしあわせに気づいていく。
かゆのように、おなかの底からじんわりと温かくなる物語。

ドラマ10「しあわせは食べて寝て待て」(全9回)

毎週火曜 総合 午後10:00~10:45
毎週金曜 総合 午前0:35~1:20 ※木曜深夜(再放送)

原作:水凪トリ『しあわせは食べて寝て待て』
脚本:桑原亮子、ねじめ彩木
音楽:中島ノブユキ
出演:桜井ユキ、宮沢氷魚、加賀まりこ/福士誠治、田畑智子、中山雄斗、奥山葵、北乃きい、西山潤、土居志央梨、中山ひなの、朝加真由美 ほか
演出:中野亮平、田中健二、内田貴史
制作統括:小松昌代(NHKエンタープライズ)、渡邊悟(NHK)

兵庫県生まれ。コンピューター・デザイン系出版社や編集プロダクション等を経て2008年からフリーランスのライター・編集者として活動。旅と食べることと本、雑誌、漫画が好き。ライフスタイル全般、人物インタビュー、カルチャー、トレンドなどを中心に取材、撮影、執筆。主な媒体にanan、BRUTUS、エクラ、婦人公論、週刊朝日(休刊)、アサヒカメラ(休刊、「写真好きのための法律&マナー」シリーズ)、mi-mollet、朝日新聞デジタル「好書好日」「じんぶん堂」など。

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