毎週火曜に放送中のドラマ10「しあわせは食べて寝て待て」は、水凪トリの同名漫画が原作。完治が難しいといわれる膠原こうげん病にかかって生活が一変してしまった女性が主人公。家賃を抑えるために引っ越した団地で薬膳の考え方に出合い、少しずつ心身を取り戻していく物語だ。

主人公の麦巻さとこを演じるのは、連続テレビ小説「虎に翼」の華族の令嬢・桜川涼子役で注目を集めた桜井ユキ。さとこに共感する部分や、実生活に取り入れているという薬膳のことなどを聞いた。


さとこを“かわいそうな女性”という感じにはしたくない

――原作漫画を読んで、どのような印象を持ちましたか?

桜井 「しあわせは食べて寝て待て」というタイトルを目にした時は、柔らかくて、ほっこりとした日常を描いた作品なんだろうなという印象でしたが、原作を読んでみると、そんな言葉では言い表せないくらい奥深い作品だと思いました。日々の葛藤や、誰しもが抱える悩み、壁にぶつかった時ってこうなるよねといった、共感できる部分の描き方がすごく自然で、一つ一つを身近に感じられる作品だなと思いました。

――さとこという役柄に対しては、どのように感じましたか?

桜井 さとこは病気を抱えてしまい、母親にも「人生つまずいちゃうものなのね」と、少し心がズキっとなる言葉をかけられてしまいます。それでも私は、さとこを“かわいそうな女性”という人物像にはしたくないと思いました。

私が、さとこをすごく素敵すてきだなと思うところは、周りが発している情報のキャッチ能力。団地の大家である鈴さんに「引っ越して来なさいよ」と言われて飛び込んでみる勇気や、人の言葉を素直に聞き入れる柔軟さもさとこの強みであり、尊敬できる部分です。

あと、さとこは人に委ねていないんです。情報をキャッチしたら、自分で実践をしてみる。それがダメだったとしても、人のせいにすることは絶対になく、そういったところもさとこの好きな部分ですね。


スーパーで手に入る食材でも薬膳を実践できるのが意外

――さとこは、加賀まりこさんが演じる大家の鈴さん、宮沢氷魚さんが演じる、薬膳に詳しい司など、さまざまな人と交わりながら日常を過ごしていきます。共演者のみなさんはどのような感じでしたか?

桜井 みなさん、本当に役とぴったりだと思いました! みなさんが持っている雰囲気や空気感が、役と通ずる部分が多いんです。加賀まりこさん演じる鈴さんは、本当にチャーミングでパワフルで、人の懐にすっと自然に入ってくる魅力があるのですが、それは加賀さんご自身にもすごく感じました。人を前に引っ張っていく力強さもあって、お芝居をしている時も、力強く、でも優しく引っ張っていってくださる感覚があるんです。

司役の宮沢さんは、とても実直で柔らかい空気感をお持ちの方です。司は、口数が多いキャラクターではないのですが、そのひと言ひと言に説得力があり、さとこの救いになっていきます。司が発する言葉や優しい空気感は宮沢さんそのままですし、宮沢さんだからこそ、司という難しいキャラクターをリアリティーをもって成立させられているのだなと思います。みなさんが役とリンクしている部分が多いので、私もお芝居する上ですごく救われています。

――毎話登場する、薬膳の考え方を取り入れた料理も本作のみどころの一つですね。

桜井 もともと薬膳の火鍋がすごく好きで、よく食べに行っていました。でも、いざ自分で作るとなると、手に入りづらくて高価なスパイスや材料を購入しなくてはいけない、というイメージがあり、自宅でやってみようと思わなかったんです。

でも、この作品を通して、薬膳は日常にある食材で実践できる、もっと身近なものであることを知りました。第1話では、鈴さんが風邪気味のさとこに生の大根をかじることを勧める場面がありましたが、スーパーで手に入る食材でも薬膳を実践できるのが意外でした。

ニラはデトックス効果があるというのを聞いたので、最近は常に冷蔵庫にニラをストックしています。ニラは食物繊維が豊富だからか、お腹の調子がいい気がします。また、さとこが「黒い食材は老化にいい」と言っていたので、ニラに黒ゴマやニンニクを入れた炒め料理を作ったりしています。時間がなくても、すぐに作れるのがいいですね。


さとこの頑張りたくても頑張れない部分はすごく理解できる

――俳優という仕事柄、もともと健康や食には気を遣っていますか?

桜井 野菜と、納豆や漬物などの発酵食品はるようにしています。忙しくて時間がない中で凝った料理を作るのはなかなか難しいので、さきほどのニラの炒め物みたいに、時間やストレスがかからず、毎日続けられる範囲内での健康食は意識しています。

司も、「薬膳ってガチガチにやらなくてもいいと思うんですよね」と言っていましたが、本当にそう思います。自分の生活リズムに合った向き合い方がベストだな、と私も思って実践しています。

――さとこは膠原病になったことで、今まで当たり前のようにできていたことができなくなり、将来への不安を抱えてしまいます。先の見えない気持ちを抱くさとこの心情は、桜井さんに重なる部分はありますか?

桜井 ドラマの前半部分で描かれる、さとこの葛藤はすごく理解できます。私は、19歳の時に福岡から上京したのですが、東京になじめなくて地元に戻ったことがあります。それだけに、さとこの頑張りたくても頑張れない部分はすごく理解できるんです。

私が再び上京しようと決められたのは、東京に姉がいたからです。姉が仕事で東京にいるタイミングなら、私も東京に行けるかもしれないと思ったんです。さとこにとっての鈴さんのように、「この人のところに飛び込めばいけるかもしれない」という感覚がありました。

人との関わりがしんどいと思う時もありますが、一歩を踏み出すきっかけが人だった、ということはよくありますよね。私も、小さな一歩の積み重ねと、出会った人たちに手助けしてもらって、今があります。私は「やらない後悔よりやった後悔」という考えなので、さとこのことが「わかるよ!」という感覚がすごくあります。

――第4話で、「ネガティブ・ケイパビリティ」というキーワードが出てきます。自分ではどうにもならない状況を持ちこたえる能力のことで、できない自分を認める、ということでもありますが、桜井さんはこの考え方についてどのように感じましたか?

桜井 人って、自分を認める以前に、良くも悪くも自分から目をそらしがちだと思うんです。だから、まず自分自身としっかり向き合うところから始める必要があると思っています。私自身がそれをなんとなく意識できるようになったのはここ数年ぐらいの話で、まだまだです。できない自分を認めることができてしまえば、きっと視野は広がるのだろう、という感覚もあります。私はまだそこまで行けていませんが……。だから、「ネガティブ・ケイパビリティ」という言葉を台本で見た時は、私もハッとさせられました。


みなさんにちょっとした優しさを届けられたら

――本作のストーリーと同様に、「ドラマ自体も丁寧に作られていていい」という感想が寄せられていますが、実際に撮影に参加している桜井さんはどう思われますか?

桜井 丁寧に作られている、ということは私もすごく感じています! 「虎に翼」の時もそうだったのですが、どの衣装をとっても、「ここはこういう場面だから、この生地の方がいい」などと、スタッフの方がこだわって選んでくださっていました。このドラマも、「さとこの部屋の小物は、使い込んだものの方がいい」ということで、スタッフさんが、自分たちの家からコップなどを持ってきてくださっているんです。

みなさんのこだわりがたくさん詰まっていて、それがドラマの世界観を作り上げているんだな、ということを強く感じています。

――ドラマを観ているみなさんにメッセージをお願いします。

桜井 人が何に苦しんでいて、何に幸せを感じるかは、本当にその人にしかわからないもの。頑張ったり、前に進んだりすることが全てではないと感じています。なので、人目を気にしすぎず、頑張りたくない時は頑張らなくていいし、立ち止まりたい時は立ち止まっていい。そんなメッセージを感じてもらえるドラマじゃないかなと思っています。ほっと一息ついてもらえるドラマになっていると思うので、みなさんにちょっとした優しさを届けられたらいいなと思っています。

また、ドラマの前半では、さとこをサポートしてくれる人が集まってきて、その人たちから何かをもらうことが多かったんですけど、後半になるにつれて、さとこの方が誰かの手助けをできるようなっていきます。私も演じていて、さとこの成長を実感しているので、そんな変化も観てもらえるとうれしいです。

【プロフィール】
さくらい・ゆき

1987年2月10日生まれ 福岡県出身。24歳のデビュー以来、話題のドラマや映画に多数に出演。2019年に放送されたNHK主演ドラマ「だから私は推しました」では、第46回「放送文化基金賞」演技賞を受賞。昨年はNHK連続テレビ小説「虎に翼」、TBS系ドラマ「ライオンの隠れ家」などに出演。映画『#真相をお話しします』が4月25日、『フロントライン』が6月13日公開予定。

【あらすじ】
麦巻さとこ(桜井ユキ)。週4日のパートで質素に暮らす38歳、独身。
「一生つきあわなくてはならない」病気にかかったことから生活が一変。
会社を辞め、新しい住まい探しを余儀なくされる。
見つけたのは築45年、家賃5万円の団地。隣に住む大家・鈴さん(加賀まりこ)と、訳あり料理番・司(宮沢氷魚)を通じて、旬の食材を取り入れた食事で体調を整える“薬膳”と出会う。
地味だけど身体においしそうな薬膳ご飯とたおやかな団地の人間関係を通して、
心身を取り戻していくさとこは、身近にあった自分次第のしあわせに気づいていく。
かゆのように、おなかの底からじんわりと温かくなる物語。

ドラマ10「しあわせは食べて寝て待て」(全9回)

毎週火曜 総合 午後10:00~10:45
毎週金曜 総合 午前0:35~1:20 ※木曜深夜(再放送)

原作:水凪トリ『しあわせは食べて寝て待て』
脚本:桑原亮子、ねじめ彩木
音楽:中島ノブユキ
出演:桜井ユキ、宮沢氷魚、加賀まりこ/福士誠治、田畑智子、中山雄斗、奥山葵、北乃きい、西山潤、土居志央梨、中山ひなの、朝加真由美 ほか
演出:中野亮平、田中健二、内田貴史
制作統括:小松昌代(NHKエンタープライズ)、渡邊悟(NHK)

兵庫県生まれ。コンピューター・デザイン系出版社や編集プロダクション等を経て2008年からフリーランスのライター・編集者として活動。旅と食べることと本、雑誌、漫画が好き。ライフスタイル全般、人物インタビュー、カルチャー、トレンドなどを中心に取材、撮影、執筆。主な媒体にanan、BRUTUS、エクラ、婦人公論、週刊朝日(休刊)、アサヒカメラ(休刊、「写真好きのための法律&マナー」シリーズ)、mi-mollet、朝日新聞デジタル「好書好日」「じんぶん堂」など。

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