107歳で亡くなった美術家・篠田とうこうの人生哲学を短い言葉で伝える「ことばへん」と、これまでの人生を写真と文章で振り返る「人生篇」。2部で構成された、桃紅最後の著作。

世界的に活躍された書家で美術家の篠田桃紅さんが、3月1日(2021年)にお亡くなりになりました。3月28日が誕生日で、この本も108歳の誕生日に刊行できるよう準備されていたもの。桃紅さんの、書のような墨絵のような独特の世界観の作品が大好きでした。残念でなりません。

桃紅さんは、1913(大正2)年、満州生まれ。6歳の年の正月から、風流人のお父様から書の手ほどきを受けたそうです。その独創的な作品は、戦前の日本では評価されませんでしたが、運命が変わったのは戦後。

GHQの将校の間で「高度に抽象化されたアート」と絶賛され、1956年には招待されて単身渡米。多くの芸術家たちと交流し、かの地のアート界にも大きな影響を与えました。

この本にはたくさん写真が掲載されていますが、ボストンの川べりに立つ、着物姿の桃紅さんがとてもかっこいい。そして、扉を開いた最初のページ。

「人は結局孤独。一人。人にわかってもらおうなんて甘えん坊はダメ。誰もわかりっこない」

ずっと一人で生きてきた桃紅さんらしいしんらつな言葉です。また、
「若い時は考えられなかったことを、老いてからずいぶん感じ、知るようになったから、やっぱり長生きしてよかったと思います」
とも語っています。

生涯現役で作品を作り続けた桃紅さん。教えられることばがたくさん詰まっています。心よりご冥福をお祈りします。

(NHKウイークリーステラ 2021年7月2日号より)

北海道出身。書評家・フリーライターとして活躍。近著に『私は本屋が好きでした』(太郎次郎社エディタス)。