〝170歳〟の海女と水産大学校卒の孫の、海の物語。海女たちが作成する海図には、漁場や海底の姿、そして沈没した戦時中の潜水艦や幽霊船? 老女たちの異色冒険小説。

著者の村田さんは1945年生まれで、 '87年に『鍋の中』で芥川賞を受賞されたベテラン作家。本作は、長崎県・五島列島とおぼしき魚見島を舞台にした、高齢海女と孫たちの物語です。

語り部は、海女のミツル。この島では、 85歳になった海女は年齢を倍にする「倍暦」という風習があって、ミツルもめでたく170歳に。ばあさまのことは皆、「あねさん」と呼びます。

ミツルに加え、一緒に暮らす孫の聖也と妻・美歌がいい味を出しています。聖也は本土の水産大学校を出たあと帰島、今は村役場勤務です。美歌は海女になりたいと島に来て、聖也と結婚。

先輩海女として祖母をたいへん尊敬していて、ミツルも孫の嫁がかわいくてしかたがない。とてもほほましい家族です。

そんな美歌のおなかには赤ちゃんがいます。ミツルにとってひ孫の出産が、この物語のクライマックスになっていきます。

一方、ミツルは同い年の小夜子と、いまだ現役で海に潜っています。そして次世代のために、自分たちが潜ってわかったことを細かく書き込んだ海図を作っています。

この海域には先の戦争で沈められた日本軍の軍艦や潜水艦が海底に残っているんです。そういうものも海図に書き入れることで、日本の近代史と島が重なり、長年海に潜ってきた海女がそれを回想していく。

じいさんにはわからない姉さんたちの歴史と世界があることを、つくづく感じました。

(NHKウイークリーステラ 2021年11月19日号より)

北海道出身。書評家・フリーライターとして活躍。近著に『私は本屋が好きでした』(太郎次郎社エディタス)。