探究心旺盛なノルウェー人姉妹がコンビを組んで、記憶の不思議をめぐる旅へ。生きることと記憶のよき関係を探る、人生の処方箋となりえる一冊。

ヒルデさんはノルウェーの作家でジャーナリスト、思想史学者。4歳下の妹・イルヴァさんは神経心理学者でオスロ大学准教授。「作家と神経心理学者姉妹の記憶をめぐる冒険」の副題のとおり、オストビー姉妹が記憶とは何かを探っていきます。

表紙には「海馬」とも呼ばれるタツノオトシゴが描かれていますが、タイトルの「海馬」は脳で記憶をつかさどる部位(形がタツノオトシゴに似ている)のこと。

また「潜水」は、神経心理学でよく知られる実験にちなんだもの。記憶と思い出す場所の関係を調べるもので、①桟橋の上で覚え桟橋の上で思い出す②水中で覚え水中で思い出す③桟橋の上で覚え水中で思い出す④水中で覚え桟橋の上で思い出す、の4通りを行います。

姉妹が行った実験結果は読んでのお楽しみですが、なかなかしゃれたタイトルですよね。

記憶するってどういうこと? 忘れるってどういうこと? という疑問を、さまざまな実験・研究の成果をひもときながら解説していきます。

普通3~4歳時の記憶はほとんど残りませんがそれはなぜなのか、いつまでも覚えていることとすぐ忘れてしまう記憶の違いなどなど。

にせの記憶は植え付けられるのか、という実験をヒルデさんの担当編集者をだまして(笑)行うのですが、記憶って結構あやふやなものなんだなあとわかってきます。作家と学者コンビが書いているので、とても面白くわかりやすく読める本です。

(NHKウイークリーステラ 2021年12月3日号より)

北海道出身。書評家・フリーライターとして活躍。近著に『私は本屋が好きでした』(太郎次郎社エディタス)。