「青のオーケストラ」 
毎週日曜 Eテレ 午後5:00~5:25
再放送 毎週木曜 Eテレ 午後7:20~7:45

※放送予定は変更になる場合があります。
【番組HP】https://www.nhk.jp/p/ts/3LMR2P87LQ/


一度はヴァイオリンを封印した少年・青野はじめを主人公にして、高校オーケストラ部の個性豊かなメンバーたちが奏でる青春アンサンブルドラマ、アニメ「青のオーケストラ」。

原作は、漫画家・阿久井真が漫画雑誌アプリ『マンガワン』とウェブ漫画サイト『裏サンデー』で2017年から連載している同名ウェブコミック。コミックス(既刊11巻)の累計発行部数は累計400万部(電子書籍を含む)を超え、ことし1月には第68回小学館漫画賞(少年向け部門)も受賞した人気作だ。

若い世代を中心に、「作品から音が聴こえてくる!」「これを読んで、楽器を始めました」と高い評価を受けており、今回、待望のアニメ化となった。
作者の阿久井真は、どんな思いを込めながら、この作品を描いたのか。そして、アニメ化をどのように受けとめているのか。阿久井と、担当編集者として作品に携わった『マンガワン』の小林翔副編集長に話を聞いた。


 「静」の部分の丁寧な作りに感激

―― アニメ「青のオーケストラ」の放送が始まりましたが、阿久井先生が番組をご覧になった率直な感想を聞かせてください。

阿久井 第一印象は「本当に丁寧に作っていただいているなぁ」というものでした。すごくうれしかったですね。私としては、演奏シーンはもちろんですが、アニメになるのであれば、丁寧な心理描写を大事にしてほしいと思っていたんです。青春ものを描くにあたって、「空気感」みたいなものを大切にしながら、登場する人物の会話の掛け合いとか、間とか、どういう季節でどんな光が差し込んでいるのかとか、担当の小林さんと相談しながら作ってきた作品だったので。
今後、オーケストラが演奏して「動」の部分も増えてくると思うのですが、その前の始まりの静けさというか「静」の部分をすごく丁寧に描いていただいたな、という印象です。特に、第2話で青野が河原で「カノン」を弾いた場面は、もうすばらしくて、何も言うことがありません。

――そもそもアニメ化という話が届いたのは、いつごろだったのでしょう?

阿久井 たぶん2年以上前だったと思うのですが……。小林さん、いつだったか覚えてますか?

小林 打診をいただいたのが、(海幕高校オーケストラ部の)定期演奏会のあたり。原作の6、7巻くらいの話を作っていたころですね。

――オファーが届いて、すぐに心は決まりましたか?

阿久井 漫画家としては、アニメ化は本当にうれしいことなので、「はい」としか言えないですよね(笑)。「ついに来たか!」という喜びがありました。それこそ私はNHKさんのアニメを見て育った身で、「メジャー」の(本田、後に茂野)吾郎くんと同世代なので、彼と一緒に育ってきたような印象を持っているんです。だから同じEテレで放送されると聞いて、とてもうれしかったですね。

ⓒ阿久井真/小学館

――ただ、これまで高校のオーケストラ部が舞台というアニメは、ほとんどなかったように思います。そのことに対する不安のようなものはありませんでしたか?

阿久井 正直に言ってしまうと、やはり題材が難しいものだったので、「本当にアニメにできるものなの?」という心配はありました。この作品を描き始めた当初は、映像化していただける前提で描いていなかったからです。例えば、これから登場する青野と佐伯直が一緒にヴァイオリンを弾く場面は、――今では、みなさんが「演奏バトル」と呼んでくださっていますが――、実際に音楽や映像にしたらどうなるのかとか、一切考えずに描いていたんですよ。いつかアニメになってほしいと思ってはいましたが、定期演奏会のシーンなどは「アニメにできるなら、してみろ」(笑)と思いながら、本当に力を入れて描いていたので。

それでも(アニメ制作の)現場を初期の段階から見せていただき、打ち合わせするスタッフさんの会話を聞いていて、「あ、これは大丈夫だな」という安心感を覚えたんです。第1話を見せていただいて、それが確信に変わりました。漫画では、ほんの一瞬しか登場しない演奏シーンも丁寧に描写されていて、「もう私は、ノータッチで大丈夫です」という感じですね。

―― 確かに、原作のコマとコマの間に流れている時間や象徴的なカットが、きちんとドラマになっている印象を受けました。第2話で青野が自分の鞄に教科書を入れる場面には、原作にはなかった「ヴァイオリン入門」が映っていますから、おそらく秋音律子に渡そうとしたのだろうな、とか。

阿久井 私としては、もうアニメに関しては全信頼を寄せていて、原作の小さな部分であったり、「ここまで作り込んでいなかったな」というところも、今後、おそらく映像にしていただけると思っているので、本当に感謝しかありません。登場するエピソードの時系列がアレンジされているところもありますが、私としては何も……。むしろ「ありがとうございます」と言いたいくらいです。

©阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション

青春と音楽ものは、相性がいい

――阿久井先生ご自身は、クラシック音楽やオーケストラとのつながりはあったのですか?

阿久井 私は(ヴァイオリニストの)葉加瀬太郎さんが好きで、葉加瀬さんのコンサートに行ったりしていたのですが、オーケストラの演奏を聴きに行った経験は、あまりなくて。でも、子どものころからヴァイオリンの音が何となく好きで、それこそ律子と同じように家にあるCDを聴いていて、そこに「カノン」とかが入っていたので、いま思えば、それがルーツなのかなと思っています。こういう作品を描くことになるとは、思ってもいなかったのですが。

というより、そもそも音楽を題材にした漫画を描こうと考えてなかったんですよ。漫画のジャンルの中で、音楽ものって本当に難しいというイメージを持っていたので、正直、手を出したくないなぁ、と。今でも「何で、こんなに難しい題材で描いているんだろう?」と、ふと思う時があります。

――その、目には見えない音楽を、あえて題材に選ばれた理由はどこにあったのでしょうか?

阿久井 小林さんと作品を作るときに、最初に「青春と音楽って、相性いいよね」みたいな話をしたことを覚えています。私はギャグ漫画が大好きで、新人のころはそういう作品を描いていたのですが、現在まで一貫しているのは「主人公の年齢が中高生」ということ。おそらく、自分の描きたいものがそこにあるんだと思うんですよね。その多感な10代の心情に音楽が添えられると、より感情が伝わりやすいかな、と考えたような……、小林さん、どうですか?

小林 そのとき阿久井さんと、スタジオジブリの「耳をすませば」の話をしたかもだけど、「ああいう、音楽がついて『この瞬間の初々しさ』みたいなものが伝わる作品って心に残るし、後で見返したくなる何かがあるよね」と、意見交換しましたね。僕はスポーツものも大好きなのですが、自分が幕張総合高校(劇中に登場する海幕高校のモデル校)のオーケストラ部出身なので、やっぱり「部活で音楽」みたいなものは、相性の良さもあって、その空気感にたまに触れたくなる部分があるんですよね。

――作品を描くまでの経緯は、原作第1巻の「おまけまんが」でも紹介されていますが、「音と向き合う高校生」をテーマにするにあたって、やはり小林さんの存在が大きかったのですね。

阿久井 そうですね。オケ部でヴァイオリンを弾いていた小林さんは、ある意味、作品のプロデューサー的な立場でもあるし、武田先生のモデルでもあります。

©阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション

小林 まあ、どうですかね?(笑) 題材的に自分の実体験は結構大きいし、音楽をやっていた経験は語れるので、それが阿久井さんのきれいな絵とうまく組み合わされたら、ちょっとおもしろい作品が作れるんじゃないかと思って、ご提案したところはあります。主人公たちを取り巻く大人の視点というか、「もう戻れない、あの時の音」というのは、この作品を作るための取材を阿久井さんとしながら、僕自身が「懐かしいけど、自分はもうここに戻れないんだ」という気持ちになったので、そういうものもお伝えしました。
(以下、後編へ)

→インタビューの後編は、こちら

阿久井真 (あくい・まこと)

2010年に、小学館第66回新人コミック大賞(少年部門)の応募作「RUSH」が佳作を受賞して注目を集め、2012年から『裏サンデー』で「ゼクレアトル〜神マンガ戦記〜」(原作:戸塚たくす)の連載を開始。2013年から同サイトでオリジナル作品「猛禽ちゃん」を執筆し、2015年からは劇場用アニメ「心が叫びたがってるんだ。」(原作:超平和バスターズ)のコミカライズを担当した。


小林翔 (こばやし・しょう)

2012年に小学館のウェブ漫画サイト『裏サンデー』、2014年にアプリ『マンガワン』を立ち上げ、副編集長を務める。千葉県立幕張総合高校シンフォニックオーケストラ部出身で、フルコンタクト空手有段者。編集者として担当した主な作品は「ケンガンアシュラ」「モブサイコ100」「灼熱カバディ」「ダンベル何キロ持てる?」など。いずれもアニメ化された。

 取材・文/銅本一谷