障害のある子どもたちも含め、広くボランティアで書道を教えている西にし​里ざと​俊とし​文ふみさん(52歳)。青森県立八戸第二養護学校の教頭先生で書家でもあります。23年前に5人の教え子と一緒に書道会を始めました。西里さんに作品作りの楽しさや子どもたちとの交流についてお話を伺いました。(前編はこちらから
聞き手/嶋村由紀夫

凹凸は削らず輝いて光らせる

——〝凸凹の書〞というのをキャッチフレーズにしていらっしゃいます。

西里 人間は誰でも凸凹があります。私にもあります。でも凸凹を削るのではなく、磨いて光らせるような指導の方が子どもたちは伸びるんですよね。今まで削り過ぎて何も残らないような指導をしてきたんじゃないかという反省もありました。

作品だけではなく、凸凹の良さを人づきあいや仲間づくりにつなげていければいいですね。一人一人の個性をお互いに認め合って、できないことや苦手なことはサポートし合うのがモットーです。

——教える難しさもあれば、楽しさもあるでしょう?

西里 最近は難しさはあまり感じず、みんなに会えるのがうれしくて、毎回楽しくてしょうがないですね。書き終わって笑顔で帰る姿には私の方が幸せを感じています。

——東京オリンピック・パラリンピックのあった2021(令和3)年に予定していた展覧会を、今年の7月に開催されたそうですね。

西里 7月の末に東京・北千住の大きなギャラリーを全部借り切って3日間開催しました。横が10メートル、縦が4.8メートルの超大作を2点、8メートル級を3点、その他6メートル、4メートルの作品など、大きな作品をたくさん展示しました。

——作品を評価してもらうのは、会員さんにとっては良いことだそうですね。

西里 いろんな方から褒めていただき、感想をもらうと、大きなエネルギーになります。自分たちもやればできるんだという力が体の中から湧き上がってきて、次につながりますね。だから展覧会は大事です。

——西里さんご自身も書道でたくさんの賞を取っていらっしゃいます。

西里 「創玄(書道会)展」の理事長賞や「毎日書道展」の秀作賞をいただきました。皆さんのおかげです。

——ご自身の作品作りも大変では?

西里 私自身がいい作品を書くことで、教えている先生も楽しんで書いているというのが会員の皆さんに伝わればいいですね。教えることだけ一生懸命で先生が自分の作品を書いていないというのではいけません。

——ご自身が書いている様子を見せると、会員さんたちも喜んでくれるでしょう?

西里 私が手本を書いたときに「先生うまいね」って褒めてくれる子もいて、うれしいですね。

——子どもさんの勢いの影響も受けますか?

西里 子どもたちがとてもいい表情で取り組んでいる姿を間近で見ると、私もたくさんのエネルギーをもらっているなと感じます。自分の作品作りの糧になっていますね。


神様に導かれた教師生活のスタート

——西里さんは、大学では教育学部ではなかったそうですね。

西里 はい、理学部で数学を専攻していました。それで高校で数学を教えようと思って教員採用試験を受けたのですが、肢体不自由の養護学校に採用が決まったんです。最初は右も左も分からない状態でしたが、目の前にいる子どもたちがかわいいなと思って勤務させていただきました。高校で書道を教えたい思いもありましたが、今から思えばその道で頑張りなさいと神様に導かれたような気がして感謝しています。

——ハンディのない子どもさんからも書道を教えてほしいと言われることはないのですか。

西里 私の会では当初からハンディのある方もない方も一緒に活動していました。また助け合って取り組む場面もできるかぎりつくるようにしています。例えば車椅子の会員さんが車椅子から降りて大きい作品を書くときに、ろう学校の会員さんが墨の入っているバケツを持って手伝う。そういうことで息を合わせるのも大事ですよね。

——今、西里さんは52歳。これからまだまだやりたいことがたくさんあるでしょう。

西里 はい、まず来年以降に会員何名かでユニットを作り、それぞれの個性を生かした作品を発表する予定があります。またメビウス症候群という非常にまれなハンディのある女性会員さんがいるのですが、その病気の協会の総本部がアメリカにあるんです。それもあって、いずれはアメリカで展覧会を開きたいですね。そうすれば多くの方々が見にいらっしゃるでしょ? それから書道以外の方とコラボして展覧会をできないかというのも考えています。私は書道で成長させていただいたので、書道で何か恩返しができるようにこれからも活動を続けていきたいですね。

インタビューを終えて 嶋村由紀夫
青森県で先生をしながら、自らの書を学び、子どもたちに23年も書を教えていらっしゃる姿には感動します。会員さんたちの作品の力強さ、思い切りのよさ、迫力はとてもすばらしい。西里さんが丁寧に優しく包んで教えているからだと思います。これからも皆さんの作品から刺激を受けたいと思います。

※この記事は、2022年7月19日放送「ラジオ深夜便」の「個性を大切に、認めあう」を再構成したものです。

構成/後藤直子、向川裕美
(月刊誌『ラジオ深夜便 』2022年11月号より)

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