【放送予定】
高等学校の部:10月8日(土)  Eテレ 午後1:00~午後4:20【生放送】
○ゲスト司会:上白石萌歌(俳優・歌手)○司会:浅野里香アナウンサー
○リポーター:ぺこぱ(シュウペイ、松陰寺太勇)

小学校の部:10月9日(日)  Eテレ 午後2:00~午後4:50【生放送】
○ゲスト司会:上白石萌歌(俳優・歌手)○司会:浅野里香アナウンサー
○スペシャルゲスト:日本廃品打楽器協会・山口とも、打楽器グループ「ティコボ」、ピアニスト・黒田京子

日本廃品打楽器協会・山口とも

中学校の部:10月10日(月・祝)  Eテレ 午後1:05~午後4:00【生放送】
○司会:浅野里香アナウンサー
○リポーター:ティモンディ(前田裕太、高岸宏行)
○スペシャルゲスト:DISH//


 「“青春って、すごく密”なので、そういうことは全部『だめだ、だめだ』と言われて、活動していてもどこかでストップがかかって、どこかでいつも止まってしまうような苦しい中で、本当に諦めないでやってくれた」

今年の夏の甲子園で初優勝を果たした、宮城の仙台育英高校野球部の須江航監督の言葉が印象深い。コロナ禍にかけがえのない青春時代を過ごした生徒たちの苦労が伝わってきて、胸が痛くなる。

もうひとつ、コロナ禍が生徒たちに大きな影を落とした活動がある。それは、「合唱」。大きな声を出して歌うことは、ウイルスの拡散にもつながる。合唱部としての活動は余儀なく休止となり、その後も大人数で歌うことを禁止されていた学校もあるという。

2020(令和2)年、“合唱の甲子園”といわれる「NHK全国学校音楽コンクール」(通称「Nコン」)が、感染拡大と参加者の安全と健康を鑑み中止された。1932年「児童唱歌コンクール」から始まり、1944年、1945年の2年間は戦争のために中断以降、2019年まで、その歌声はとぎれることはなかったのだが。

中止の知らせを聞いたとき、Nコンを目指す生徒たちの落胆する顔が浮かんだ。この年の「NHK紅白歌合戦」で、課題曲『足跡』を歌ったLittle Glee Monsterが涙を流しながら熱唱した姿は、まさにコンクールを目指し練習していた彼ら、彼女らを映し出す鏡のようだった。

そして、第89回を迎える今年のテーマは「声」。キャッチフレーズは「とどけ! この声」だ。コロナ禍を経て、なおもその先が見とおしにくい今だからこそ、「声」の力を感じてほしいという願いが込められ、各課題曲が選定された。

・小学校の部『とどいてますか』 作詞:谷川俊太郎/作曲:新実徳英
・中学校の部『Replay』 作詞:北村匠海/作曲:西尾芳彦&DISH// 編曲:田中達也
・高等学校の部『無音が聴こえる』 作詞:住野よる/作曲:松本望

なぜ「合唱」は人々の胸を熱くするのか?

かつて“合唱の甲子園”NHKホールの舞台に立った、Nコン卒業生に話しを聞いた。都内に住む2人の大学生、杉本芽依さんと水野夏穂さん。10年前のNコン小学校の部で金賞を受賞し、現在も「合唱」を続けている。

水野夏穂さんと杉本芽依さん。2人が通う成城大学にて。

水野「大学に入って合唱団一緒に入らない?って芽依ちゃんが誘ってくれて。またやりたいなって、吸い込まれるように参加しました(笑)」
杉本「迷いはありませんでしたね。だって、やらない選択肢はお互いないので(笑)」

しかし、希望に満ちた大学生活は一変、コロナとの戦いに変わる。合唱団の活動は制限を受け続け、年に2回の定期演奏会、ミニコンサートや卒業式での発表は中止となった。そんな中でも、SNSや動画配信サイトを使ったリモート演奏会等に積極的に参加し、歌うことをあきらめなかった2人。なぜ彼女たちは、「合唱」に対し前向きでいられたのか。

水野「歌うことで気持ちがシャンとするのが心地よくて。みんなの歌声がきれいにまとまった時は、ゾクゾクって鳥肌が立つんです」
杉本「合唱は、Nコンを目指していた小学生の頃からずっと唯一無二のもの。だからコロナにも負けたくなかった」
水野「でも、Nコンを目指してたときも大変だったよね」
杉本「そう、夏休みがなかった(苦笑)」
水野「勝てば勝つほど休みはなくなるけど。休みたいって思わなかったな」
杉本「うん、合唱中毒だったよね(笑)」
水野「ハモリ中毒(笑)。なんでもすぐにハモってたね」

Nコンを目指す合唱部員には、夏休みがない。
地区コンクールの予選が7月、本選が8月。それを通過するとブロックコンクールが9月から10月にかけて。その後間もなくNHKホールでの全国コンクールとなる。

本選を通過した生徒たちにとっては、長い緊張の日々が続く。
時には叱られ、何が足りないのか、どうすればもっとうまく歌えるのか悩むことも。そんなとき、顧問の先生が優しく明瞭に指導してくれたという。

水野「表情を変えずに歌っていると、前に鏡を置き、思いを込め表現することを教えてくださいました」
杉本「自由曲『僕だけのドラゴン』では、歌詞を一人ずつ朗読することで、気持ちを込めて歌う練習もしました」

生徒たちの表現力を引き出す先生の指導は、「合唱」と向き合う生徒たちの心にしっかりと届いていた。きっと、10年前のNHKホールには、彼らだけの“ドラゴン”が舞い、大空に飛び立ったことだろう。聴く人の胸を熱くするハーモニーは、「合唱」にかける生徒たちの青春と先生の情熱によって生まれるのだ。

改修を終え“合唱の甲子園”として復活したNHKホール。

杉本「もう一人で歌いたくないですね。卒業まで、ずっと合唱を続けていきたいです」
水野「私は大人になってもずっとハモっていたいな」
杉本「やっぱり、ハモリだよね(笑)」

コロナ禍も歌い続けた2人にとって、「合唱」は「密」な関係であるとともに、「蜜」のように甘く味わい深い思い出となっていた。

まもなく、「第89回NHK全国学校音楽コンクール 全国コンクール」が、7月に改修を終えたNHKホールを舞台に開幕する。今年は、“合唱の甲子園”で、どんなハーモニーが生まれるのか。彼らの苦くて甘い青春の1ページを目に焼き付けたい。

(取材・文/NHKサービスセンター 木村与志子)


「第89回NHK全国学校音楽コンクール 全国コンクール」
10/8(土)、9(日)、10(月・祝)“合唱の甲子園”から生放送。
https://www.nhk.or.jp/ncon/