NHK財団が主催している「第2回インフォメーション・ヘルスAWARD」。
情報空間に、「こんなものがあったらいいな」という皆さんのアイデアを募集した「アイデア部門」のグランプリに輝いたのは「きっかけ:異なる視点との出会いをSNSで」でした。 

このアイデアは、SNS上でユーザーが自分とは異なる多様な意見に触れるきっかけを提供するものです。人は「何を言われるか」よりも「誰が言っているか」に影響されやすいという心理の特性に注目し、利用者が好意的に思う人物が発信する、自分とは異なる意見を表示します。

グランプリ受賞アイデアはこちら ※ステラnetを離れます

受賞者の杉本すぎもとこうさん(追手門学院大学 心理学部心理学科 人工知能・認知科学専攻)に聞きました。

聞き手は松尾剛アナウンサーです。

松尾 剛アナウンサー(NHK財団)NHKラジオ第1「まんまる」(木)(金)などを担当

あれ、自分って健康なのかな?

――このインフォメーション・ヘルスAWARDに応募されたきっかけは何だったんですか?

杉本 最初は大学の担当の先生から「こういうのあるけど、なんかアイデア出してみない?」と教えていただいて、まずは「インフォメーション・ヘルスってなんやねん?」というところから調べ始めました。

――調べてみて、どう思いましたか?

杉本 例えば、高校の授業などでも「情報化社会では、玉石混交の情報を自分で見極める力が必要だ」と言われますが、それに「健康」というワードを重ねるとクリアに見えてくるな、と感じました。そして「あれ、自分って健康なのかな」って思いました。

SNSで自分から発信することはないのですが、X(旧ツイッター)やインスタグラムを普段見るので、なんかファストフードみたいなのをいろいろ摂取してるような感じがして、結構不健康なことをしてるのかな? ってヒヤッとしました。

杉本幸大さん(表彰式で)

――そこから「よし応募しよう」ってなったんですね?

杉本 調べていくと、リコメンド(おすすめ)の機能などによってSNSで受け取る情報がどうしても偏ってしまうことを知りました。偏りを抑えられる機能があれば、僕自身が見てみたいなと思って。だから受け取る側のことを取り上げたいと考えたんです。

――ご自分の体験から、まさに「あったらいいな」というアイデアを見つけたんですね。アイデアを深める中でどんなことを考えましたか?

杉本 そうですね。例えば、今とは逆にSNSが情報を完全にランダムに表示するようになったら「それが健康か」っていうと、それも違うと思います。そうなってしまうと、SNSの強みがどんどんなくなってしまいます。そのバランスを取るのが難しいなと考えました。

――SNSの強みですか?

杉本 例えば、新聞やテレビよりもスピード感があったり。良くも悪くも、個人の意見や感想が出てきやすい所が、新聞やテレビのような古くからあるかっちりしたメディアとは違う、SNSの強みだと思いますね。

――杉本さんのグランプリ作品「きっかけ:異なる視点との出会いをSNSで」アイデアのポイントはどこですか?

杉本 SNSはどうしても自分が興味あるものを優先的に表示しますが、ユーザーには異なる意見とも出会ってほしいと思います。でも、異なる意見を言うのが全く知らない人だった場合、「この人誰なんだろう?」となって、そもそも読んでもらえないことが多いと思うんです。

そこで、受け手にとって興味のある有名人や知り合いが発信する、異なる意見を優先的に表示することで、違う意見にすんなり触れることができるのではと考えました。これがポイントです。


パッと一日でアイデアは出てきました

――思いつくのに、どれぐらいの時間がかかったんですか?

杉本 「インフォメーション・ヘルスって何だろう?」と2~3週間勉強して、「よし、何かアイデアを応募するぞ」と思った時にパッと出てきました。行き着くのにそんなに時間はかからず、1日とかでした。

――そこからアイディアをまとめるのに、大変だったところはありますか?

杉本 そうですね。実際にどうやってその機能を作るのかという現実的な問題が大きかったです。そもそも「身近な人」とはどんな人なのか、いろいろ難しいなと思いました。Xをメインに考えていたのですが、Xが持っているであろうユーザーのデータがどんなものなのか、から逆算しました。

僕のアイデアのためにユーザーがいろんな情報(個人的な嗜好など)を新たに取られる(プロバイダー側に渡す)ことになったら嫌だなと思いました。今ある最低限の情報で、どうやってこのアカウントとアカウントの近さを定義づけるのか、それをどうしてもアイディアに盛り込みたいと思って。それをまとめるのが結構大変でした。

――このアイデアが実際に使われるようになったら、どんな風に使ってもらいたいですか?

杉本 そうですね。今のままのSNSがいいという人もいると思います。この機能を使うか使わないかは、ユーザーが取捨選択できるのがいいです。全員使ったら幸せになるかというと、そうではないと思います。今の状態が気になる人が意思を持ってこの機能のボタンを押してみる、それが良いのではないかと思います。控えめかもしれませんが。

――誰にでも強制的に異なる視点を提供する、みたいなことはしたくないということですね?

杉本 健康的な食生活を目指す時に、強制的に健康的な食べ物を押し付けられることはあんまりないじゃないですか。情報も同じで、自分が意識してちょっと健康的になりたいと思った時に、用意されているやり方の一つとしてあるといいなって思います。


想定外! もし、悪い人が使ったら?

第2回インフォメーション・ヘルスAWARD表彰式後のシンポジウムで。(2024.12.13)

――12月のアワードの表彰式とシンポジウム、参加されていかがでしたか?

杉本 そうですね。アイデア部門、さらに社会実装部門の受賞者の方とも直接お話ができて、思ってもみない角度から意見をもらえて、考える良い機会になりました。
当日はすごい緊張して、半分ぐらい覚えていないんですけど(笑)

シンポジウムで発言する杉本さん(右)

――そうだったんですか? 選考委員の方からの意見はいかがでしたか?

杉本 皆さんのお話もプロというか、シンポジウムで同じテーブルに並んでやり取りできたのは、良い経験になりました。僕も結構頑張ってアイデアをまとめたと思っているのですが、自分が弱いかなと思ってる部分はしっかりと指摘されました。(笑)

――そうですね。例えば選考委員の一人、執筆業の小木曽健さんは「もし、その人の考えに影響を与えようとたくらむ悪い人がいて、このアイデアを悪用したら……」っておっしゃってましたね。

杉本 全く想定してなかったコメントで、「悪い人だったらそんな使い方ができるんだ」と変に納得してしまいました。

――それから、二つの意見が対等ではなく、どちらかが極端な場合でも「AかBかという二項対立になった時点で、それぞれ同じ価値があるように見えてしまう」という問題も指摘されていました。

杉本 二項対立に関しては、アイデアを出す前から僕自身も気になっていました。自分と違う意見ってなんだろうと考えると、現実には二項対立ではない問題もたくさんあります。それなのに、二項対立でないものが二項対立で語られていたりします。意見をいただいた時「やっぱりそうだよな、違う意見って何なんだろう……」って思いました。


法律も農業も 出てこい! いろんな分野のアイデア

――最後に、次回のアワードに応募しようと思っている方に、メッセージをいただけますか。

杉本 僕自身は心理学畑ですが、今回のアワードには機械や情報の分野の方たちが多かった気がしました。でもインフォメーション・ヘルスにそれ以外の分野の人たちもどんどん参加してくれたら、もっともっと面白くなるんじゃないかと思います。

――例えば、どんな分野ですか?

杉本 心理学もそうですが、調べていくとインフォメーション・ヘルスには法律が関わっているんだなと思いました。それこそ法律系の人たちが思っていることをアイデアとして出してもらうのも良いですし、想像もしないようなところから出てくるのが面白いなと思います。

例えば最近だと、お米の価格が上がっていますよね。農業の分野とIoTって結構ホットじゃないですか。農業の人たちにも参加して欲しい。幅が広がるといいなと思っています。

IoT(Internet of Things モノのインターネット。色々なものがインターネットにつながって制御される仕組み)

――参加される方にどんなことを感じて欲しいですか?

杉本 僕としては、自分のアイデアが今後の社会を明るくすることに貢献できた、明るい未来に向けてひとつ関われた気がするのが一番良かったです。次に参加される方にもそれを感じてもらえるといいなと思います。こういう機会はなかなかないと思うので、ぜひ参加してほしいです。

――ありがとうございます。

次回の「インフォメーション・ヘルスAWARD」は2025年夏に開催予定です。詳しい募集の方法などはNHK財団の公式サイトでお知らせします。
ステラnetでは、選考委員や受賞者の方々のインタビューなどをこれからも掲載する予定です。ご期待ください。

(取材・文:インフォメーション・ヘルスアワード事務局)