
連続テレビ小説「あんぱん」のヒロイン・朝田のぶ(今田美桜)の祖母であり、夫の釜次(吉田鋼太郎)とともに「朝田石材店」を支えてきた、くら。おっとりしていて、ややとぼけたところもある彼女をチャーミングに演じている浅田美代子は、くら役にどんな思いを込めたのか? そして、のぶの結婚についても語った。
結太郎と次郎さん、どこか重なる雰囲気を持っている

——今回、のぶが次郎(中島歩)に結婚の承諾をしました。のぶのお見合いから振り返ってどういうふうに見えていました?
次郎さん本人も魅力的な人だけれど、のぶちゃんは父親の結太郎(加瀬亮)が大好きで大好きでしょうがなかったから、やっばりお父さんと重ねた部分はあると思うんですよね。次郎さんと結太郎の関係というところにも、惹かれちゃっていますし。お父さんを早くに亡くしているから、その代わりとは言わないけれど、どこか2人の重なる雰囲気というのを感じたんでしょうね。とにかく、くらばあとしては、ホッとしています(笑)。
とにかく孫たちがかわいい!

——三姉妹それぞれを、祖母としてどういうふうに捉えていますか?
のぶちゃんは、もう太陽でしょうね。周りをみんな明るくしてくれて、人を引き寄せる感じ。衣装もオレンジとか、太陽というイメージですね。だとすると、蘭ちゃん(蘭子/河合優実)は月かな……。のぶちゃんのように明るいわけじゃないけれど、それは暗いということではなく、大人しくて、知的なところを持っているという意味で。さて、メイコ(原菜乃華)は何にしよう(笑)。何に例えたらいいのかな? そうだな……、あの天真爛漫さは、音符かな。音楽の、メロディーのような感じがしますね。
——のぶは明るいということでしたが、一方で心の奥底に悩みも抱えていますよね。
そうですね。だけど、それを絶対に人に見せないじゃないですか。いつもは“ハチキンおのぶ”で通しているけれど、やっぱり長女だから、いろんなことで悩んだりもしている。それでも、人には見せない。そういうところは本当に健気でね、いい子だなと思います。
だからこそ、嵩(北村匠海)がねぇ……(笑)。頼りなく思ってしまうんですよ。本当に「あんた!」って、背中を押したくなるの、おばあちゃんとしては(笑)。

——今回のヒロインである今田さんの印象は?
本当にかわいいし、めちゃくちゃ素も明るいですよ。そこが本当にのぶという役にぴったりだなと思って見ています。ハツラツとしたところとか、走りが速いところとか。本当に彼女が速いかどうかはわからないけれど、そういう感じに見えますよね。ぴったりだなと、いつも思っているんですよ。
そして、女子師範学校の制服を着た姿もかわいかったし、尋常小学校の先生になっての着物姿も、それはそれでかっこよくなるし、何でもぴったり。それは着るものが、ということじゃなくて、その時々の年齢の姿をぴったり演じているから。感心しますね。
最近では、「愛国の鑑」だと言われているけれど、蘭ちゃんのことを見ていて徐々に心が苦しくなっていくところなんかは、こちらも苦しくなりますよね。そして、のぶが子どもたちに対して口にしている言葉と、自分の気持ちの間にずれが生まれているところも、よく表現しているなぁと思って。ちょっとずつ、微妙に「本当にこれでいいのかな?」と感じ始めている苦しさが、セリフじゃなくても見えているから、素晴らしいな、と。私も勉強になりますね。

——蘭子は控えめだけれど芯は強くて、豪(細田佳央太)のことをずっと思い続けていますね。
あの2人の関係は、かわいそうすぎましたねぇ。本来は、その家のお嬢さんと雇われている人間なので、当時としてはあまり歓迎されないことなのかもしれないけれど、お互いにずーっと思い合っていてね。やっと結ばれたのに、豪ちゃんが戦争で亡くなってしまうなんて、どんなにつらいだろうと思ったし。戦争に行く前の日に、羽多子(江口のりこ)さんが2人を送り出すじゃないですか、「今夜は戻んてこんでええ」って。あれは台本を読んだときにジーンときましたね。幸せだけど、つらいなぁと思って……。
しっかり者じゃないけれど、かわいいおばあちゃんに

——「花子とアン」以来、約10年ぶりの連続テレビ小説出演で、ヒロインの祖母を演じていますが、役柄に対する率直な印象は?
最初にお話をうかがったときに、「あんぱん」というタイトルが面白いなと思って、やなせたかしさんと奥様をモデルにした物語ということにも興味を持ちました。おばあちゃんの役だけれど、逆にそれも楽しそうだなと思いました。
くらは孫に何かを教えるようなおばあちゃんではなく、どちらかと言うといい意味でしっかりしてない、明るくてかわいいおばあちゃんですね。茶目っ気があって。そこにいるだけでほっとするような、そんな立場になれたらいいな、と思っています。なにせ、釜じい(釜次)が怒りやすいタイプなのでね(笑)。
——くらの茶目っ気のあるところに関して、演じながら意識していることは?
そういうのって、「ここは、こうしよう」と意識するとわざとらしくなってしまうので、思わずポッと出てしまうとか、そのくらいで考えています。1話1話に「このセリフ、いいな」と思うところがあって、そこはちゃんとやりたいな、と考えているけれど、鋼太郎さんも面白くしてくるから、2人ともやっているとしつこくなっちゃうかなと。
釜じいとはラブラブです

——夫である釜次にはビシッと言ったりするところがありますね。
でも、釜じいとは意外とラブラブで。いつも仲良くしていますね。釜次さんが怒鳴ったりして、それを「もう、あんたは」と止めたりもするけれど、愛がありますからね、あの2人には。吉田鋼太郎さんとは、収録以外でも楽しい時間を過ごさせてもらって、いつも一緒にスタジオの前室で話をしていたり。
——のぶ役の今田美桜さんも蘭子役の河合優実さんもメイコ役の原菜乃華さんも、みんな「くらばあがイチ推し」とおっしゃっていました。
嘘ぉ!? またまた、そんなことないですよ。あの3人がめちゃくちゃかわいいし、その子役さんたちもまた、かわいいんですよ。だからもう、本当に愛せる孫3人、という感じです。あんな美人三姉妹の孫がいたら、それは幸せですよね。
「あんぱん」は、現代に必要な“家族の物語”

——この「あんぱん」ならではの家族の距離感については?
昔は家族みんなが一緒に住んでいたし、携帯電話とかもないわけですから、ちゃんとコミュニケーションがあって、それぞれの行動もわかっていたという良さがありましたよね。今だと、それこそ携帯を持って自分の部屋に入ってしまったら、何をしているかわからないような時代じゃないですか。そういう意味では、やっぱり昔のほうが家族の結びつきは強かったと思うし、あんなふうに大人数で住む、ということは必要なんじゃないかなとか思っちゃいますよね。今はもう、核家族化しすぎだと思います。
——浅田さんご自身がデビューされたころは家族ドラマが全盛で、そこでお茶の間の温かさを伝えていたような気がします。
そうですね。家族の温かさって、お芝居だけでは、出づらいような気がするんですよ。演者同士が本当にある程度仲良くないとね。このチームは本当に仲が良くて、みんな和気藹々としているから、その良さが出ていると思いますね。特に朝田家に関しては。大したことじゃなくても「昨日、何食べた?」みたい会話とか、そういう普通の感じで居られるから。
——そこで生まれる家族の雰囲気が、画面からも伝わってきますね。
そういうことも合わせて「あんぱん」を通して、「あ、家族っていいな」と思ってくれる人が増えたらいいなと思うんですよ。今の世の中はね、親が一生懸命に働いて大学に進学させてくれて、一流企業にまで入れたのに、後は全然無視みたいな人が多くて、冷たすぎると思っているんです。そういう意味でも、東京に出てきて実家の家族ともずっと会ってなかった人たちにも「ちょっと田舎に帰ってみようかな」と思ってもらえたらうれしいですね。