標高約3,700mの場所にあるウユニ塩湖(南米・ボリビア)には、柱サボテンが密集する島がある。白い塩の結晶とサボテンのコントラストには絶景。
進化生物学研究所理事長・所長のあさ浩史ひろしさん(81歳)は、世界の植物の生態を研究しています。植物を訪ねて旅をしていると、さまざまなことが見えてくると湯浅さんは言います。そしてそれは私たちの未来へのメッセージ、警告でもあります。
聞き手 須磨佳津江

——これまで60か国以上の植物を見てこられたそうですが、驚くこともありましたか。

湯浅 メキシコ南部の、幹の太さが世界最大のといわれるヌマスギや、南アフリカにある大きなバオバブを見たときは驚きましたね。圧倒されるような存在感でした。

南米・ボリビアでは、塩の結晶で覆われたウユニ塩湖のインカワシ島で、柱サボテンが密集しているのを見ました。柱サボテンが剣山や針山みたいに生えていて、周りは白い塩。珍しい光景です。

 

メキシコ南部オアハカ州の巨木メキシコヌマスギ。幹回り58m以上、高さ約42mあり、世界で最も太い幹とギネス認定されている。

 

南アフリカ北部のリンポポ州の巨大なバオバブ。中央に立つのは湯浅さん。幹回りは約34m。

——長年、世界で植物を観察してきて何か感じることは。

湯浅 次の世代が育っていないということです。植物は通常、一つの地域のにさまざまな世代が見られるのですが、近年はそれがとても少ないのです。これは深刻な問題です。

特に乾燥地ほどバランスの崩れがひどいですね。乾燥地には雨季と乾季があり、定期的に雨が降れば次の世代は育ちます。けれど今は若木が生き残れる水分が足りません。十年単位の平均では降雨がありますが、降り方が極端で降れば若い植物が流されるのです。

そういう自然現象は過去にもありましたが、地球規模で極端になっていると感じます。乾燥地はさらに乾燥し、雨の降るところはさらに降る。地球全体の水の量は一定ですから、バランスが崩れつつあるのではないでしょうか。特に乾燥地の緑を保っていかないと、やがて気候変動は大変な事態になると思います。日本ではゲリラ豪雨が問題になっていますが、いずれは空梅雨などでの深刻な水不足を危惧しています。

東南アジアのボルネオ島山中の食虫植物、ネペンテス・ラヤ。長さが30センチほどある最大級で、2リットル以上の雨水がたまっていたという。和名は「ウツボカズラ」。

——毎年のように「異常気象」といわれていますが、森をつくることで緩和されますか。

湯浅 私はまだ間に合うと思っています。人口増加による開発は、ある程度しかたがないことですが、かつて森林だった荒地に植物を植え育てていくことが必要だと思います。例えば荒地だらけのベネズエラなどで緑化プロジェクトを継続的に行っていけば、将来きっと役立つはずです。

やがて世界規模の食糧危機時代が来るといわれています が、その対策としても緑の効用は大きいと思います。オイルや果実が採れる木はたくさんありますし、葉が食用として活用できたりします。乾燥地は野菜の収穫が難しいです が、バオバブの葉はそのままでも食べられるし、粉にして抹茶のようにすれば一年ほど保存できます。

チリ北部が原産のサボテン、コピアポアの群生。太陽の方、南半球では北を向く習性がある。日本名は「黒王丸(こくおうまる)」。
西アフリカで食料とされる豆、バンバラビーン。炭水化物、たんぱく質、油分に優れた食品。

——その土地の植物を利用してきた歴史があるのですね。

湯浅 はい。世界には、日本人が知らない植物の活用法がたくさんあります。
例えば西アフリカのサヘル地帯で取れるバンバラビーンという豆は、おいしくて栄養バランスに優れた理想的な食料です。乾燥地帯のさまざまな地域で育てられています。豊かな森林環境は、もはやバーチャルなものにすらなりつつありますが、やはり実物を見て上手な活用法を考えることが、人類になくてはならない知恵だと思います。

※この記事は、2021年3月24日放送「ラジオ深夜便」の「心に花を咲かせて~不思議な植物を世界に訪ねて思うこと」を再構成したものです。

湯浅 浩史(ゆあさ・ひろし)

1940(昭和15)年、 神戸市生まれ。一般財団法人進化生物学研究所理事長・所長。文筆家としての活動も長く、 著書は 『花の履歴書』(講談社学術文庫)、『花おりおり』(全5巻、朝日新聞社 )、『世界の不思議な植物』シリーズ(誠文堂新光社)など多数。

写真提供/湯浅浩史 構成/小林麻子、高久朗子
(月刊誌『ラジオ深夜便』2021年7月号より)

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