これまでに放送された「素朴なギモン」とその答えを、忘れないように復習しておきましょう。
「写真撮るよ〜」とカメラを向けられたら、ニッコリ、自分のいちばんいい笑顔を作ってしまう日本人の、なんと多いことか! でも、昔はそうではなかったらしい......? チコちゃん、詳しく教えて!


答え:ニコニコ主義があったから

詳しく教えてくれたのは、大阪大学の岩井茂樹教授。日本に写真の技術が伝わったのは、江戸時代末期。しかし、当時の写真に、笑顔の日本人はうつっていません。では日本人は、いつから、なぜ、笑顔で写真を撮るようになったのでしょうか? 岩井教授の研究によれば、それは明治時代の終わりごろ、ある男の行動がきっかけとのこと。

男の名は、牧野元次郎。日露戦争や戦後の不況などで、世の中が暗く沈んでいた時代のことでした。牧野は、そんな日本を〝笑顔〟で明るくしようと考え、1911年、雑誌『ニコニコ』を創刊。その名のとおり、人々が笑顔でうつった写真をズラリと載せた雑誌でした。

ペリー艦隊とともに日本にやってきた写真家が撮ったという、日本人がうつった最古の写真。当時は、笑顔で写真にうつることはおろか、(武士は)人前で口を開けて笑う習慣もなかった。

さらにその中で、〝すべてのことは、ニコニコによっておさまる〟という「ニコニコ主義」を広く主張・展開していきます。雑誌『ニコニコ』の発行部数は、当時の雑誌としてはかなり多い7万部。
「これによって、笑顔の写真、また笑顔で写真を撮る習慣が日本人にも浸透していった」と、 岩井教授は考えています。

また、このころになると、写真の技術が上がり、以前よりも人々の笑顔を撮影しやすくなっていたことも理由の一つ。

古い写真機では、光を取り込むまでの露光時間が長く、うつされる人は、約2分間じっとしている必要があった。そのため、笑顔を撮影すること自体が、そもそも難しかったのだ。

つまり、「ニコニコ主義」と技術の進歩。この2点によって、日本中に笑顔の写真が広がっていったというわけです。※諸説あります。

(NHKウイークリーステラ 2022年3月11日号より)