突然ですが、皆さんにクイズです! この人物は、いったい誰でしょうか?

答えは、
戦後の日本で、疲弊した社会の重い空気を軽妙な音楽と笑いで吹き飛ばした、偉大なるエンターテイナー三木鶏郎(みき・とりろう)です。
当時を知る人たちは、親しみと敬意を込めて彼の名を「トリロー」と呼びます。

さて今回は、「三木鶏郎企画研究所」から当館に特別に寄贈いただいたNHKの放送台本や楽譜などを中心に、NHKに残るアーカイブ資料とともに「トリロー」の世界にご案内いたします。

三木鶏郎の活躍は、昭和20年代のラジオ番組から音楽、舞台、さらにはコマーシャル(CM)ソングに至るまで、まさに戦後・昭和のエンターテインメントすべてに広がり、当時の日本人はその作品に夢中になりました。

とはいえ、今の人にとっては過去の話。 「昭和のエンタメって、いまさら?」「そもそも誰か知らないし」と思った、そこのあなた。
いえいえ、そんなことはありませんよ。
たとえばこんな歌、聴いたことありませんか?

いかがでしょうか。テレビやラジオで一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。(CMソングなので!?、ここでは深くご紹介しません)

生涯にわたりトリローが手掛けたCMソングの数は、およそ400曲。そのうちの数曲は、現在でも使われています。トリローの仕事は今も生き続けているのです。

その偉業は、CMの世界だけではありません。そもそも三木鶏郎の名を一躍日本中に知らしめたのが、昭和20年代に始まったラジオ番組。それがこの音楽バラエティ番組「日曜娯楽版」です。

では実際に、NHKアーカイブスで、そのテーマを聞いてみましょう!↓
https://www2.nhk.or.jp/archives/tv60bin/detail/index.cgi?das_id=D0009060077_00000

「日曜娯楽版」を通じて描かれたのは戦後の庶民の生活と、痛烈な社会風刺でした。
特にコントのバラエティーコーナー「冗談音楽」は、当時の国民から絶大な人気を集めていました。番組からは「僕は特急の機関士で」(作詞・作曲 三木鶏郎)などのヒット曲も数多く生まれ、時代を超えて、今もなお歌い継がれています。ちなみに「日曜娯楽版」は、その後「ユーモア劇場」に引き継がれ、一世を風靡します。

また、トリローは若い人材の発掘や育成にも尽力しました。
作家ではキノトール、永六輔、野坂昭如、作曲家では神津善行、いずみたく、俳優では河井坊茶、丹下キヨ子、三木のり平、中村メイコなどが門下生。のちに、日本の放送界をけん引していく個性豊かで多才な人材に大きな影響を与えました。

ラジオ出演のきっかけとなった「南の風が消えちゃった」の楽譜原本

稀代のエンターテイナーの躍進は、1946年のラジオ番組「歌の新聞」に始まります。当時のNHKにトリローは自作自演の歌「南の風が消えちゃった」を持ち込んだところ、その作品が評価され番組への出演が決まります。

この歌はバラック小屋が並ぶ戦後の焼け跡の風景をうたっていますが、その曲調は決して暗いものではなく、どこか明るく、厳しい時代を生き抜く人の力強さを感じさせるものでした。トリローは常に大衆に寄り添い、権力にあらがう姿勢を作品の内に秘めていました。

「ユーモア劇場」の最終回を伝える「週刊NHKラジオ新聞」(1954年6月20日号)

絶大な人気を誇っていたトリローでしたが、その社会風刺の姿勢は当時の政治家の逆鱗に触れます。時の政権の圧力により、「日曜娯楽版」の後継番組として放送されていた「ユーモア劇場」は、打ち切りに。これまで表現の自由を追求してきたトリローも、ついに番組の継続を断念します。

それでもトリローのエネルギーは途絶えることなく、いよいよ多くのラジオ番組や音楽、舞台劇などを世に送り出していきます。そして、冒頭でご紹介した数多くのCMソングによって、トリローの名は不動のものとなります。

日曜娯楽版をはじめとした当時の貴重な放送台本

 

物議をかもした「ユーモア劇場 第190回『水素爆弾と成層圏気流について』」の台本 

コロナウイルスの蔓延や紛争が続く世界情勢により、閉塞感が強い現代の社会。
この時代にトリローが生きていたら、私たちにどんなエンターテインメントを届けてくれたでしょうか。
展示を見ていると、「どんなときも、心に笑いとユーモアを」、そんな声が聞こえてきそうです。トリローの生き方とその感性にふれることで、今を生きる活力や勇気が見つかるかもしれません。
ぜひ、放送博物館へ「三木トリロー」に会いに来てください。

(文・NHK放送博物館 館長 川村 誠


企画展「トリローワールドへようこそ~奇才が伝えた戦後のラジオ~」
開催中~2022年10月16日(日) まで  ※休館日は除く
*9月24日(土) は、コラムニスト・泉 麻人さんのトークショーを開催予定!
詳細は、追って下記の公式ホームページにて公開します。
https://www.nhk.or.jp/museum/project/2022/2022071601.html

「NHK放送博物館」
https://www.nhk.or.jp/museum/