「こんにちは いっと6けん」(総合 関東地域放送)という番組で、“「平清盛」のみどころ”を話させてもらいました(※2012年執筆当時)。放送で話しきれなかった分をふくめて、改めて書かせていただきます。

というのは、それが今回のぼくの“コラム”に対する姿勢でもあるからです。まずぼくの大河ドラマ「平清盛」へのうけとめと期待から書きます。

・平清盛は日本で最初に武士政権を実現した人物です。ふつうは鎌倉幕府を創立した源頼朝を、武士政権の創立者としていますが、正しくは清盛が先輩です。

・清盛が青少年のころ、武士は貴族(皇族や公家)の番犬でした。雨の日も雪の日も四季を通じて、貴族たちの生命と財産をまもるためのガードマンをさせられました。しかもそのためのアゴ・アシ代(食費や地方からじょうらくするための旅費)はすべて自分もち、という不条理でした。人間なら当然その扱いに矛盾を感じ、怒りをおぼえるのがふつうです。

清盛はこの社会的劣位におかれていた武士の代表として、“番犬から人間へ。そして政治権力の中枢へ”というコースをアレヨアレヨという短い年月で駆けのぼった人物です。

でも、この事業は清盛ひとりでなしとげたわけではありません。祖父正盛、父
忠盛からつづく“伊勢平氏”の悲願でした。ですからぼくのドラマへの期待は、「この悲願をどのように実現していくのか」というプロセスへの関心が第一です。

イラスト/太田冬美

もうひとつは事業をなしとげるためには、なんといっても資金が必要です。これを平氏は“海”にもとめます。平氏の資金源は瀬戸内海であり、そう(この時代の中国)や東南アジア諸国などとの、貿易を主にします。

ですから平氏は“海の武士”なのです。「平清盛」は、初回からこのことを強調しています。いままでの平氏へのイメージを一変させる、新しい問題提起といっていいでしょう。

しかし平氏一族が“番犬から人間へ”という志を立てたからといって、スムーズにすすむとはかぎりません。妨害されます。

3つの壁が立ちはだかります。モノの壁・しくみの壁・こころの壁です。とくに武士をバカにする公家たちの、“こころ(意識)の壁”にどのように立ちむかうのか、これもぼくの大きな関心事です。

(NHKウイークリーステラ 2012年2月3日号より)

1927(昭和2)年、東京生まれ。東京都庁に勤め、広報室長、企画調整局長、政策室長などを歴任。退職後、作家活動に入り、歴史小説家としてあらゆる時代・人物をテーマに作品を発表する。