11月に始まった『カムカムエヴリバディ』。
第1部の主人公は、日本のラジオ放送スタートと同じ日に生まれた橘安子(上白石萌音)。
岡山の和菓子店で育ち、地元の繊維会社の跡取り息子・雉真稔(松村北斗)と出会う。大阪の大学に通う稔の影響でラジオ英会話を聞く安子は、稔と文通をするようになった。しかし二人にそれぞれ縁談が持ちあがったり、稔の母・美都里(YOU)に邪魔されたりと紆余曲折を経て二人は結ばれた。
ところが稔は1か月一緒に暮らしただけで出征。
安子には女の子・るいが生まれたが、安子の祖父母や父母は次々に亡くなってしまう。さらに稔の戦死の知らせが届き、美都里は次第に安子にきつく当たるようになる。見かねた勇(村上虹郎)は、安子とるいが家を出るよう取り計らう。
安子は大阪で力強く生き始めた。
女子高生で高視聴率
朝ドラの視聴率は、このところ不調だ。
3作前の『エール』は平均世帯視聴率が20.1%だったが、次の『おちょやん』は17.4%に下がってしまった。前作『おかえりモネ』は16.3%で、今期『カムカムエヴリバディ』は5週までの平均が16.1%にとどまる。(ビデオリサーチ関東地区調べ)
一見、朝ドラは後退を続けているように見える。
ただし、これは世帯視聴率の話。しかもコロナ禍の影響で『おちょやん』以降スタート時期がずれ、人々の視聴習慣に変化が生じた影響もある。ところが特定層の個人視聴率で分析すると、『カムカムエヴリバディ』には大きな可能性が見いだせる。
女子高生が注目するドラマになっているからだ。
図1は特定の視聴者別に、どの程度みられているかを一覧化したもの。
スイッチメディア関東地区データに基づき、各ドラマの個人視聴率を1とし、各層がどの程度含まれているかを指数化した。いずれも初回から5週目までの平均で算出している。
これによると、F1~F2(女性20~49歳)でトップとなり、特に女子高生で突出した。
既婚女性でも1位だが、女子高生とその母親が一緒に見ているケースもありそうだ。しかも「タレント・芸能人」や「テレビドラマ」に関心のある層で首位を独走する。キャスティングや物語が高く評価されていると言えよう。
同ドラマを見ているという女子高生に意見を聞いてみた。
「今回の朝ドラでは、『恋はつづくよどこまでも』で大ブレイクした上白石萌音とSixTONESの松村北斗の出演に、多くの若者は注目したと思う。友人の中にも『ドラマは見てはいないけど、松村君が出ているやつでしょ』とジャニーズの宣伝効果を実感できる会話が聞かれる」
内容も女子高生向き
ストーリー展開も、同作は女子高生に強烈に刺さっている。
「安子が大阪の稔を訪ね、縁談を受け入れようとする。また稔の母が安子に陰湿ないじめをし、当時の家制度に二人が四苦八苦する。“認められぬ恋”で好き同士の二人が苦労する様が描写されており、見ているわれわれを恋愛の歯がゆさに誘う。こうした場面は若者であれば誰もが注目し楽しめるだろう」
「8話ラストでは想定外に稔が登場し、『なんで泣いとるん』と優しく聞く。12話ではこれまで親のいう通りにしてきた稔が初めて母親をどなる。どちらも稔の男気あふれる行動に、女子高生はキュン死せずにはいられない」
「第5週は、安子が岡山から大阪に行き、何とか生計を立てようとするものの、再び岡山に戻るという怒とうのストーリー展開。若い女性が女手一つで見知らぬ土地に行く決断をし、子のために仕事に奔走する。ところが努力の成果が不慮の事故によりはかなく消えてしまう様子は目が離せない展開だった」
「中でも25話の、倒れた安子を幼なじみの勇が介抱するシーン。幼少期から一方的な恋心を抱き、安子のピンチでは必ず助けにくる勇の姿は、胸キュン度120%で高く評価できる」
女子高生の見立ては、多くの視聴者の反応に共通する。
スイッチメディアは放送中に、視聴者の顔がテレビに向いているか否かを測定し、注視率を算出している。この数字が高いほど視聴者が内容に見入っており、低いときは意識が他に行く“ながら視聴”になっている。
これによると、第1週では30%前後だった注視率が、12話や25話では50%超に急伸している。12話では美都里が安子へ「稔と二度と会うな」と手切れ金を渡す。これを知った稔が母をどなる。しかし父・千吉(段田安則)に現実を思い知らされる。誠意と現実の狭間で揺れる稔に、「夢を見た」「稔さんのことを忘れる」と安子がもらった英語の辞書を返す。注視率は何度も55%を超える傑作回となった。
さらに25話は圧巻だ。
千吉が大阪の安子を見つけ出し、岡山に帰るように勧めるが安子は断る。ところが厳しい生活が続き、交通事故に遭ってしまう。千吉に発見され手当てを受け、勇が看病するシーンでは注視率が60%を超えた。
朝ドラ視聴者層“補完計画”
以上は世帯視聴率苦戦の中、朝ドラに射す光明の話。
ただし、よりはば広い視聴者に見てもらうには、改善すべき課題も残る。実は女子高生はドラマ序盤で挫折しそうになっている。
「教育番組っぽさが否めない。これでは“出演者視点”で1話を見てみた若者の一定数が逃げてしまうだろう」
図2にある通り第一週の注視率は、その週の後半で伸び悩むどころか下がっている。
女子高生と同じように、退屈と感じた視聴者は少なくなかった。
しかも、この女子高生はリアルタイムで見ていない。
登校時間だからだ。代わりに録画を週末に一気見している。同ドラマは本放送の前にBSで先出ししたり、お昼に再放送したり、土曜朝にダイジェストを放送している。残念ながら、これらは視聴者本位というより、送り手の都合優先が見え隠れする。学生や勤め人など、ライブでは見られない人が多く残されている。
せっかく「ブレイク真っただ中の女優」と「人気ジャニーズ」といった若者の関心を集めるキャスティングをし、胸キュンや感動を散りばめた面白いコンテンツにしたのなら、従来とは異なる視聴者に見てもらえる時間帯にも放送したらどうだろうか。
15分×5本を再編集して60分にして週末夜に編成したら、テンポが良くなり若者の視聴に耐える作品へとブラッシュアップできる。
同ドラマは戦前・戦中・戦後の庶民の暮らしぶりを知るには良く出来た作品だ。
けなげでひたむきな生き方に感動もできる。図1にある通り、「歴史」「料理・グルメ」に関心のある層も比較的よく見ている。
ただし女子高生の平均視聴率は2.5%、F1も2.2%に過ぎない。見てもらえる品質にありながら、編成のミスマッチで95%以上の若者をあらかじめとり逃している。
演出・制作で努力すると同時に、朝ドラ視聴者層“補完計画”に挑戦してみたらどうだろうか。
愛知県西尾市出身。1982年、東京大学文学部卒業後にNHK入局。番組制作現場にてドキュメンタリーの制作に従事した後、放送文化研究所、解説委員室、編成、Nスペ事務局を経て2014年より現職。デジタル化が進む中で、メディアがどう変貌するかを取材・分析。「次世代メディア研究所」主宰。著作には「放送十五講」(2011年/共著)、「メディアの将来を探る」(2014年/共著)。