大河ドラマ『どうする家康』が中間点を折り返した。

視聴者の中には、賛否両論がある。
「史実と違い過ぎる」
「松本潤の家康に違和感」
否定的な声は、伝統的な大河を逸脱した作風に対して大きい。

「大河ドラマをはじめて面白いと思った」
「人間性丸出しでいいな」
他方で想定していた英雄像と大きく異なる人物描写を評価する人も少なくない。

では視聴者をマスで捉えると、今回の大河はどう見られているだろうか。


全体の流れ

近年の主な大河を比較してみよう。
極端に数字が低かった19年『いだてん~東京オリンピック噺~』(中村勘九郎・阿部サダヲ主演)を除き、第21~27話の平均値で18年以降を比較すると、個人視聴率も世帯視聴率も右肩下がりとなった。

ところが世帯占有率でみると状況は異なる。
以前より個人も世帯も低い22年『鎌倉殿の13人』(小栗旬主演)も今年の『どうする家康』(松本潤主演)も、以前の3作と比べると占有率は1%ほど高い。

番組が「不調」とか「低迷」と言われるのは、主に世帯視聴率で判断されている。
ただしテレビ全体がリアルタイムで見られなくなっており、その影響で個別番組の視聴率が下がるのは止むを得ない。
ところが占有率が高いとは、日曜8時台のテレビ視聴者の中で大河ドラマが選ばれる確率が高まっていることを意味する。
表面的な数字だけで「不調」「低迷」と断ずるのは早計なのである。


視聴率のマイナス要因

では『どうする家康』の視聴率を押し下げているのは誰なのか。
グラフ化すると一目瞭然、中高年の視聴者が離反していることが大きい。

例えばF4(女性65歳以上)では4~5%、M4(男性65歳以上)も3~4%以前の大河より落ち込んだ。F3(女性50~64歳)やM3(男性50~64歳)も、今作は最低クラスに甘んじてしまった。

「史実と違い過ぎる」などの批判も高齢者から多い。
「政治に関心あり」層でみると、20~50代では健闘しているが、60歳以上では3~7%落ち込んでいる。

「歴史に関心あり」層ではもっと極端だ。
20~50代でも最低クラスとなり、60歳以上では4~7%も引き離されてしまった。名を成した歴史上の人物を予め傑物と描いてきた伝統的な大河と比べると、「弱虫泣き虫鼻水垂れ」と家康の弱い部分から始めた今作の前半戦は、高齢者の一部に評判が悪く、「松本潤の家康に違和感」などの声につながったようだ。


視聴率のプラス要因

ただし視聴率を押し上げる要因もある。
若年層に注目すると、『どうする家康』はけっこう健闘している。

年齢別ではC層(男女4~12歳)から1層(男女20~34歳)まで。

例えばFC(女性4~12歳)やF1(女性20~34歳)では、今作がトップだ。またMT(男性13~19歳)では2位、FT(女性13~19歳)では3位につけた。

また小中高生や女子高生では2位。
大学生では3位となった。テレビ視聴の全体が下がっている中で、若年層の上昇は画期的と言えよう。特にNHKの多くの番組は、視聴者の大半が高齢者で「視聴者層拡大」に何度も挑戦して来た。
そんな中での若年層ゲットは、大いに評価されるべきだろう。


半年間の視聴傾向

では初回から第27話までの『どうする家康』はどう見られただろうか。

実は個人・世帯の視聴率と占有率は、ここ数年の大河の見られ方と類似性がある。
大河は例年、初回から序盤が高く、前半戦の間にジリジリ下がる傾向にある。今年も3月にかけ、3つの数字は下がり続けた。

ところが以降は5月にかけ微増した。
そして今月にかけて、個人と世帯の視聴率は再び微減に転じている。ところが世帯占有率は、ほぼ横ばいで維持している。
つまりテレビ離れが少し進んだが、大河を選択する人の割合は維持されたのである。


『どうする家康』視聴率の要因

では直近1か月で、個人や世帯の数字が下がったのは何故か。
これも過去数年の大河と同様、高齢者の一部が離脱したのが大きい。

F4(女性65歳以上)は、序盤3話平均から3月の3話平均で5%以上が視聴をやめた。
3月は野球の日本代表が優勝したWBCの中継と重なり、環境として不運だったこともある。それでも5月にかけ一旦上昇したが、再び6月から7月に下がってしまった。
「慈愛の国計画」や「本能寺の変=家康黒幕論」などを、「こんな理想論はあり得ない」「史実と違い過ぎる」と感じる人がいたようだ。
いずれにしても、全テレビ視聴者の中で最大のボリュームを占める高齢者の動向が、個人視聴率を押し下げていたのである。

ところが異なる動きをした層もあった。
FC~F1(女性4~35歳)だ。1~3月こそ高齢者と同じように下げた層もあった。ただしF1は6~7月で横ばい、FC~FT(女性4~19歳)に至っては、逆に数字を上げている。

特定層の動きも同様だった。

65歳以上の「歴史に興味あり」層は、F4とほぼ同じだった。
ところが20~50代の「政治に関心あり」層は、今回の大河に興味を示し、6~7月では数字を上げている。
女子高生では、1~3月で大きく下がることもなく、6~7月は上昇していた。
さらに「1日に5回以上SNSで発信する」層では、序盤で視聴率を下げることもなく、今回の7月では急伸している。
人によって面白がるポイントが異なる点は興味深い。


第25~27話はターニングポイント

後半に向け、第25~27話は興味深い転換点となった。
第25話「はるかに遠い夢」では、戦国ではなく慈愛の国を求めたが故に、瀬名(有村架純)と息子・信康(細田佳央太)は死を選ばざるを得なかった。
2人の死は家康に大きな影響を与え、第26話「ぶらり富士遊覧」では、腹の内を見せない人物へと進化させていた。

そして第27話「安土城の決闘」。
家康と信長(岡田准一)の“兎と狼の対決”でお互いに本音をはじめてぶつけ合った。その場面の全体は約13分。
その中でも、固定カメラから手持ちカメラの連続に切り替わった8分間は圧巻だった。

一人では何もできない弱い家康。
それでも家臣や多くの人々に助けられ進化を続けてきた。

一方の信長は、誰よりも強く生きることを強いられ、家臣や身内をも信じない。
「このやり方では、戦なき世の政に大きな壁にぶつかる」
乱世を鎮める力を発揮した信長が、時代の転換点で壁にぶつかっていたと言えよう。
手持ちカメラの揺れは、こうした心の揺れとシンクロしているかのようだった。

かくして物語は歴史上の決定的な瞬間を迎える。
そして弱さを秘めた兎・家康は、瀬名が希求した慈愛の国に近づこうと“天下取り”にまい進し始める。
こうした今までにない歴史上の人物の人間描写は、「大河ドラマをはじめて面白いと思った」新たな大河ファンを作っていた。

『どうする家康』の中間決算としては、固定的な歴史物語ではなく、人間ドラマに挑戦する新大河と位置付けよう。
この試みが後半で、我々をどんな世界に誘ってくれるのか楽しみにしたい。

愛知県西尾市出身。1982年、東京大学文学部卒業後にNHK入局。番組制作現場にてドキュメンタリーの制作に従事した後、放送文化研究所、解説委員室、編成、Nスペ事務局を経て2014年より現職。デジタル化が進む中で、メディアがどう変貌するかを取材・分析。「次世代メディア研究所」主宰。著作には「放送十五講」(2011年/共著)、「メディアの将来を探る」(2014年/共著)。