『あさイチ』プレミアムトークに志尊淳が登場した。
この番組に出演すると、その役者は以後の朝ドラで出番がなくなることが多い。そこを聞かれた『らんまん』竹雄役の志尊は、「まあ、合ってるのかも知れない」と答え、スタジオが騒然となった。
その後も志尊は、ネタバレしそうになったりと、番組はてんてこ舞い。
実はこの時間帯、視聴率も大変なことになっていた。
朝8時台の視聴率
NHK朝8時台の視聴率は、朝ドラが突出する。
7時50分台で急伸し、8時5分前後まで上がり続ける。そして朝ドラが終わり、『あさイチ』になると急落し、以後9時に向けて緩やかに下がっていく。
ところが志尊淳の出演で、この日の視聴率には異変が起こった。
朝ドラ『らんまん』も『あさイチ』も、いつもと異なる波形を示したのである。朝ドラは冒頭からラストまで数字が上がり続けた。いつもは後半からラストにかけて横ばいか下落するのが一般的だ。8時台は通勤通学で家を出る人が多いからだ。逆に上昇するのは異例なことだ。
かくして朝ドラ『らんまん』の個人視聴率は、平均でこれまでの2位。F3(女性50~64歳)ではトップとなった(スイッチメディア関東地区データ)。
また、ふだんは『あさイチ』になった途端に数字は急落する。
ところが志尊淳のアップから始まったこの日は、数字があまり落ちなかった。家を出るのを先延ばしにした人が少なくなかったのである。
中でも最も態度を変えたのは主婦だった。
番組冒頭の数分間、例えばF4(女性65歳以上)など他の女性層は数字を結構落とした。ところが主婦はあまり下落しなかった。
その後も9時にかけて、下降曲線が最も緩やかだったのである。
主婦人気はSNSにも表れた。
「朝イチに志尊淳❣️ 仕事が捗りませんwww」
「なんか家事が進まないと思ったらずっとテレビ前でニヤニヤしてたんですね、私」
「眼福...ごめん、洗濯後回し!」
「今日の朝の家事は淳君に集中するため、お休みします。」
出演者別の視聴率
では4月以降の『あさイチ』プレミアムトークを振り返ってみよう。
主婦層の視聴率では、やはり6/16の志尊淳登場回が最も数字が高い。2位が4/28の宮野真守の回。3位が6/9の安藤サクラの回となった。
実はプレミアムトークでは、登場人物によって興味深い違いが生じていた。
まず朝ドラ最後の2~3分。上位3回はいずれも朝ドラのラストで視聴率が上昇している。つまり『らんまん』を見ていなかった人が、あさイチに合わせてNHKを見始めていた。ゲストの魅力で、結果として『らんまん』の平均視聴率を押し上げていたのである。
次にあさイチ冒頭2~3分。
上位3組の下落の仕方が緩やかだ。例えば冒頭3分の下落率では、2~3割以上数字を落とすケースはざらにある。ところが3位安藤サクラの回は19%で踏みとどまった。前クールの『ブラッシュアップライフ』と、出演した映画『怪物』のカンヌ脚本賞受賞の直後というタイミングが奏功したようだ。
2位宮野真守の回は14%。
『らんまん』で高知の自由民権運動家・早川逸馬役を演じた。そのタイミングで、ドラマに続いて生放送に登場しただけあり好成績となった。
トップ志尊淳の回は6%と断トツだった。
同様にドラマから生出演というパターンだが、この日のドラマでは出番がなかった。それでも圧倒的な吸引力となり、彼の人気を裏付けた格好だった。
彼の最強伝説は、その後の『あさイチ』の展開でも実証された。
8時台は通勤通学で外出したり、主婦もテレビを消して家事にいそしむ人が少なくないが、この日はテレビを見続けた人が多かった。番組が始まって40分を経過した時点の主婦の個人視聴率は6.4%。2位宮野真守の回より1.4%高く、他9回の平均と比べると倍近くとなった。
志尊淳の波及効果
かくして志尊淳は、朝ドラとあさイチの両番組の視聴率を押し上げた。
朝ドラの出演者が続けて生放送に出るから『あさイチ』の数字が上がるのか。
『あさイチ』に出演するから朝ドラ後半の数字が跳ね上がり、結果として朝ドラの平均値が上がるのか。どうも「鶏が先か卵が先か」のような現象だが、志尊淳の場合はそんな因果関係を吹き飛ばすような視聴率の軌跡となった。
そして誰が魅了されたのかもデータが明らかにした。
この日の『らんまん』は、F3(女性50~64歳)、主婦、パートの人々が普段よりたくさん見ていた。そして『あさイチ』は、それら3層に加えてF4(女性65歳以上)の視聴率が明らかに上がっていた。
志尊淳最強伝説は、どうやら中高年の女性に支えられているようだ。
この後『らんまん』は9月まで続く。
主人公・槙野万太郎を演ずる神木隆之介、ヒロインの浜辺美波、万太郎の姉役・佐久間由衣など主要な役者の『あさイチ』生出演がありそうだ。
朝ドラと『あさイチ』の両方を誰が最も押し上げるのか。真の最強伝説は誰により作られるのか、楽しみにしたい。
愛知県西尾市出身。1982年、東京大学文学部卒業後にNHK入局。番組制作現場にてドキュメンタリーの制作に従事した後、放送文化研究所、解説委員室、編成、Nスペ事務局を経て2014年より現職。デジタル化が進む中で、メディアがどう変貌するかを取材・分析。「次世代メディア研究所」主宰。著作には「放送十五講」(2011年/共著)、「メディアの将来を探る」(2014年/共著)。