企画展「伝える―災害の記憶」が、5/9(月)まで山梨県立博物館にて開催され、気象予報士の斉田季実治さんが記念講演に登壇しました。
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気象予報士の斉田季実治さん。

「東日本大震災」で考えさせられたこと

現在、斉田さんはNHK「ニュースウオッチ9」の気象キャスターを務めるほか、昨年は連続テレビ小説「おかえりモネ」の気象考証を担当しました。ドラマ「おかえりモネ」と関わった経験について、斉田さんはこのように語ります。

「おかえりモネ」は、“人と自然の共存”がひとつのテーマでした。最近では、海底火山に関する報道も多く、“自然は怖い”と思っている方もいるかもしれません。一方、火山のそばには温泉があるなど、自然の恵みもあります。自然をただ怖がるのではなく、適度な距離感で共存していくことが大事だと思います。

「おかえりモネ」は、2011年の東日本大震災以降の被災地などを舞台にした物語でした。斉田さんは、東日本大震災の経験から、「気象情報をどのように伝えるべきか」を考えるようになったといいます。

当時、私は東京で気象キャスターになって1年目。NHKへ向かう途中で大地震が発生しました。翌日の気象コーナーの担当者が乗っていた新幹線が動かなくなったため、翌日の昼まで気象情報を担当しました。その日、宮城県では雪が降っていて、ふだんなら「温かくしてお過ごしください」と声をかけるところですが、このときは被災地の方に「どのように伝えたらよいだろう……」と何度となく考えたことが思い出されます。

近年でも、西日本豪雨や令和元年東日本台風など、各地で大きな災害が発生しています。どちらも日夜を通じて情報をお伝えしましたが、東京からの発信だけでは、「きちんと当事者に情報が届いていないのでは?」と不安に感じていました。ですから、「おかえりモネ」では、防災気象情報にまつわる場面を入れ込みたいという思いで関わりました。

具体的には第2週の物語で、森で遭難したモネが雷への対処法として、木の下で雨宿りせず、なるべく低い姿勢で、地面に触れる面積を少なくする対応を見せました。さらに、最終週では、「マイ・タイムライン」(防災行動計画)についても言及しています。ドラマを通して、少しでも気象や防災に関する知識を持ってもらえたらと考えました。気象情報をより多くの人に伝えるためにはどうすればいいのか―― これからも、私たちが向き合っていくべき課題です。


 災害はいつか起こると思って——

企画展「伝える―災害の記憶」では、18世紀から20世紀初頭に日本全国で発生した各種災害資料約140点が展示。過去の災害の事例を知ることは、防災面でもとても大事なことだと、斉田さんは語ります。

災害は、「素因」と「誘因」が合わさって起こるものです。素因はその土地が持っている災害に関わる性質で、誘因は豪雨や台風など、災害を発生させる直接的な引き金のことです。この2つそれぞれに対策をする必要があります。

素因に対しては、過去の事例やハザードマップなどでその土地の現状を知っておくこと、そして誘因に対しては、気象情報などで事前に備えておくことが大切になります。だからこそ、気象情報を習慣として見ていただきたいですし、過去の事例にも多く触れてもらいたい。災害はいつか起きるものと捉え、どれだけ事前に備えられるか、という意識がとても大切です。

講演会では、未来の気象状況を予想する方法なども紹介。現状から積み上げて未来を予想する「フォアキャスティング」と、未来像を描きそこから逆算する「バックキャスティング」の2つがあり、天気予報は基本的に「フォアキャスティング」で、過去の天気のデータを分析して予想しているとのこと。

「気象情報」は、未来をよくするために――

講演会終盤、斉田さんは「おかえりモネ」で西島秀俊さんが演じた朝岡覚の名言をもとに、気象情報の大切さを語りました。

「気象情報は、未来をよくするためにある」、朝岡さんのこの言葉がすべて語っているように思います。私が、いちばん共感するフレーズです。この思いを胸に、日々気象キャスターを務めています。

「きょうは熱くなりそうだから、薄着がちょうどよいでしょう」といったことをお届けすることももちろん大切なのですが、「命を守る情報」として役に立つのが気象予報だと思います。

実は、いまNHKの避難の呼びかけも変わってきています。例えば、九州に台風が接近する際、関東地域に向けた番組では、「九州に家族・友人がいる方は災害に備えるように伝えてください」といった呼びかけを行っています。関東は日本各地から多くの人が集まっていますから。

また、知人からの「声かけ」が早い避難につながるというデータがあります。「率先避難者」が増えることで、助かる人も増えます。放送では、「声かけ」を積極的に呼びかけています。

NHKでは、放送に加え、インターネット、NHKニュース・防災アプリなど、多様な情報発信を行っています。その他、便利に活用できる情報収集ツールも増えていますので、天気や自然とぜひうまくお付き合いいただきたいと思います。

日々の暮らしのなかで「気象情報」に意識を向けることが防災・減災につながる――。斉田季実治さんの講演は、私たちは自然といかに共存すべきかという、現代社会の課題を再認識する貴重な時間となりました。