あなたにとって、世にもおそろしいと感じるものは一体何でしょう。
あらがいようがないと恐れられているものを並べたことわざに、「地震、雷、火事、親父」という言葉があります(現代では、最後の「親父」はピンとこない人も多いかもしれません)。
古くは、安政2(1855)年に起こった「安政江戸地震」を伝えるかわら版に、この言葉が登場しています。
地震の元凶とされた大鯰 とともに描かれたかわら版や版画は「鯰絵」と呼ばれ、当時の“災害の記憶”を現代に伝えてくれています。
現在、山梨県立博物館で開催中の、「伝える―災害の記憶」展では、江戸時代から大正期にかけて発生した地震や洪水といった自然災害、火事や疫病といった厄災の記録を一堂に集めて展示しています。
この企画展では、北は明治時代に発生した「三陸地震」、南は江戸時代の「雲仙普賢岳の噴火」ほか、日本全国で発生した各種の災害(地震、火災、台風、落雷、津波、噴火、伝染病など)をほぼ網羅しているのが特徴です。
展示資料からは、当時の人々が災害といかに向き合ってきたかがリアルに伝わってきます。はしかにかかったときの対処法、遊びながら地震について学べるすごろくなど、“どうにかして災害の記憶を後世に伝えたい”という当時の被災者の思いを伺い知ることができます。
では、過去の人々はどのように災害を記録し、伝えようとしてくれたのでしょうか。
版画であれば、絵を見て解説を読むことで、ある程度理解することができますが、文章のみの資料はなかなか判読することが難しいことがあります。
そこで今回の企画展では、過去の被災者の経験や思いがひとりでも多くの方に伝わってほしいと考え、一部、翻刻*したものを来場者に配布する取り組みを行っています。
資料は過去の災害に関するものですが、新型コロナウイルスのまん延や頻発する地震など、災害のなかを生きる私たちが「防災」を考えるうえで、大いに役立つ内容といえます。
“災害の記憶”は、家族や大切な人を守るために時を超え、過去の被災者から私たちへ送られたメッセージなのです。
*翻刻…日本国内には江戸時代以前に筆記・出版された古文書・古記録・古典籍など、多数の文字資料が残されています。こうした歴史資料を活用するには、まず文字を現代の活字に直し、データとして扱いやすくする必要があります。この作業を歴史学の用語で「翻刻」といいます。
(取材・資料/ NHKサービスセンター 橋本弥生)
公式ホームページはこちらから
会期:2022年3月11日(金)~5月9日(月)
休館日:毎週火曜日(ただし5月3日は開館)、5月6日(金)
開館時間:午前9:00~午後5:00(入館は午後4:30まで)