いじめで不登校になった小学5年生の少女は、父とともに曽祖父母がいる長野に移り住む。彼女の凍りついた心を溶かしたのは……。本当の自分を受け入れてくれる居場所探しの物語。

主人公は、東京の小学生・雪乃。ある日、父・航介は会社を辞め、不登校の娘のために長野の農村に移住することを独断で決めてしまいます。出版社勤めの母・英理子は反対しますが、航介は「長野で農業をする!」の一点張り。結局、英理子は東京で“単身赴任”になります。

長野には航介の祖父母がいて、孫とひ孫を大歓迎。ただ、これで万事OKではありません。まず、航介の農業に対する考え方が甘い。見栄えのする野菜を作ってネット販売すれば売れると軽く考えていて、祖父からがつんと怒られるんです。

そんな軽薄な航介の描き方が、村山さんとてもうまい(笑)。一方、雪乃も新しい学校になじめるかと考えすぎて、また不登校に。でも、そんな父娘を助けてくれる人も出てきます。

航介の幼なじみの息子・大輝は、雪乃と同学年。毎日学校帰りに立ち寄り、何かと雪乃の面倒を見てくれる。子どもたちの優しさが胸を打ちます。

そんな中、航介が納屋カフェをオープン。果たしてうまくいくのやら。そして、雪乃は自分の居場所を見つけられる⁉

もともと「日本農業新聞」で連載されていた小説。村山さんは農業についてよく調べていて、野菜のおいしさや育てることの難しさを丁寧に描いています。そのほか、いじめや不登校、Iターン、田舎暮らしへの憧れと現実……。

さまざまな要素がたっぷりと織り込まれた、随所に泣ける小説です。

(NHKウイークリーステラ 2021年4月23日号より)

北海道出身。書評家・フリーライターとして活躍。近著に『私は本屋が好きでした』(太郎次郎社エディタス)。