2025年はラジオ放送が始まって100年。特集番組が次々に作られています。そんな中、興味深い番組に参加しました。特集「ラジオテキストが教えてくれる戦前の日本」です。放送とともに100年前からテキストがあったんですね。大正14(1925)年の『ラジオ英語講座』にはじまり、その後フランス語やドイツ語のテキストも発行されます。そして昭和に入ると、今は使わない表現の「支那語」講座や、満州語、エスペラント語なども登場し、戦前の空気を漂わせます。
昭和10(1935)年放送の人気番組の1つには「女中さんの時間」があります。一体どんな番組なんでしょう? テキストを見ると「使われる人の心の持ち方」「応接に對する心掛け」「燃料の扱い方」「掃除の仕方と品物の整理」「時間の利用法とお使いの心得」「台所の仕事についての心得」「子どもを預かって留守居をする時」の7回シリーズ。
当時「女中さん」は地域から東京に働きに出た10代から20代の女性が多かったようです。初回講師の大妻高等女学校の校長・大妻コタカさんは「女中さんになりますと、学校では到底得られないような立派な教材が一杯並べられて居りまして、それを1つ1つ、一人で実習し実験して参りますので、実に学校以上の良いお稽古場所となるのでございます。この意味で皆様は家庭大学の生徒さんであると申したいのでございます」と語りかけています。
その大妻コタカさんの名前は、昭和18年発行の『戦時下の更生裁縫』にもありました。女学校制服・着物のリメイクや手持ちの布地を使った防空帽の作り方などを扱ったテキストから、「女中さんの時間」が放送されたころとは一変した日常が見えるようでした。
かつてラジオは暮らしの中に確かにあった。そして、その変化も映し出しました。放送開始から100年たった今、ラジオは何を伝えているでしょうか? この先の100年を思うとき、どんな世の中になっても聴く人に寄り添う存在であってほしいと願いました。
(しばた・ゆきこ 第4土曜担当)
※この記事は、月刊誌『ラジオ深夜便』2025年4月号に掲載されたものです。
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