次世代を担う脚本家を輩出するために日本放送作家協会とNHKが共催し、毎年実施している「創作テレビドラマ大賞」。1063作の応募脚本から第48回の大賞に選ばれたのは竹上雄介さん脚本の「明日あした、輝く」。

物語は、夢破れた陸上選手の青年と、生きる希望を見つけられない家出少女2人の邂逅かいこうと再生を見つめるドラマ。井上祐貴演じる将来有望のランナー・新野にいの亮介は大学駅伝のゴール直前でライバル選手に転倒させられ、その時のケガが原因で引退。コンビニでバイトをしながら無気力な日々を送る中、具志川莉央演じる家出少女・矢沢心海ここみが現れ、万引きをして新野に捕まる。心海はふとしたきっかけで新野のアパートに転がり込むことに。そこからそれぞれの心が動き始める——。

放送開始を前に、東京・渋谷のNHK放送センターで完成披露試写と出演者会見が行われ、主人公・新野亮介役の井上祐貴さん、矢沢心海役の具志川莉央さん、脚本の竹上雄介さん、演出の板垣麻衣子さん、制作統括の須崎岳さんが出席した。


新たな発見をした井上さん、勇気をもらった具志川さん

朝ドラ「虎に翼」や大河ドラマ「どうする家康」などに出演してきた主人公の新野亮介役を演じる井上さんは、

井上「脚本を読ませていただいた時から、不思議な感覚になり背中を押してもらえる感覚が伝わってきました。新野という人物は、受け身というか、いろんなものに対して感情をいだくけれど、激しい感情の動きはしないので、あまり表面にはでない。脚本を読み進めていくうちに、ちょっとずつ未来が切り開かれていくというか、明るくなっていく様子がどんどん見えてきて、それが映像になった時、より鮮明に伝わるような作品だと思います。今日、完成したドラマをスクリーンで初めて見ましたが、やっぱり感慨深いものがあって、皆さんにどういう形で届くのか、とても楽しみです。少しでもこの作品のメッセージが届けばいいなと思います」

今作が俳優として初めての作品となる、矢沢心海役を演じた具志川莉央さんは、

具志川「私にとって、このドラマがデビュー作品で、台本を読ませていただいた時は、私が心海役を演じ切ることができるのかすごく不安でいっぱいでした。周りの方にたくさん支えてもらいながら、監督さんともたくさんお話をして、一生懸命、最後まで演じきれたかなと思います。今日、スクリーンでドラマを拝見して、心海と新野がつらいことからも逃げずに立ち向かっていく姿をみて、私も頑張らないとなと勇気をもらいました。この作品をたくさんの方に届けて、たくさんの方に勇気をお届けできたらうれしいなと思います」

元ランナーという新野を演じた井上さんは、走るシーンに関して新たな発見をしたという。

井上 「ぼくは昔からサッカーをやっていまして、運動のためにランニングをしているのですが、マラソンランナーの走り方は180度違うんです。クランクイン前からコーチに教えていただいて、一緒に作り上げてきたんですけど、ただ走るというだけでもこんなにバリエーションがあるのか、違うのかと。同じようなスピードで走っているつもりなのに全然伸びが違って、スピードも違ってという新たな発見がありました。おかげで筋肉痛になりました(笑)。本当にいい経験でしたね。新たな自分を知ることができた瞬間でもありました。とても素敵すてきな役との出会いでした」

一方、プライベートでもダンスが好きという具志川さんだが、ドラマの中でのダンスシーンは難しかったと語る。

具志川 「基本的に私はヒップホップ系のダンスをやっていまして、ドラマでの心海はジャズよりのバレエっぽいダンスだったので、体の使い方も違いますし、ひとつひとつの動きがとても難しかったです。その振りの中で心海の感情を乗せて踊るというのは、すごく難しいなと。でも、ダンス指導の先生方から温かく親切に教えていただき、おかげで、劇中での交差点で踊るシーンは、自分らしくも、心海らしくも、楽しく踊れたと思います。お気に入りのシーンの1つです」

お互いの印象について聞かれた2人は、

井上 「クランクイン前からリハーサルなどで多くのお芝居を一緒にさせていただきましたが、度胸がすごいなと感じました。僕が初めてお芝居をした時を思い返すと、こんなにしっかりしてなかったよな、とか思うと本当に頼もしかったですね」

具志川 「クランクインの前からご一緒させていただいていますが、リハーサルや撮影のたびに緊張しっぱなしで。でも井上さんは、すごく優しくて温かくて、いろいろ教えていただくことも多くて。初めてのお芝居で井上さんと共演させていただき、本当によかったなと心の底から思っています」

演出の板垣さんはそんな2人に感謝しているという。

板垣 「2人がとても信頼して演技されていたので、とてもスムーズな撮影でした。井上さんは本当に優しい方なんです。共演者に対してもそうですし、スタッフに対しても毎日声をかけてくれますし、いつも穏やかで、現場がとても優しい空気で包まれていました。それが映像にも映っているなという感じがしていて、井上さんに感謝しています。具志川さんは、結構難しいシーンもあったし、大変だったこともたくさんあったと思うんですけど、一度も弱音を吐かずに、いつもりんとして、堂々としていらっしゃって、初めてお芝居するとは思えない演技をしてくれていました」

新野と心海、それぞれの心の動きを表現するのに苦労した部分も少なくないという2人。

井上 「一番難しいなと感じたのは、クレーンゲームをしているシーンです。脚本を読ませていただいたときに、とてもテンション感や気持ちの変化が難しいなと。リハーサルの時にいろいろと監督ともディスカッションさせていただきました。おかげで、本番の撮影では悩みなくカメラ前に立てましたが、僕の中では一番落とし込むまで時間がかかったシーンでしたね」

具志川 「心海の心の移り変わりは苦労しました。素直に感情を表に出すところもあれば、隠して明るく振る舞うこともあり、常に心海の心がどこにあるのかというのを考えるのが難しかったです。シーンで言えば、お父さんと向き合う場面は難しかったです。そこは本当に台本を読んだ時から、ここはどういう気持ちで、どういう感情の強さでいけばいいんだろうと。この撮影のあとは、すごくエネルギーを使ったなと思いました」

最後に、作品の脚本を手がけた竹上雄介さんが、大賞に選ばれた思いを語った。

竹上 「僕は、この日、この瞬間を夢見て、ずっと脚本を書いてきました。片っ端からコンクールに応募して、日々もがいてきました。今こうして映像化された作品を見て、書き続けてよかったなと、率直に熱いものがこみあげてきました。『明日、輝く』という作品は、物語の冒頭とラストでは、新野と心海の立場や状況は変わりませんが、心の持ちようが変わっていくという物語です。人生、つらいことや、嫌なこと、どうしようもないことが起こったときに、どうしても後ろ向きになってしまいがちです。しかし、たった一つの出会いや会話などの出来事で、意外と好転するし、心のわだかまりがフワッと軽くなるものだと僕は思っています。こうして映像化していただけたことに感謝しています。この作品が皆さんの心に届いてくれればと願っております」

ドラマ「明日、輝く」は3月17日(月)放送です。お見逃しなく!

【作・竹上雄介(たけがみ・ゆうすけ) さんのプロフィール】
1991年生まれ。東京都在住の会社員。明治大学政治経済学部を卒業後、シナリオ・センターに通い、脚本づくりを学ぶ。「第48回 城戸賞」準入賞。「第15回南のシナリオ大賞」優秀賞。「第2回北杜市シナリオコンクール」グランプリ。「伊参スタジオ映画祭シナリオ大賞2016」審査員奨励賞。 自身の脚本が映像化されるのは初めてとなる。
【主演・井上祐貴(いのうえ・ゆうき)さんのプロフィール】
1996年6月6日生まれ。2017年第42回ホリプロタレントスカウトキャラバン審査員特別賞を受賞し、2018年ミュージカル『ピーターパン』で俳優デビュー。その後、ドラマ・映画・舞台など数々の作品に出演。NHKでは、夜ドラ「卒業タイムリミット」(2022年 主演)、大河ドラマ「どうする家康」(2023年)、連続テレビ小説「虎に翼」(2024年)など。
【ヒロイン・具志川莉央(ぐしかわ・りお)さんのプロフィール】
2009年11月12日生まれ、沖縄出身の15歳。特技はダンスと歌。今作で、俳優デビューを果たし、ドラマ初出演でヒロイン役を務める。

【あらすじ】
将来有望のランナー・新野亮介(井上祐貴)は、大学駅伝のゴール直前でライバルの堂前に転倒させられる。その時のケガで引退した新野は、3年後、コンビニでバイトをしながら無気力な日々を送っていた。ある日、新野は万引き少女・心海(具志川莉央)を 捕まえるが、心海は悪びれることなく「家に泊めてほしい」と言い出し、転がり込む。無邪気で明るく、ダンスを踊るのが大好きな心海だが、復讐したいほどの恨みがあるという。新野は聞き出そうとするが「誰かを恨んだことはないのか」と逆に質問されてしまう。ケガのことを話すと心海は、今やオリンピック候補に上り詰めた堂前に復讐しろと言う。一方の心海は恨みをなかなか打ち明けない。だが新野は彼女の後を追ううち、心海が家出少女たちと広場でともに生活し、市販の風邪薬を過剰摂取する「オーバードーズ」に走っていることを知る…… 。

第48回創作テレビドラマ大賞「明日、輝く」

3月17日(月)総合 午後10:45~11:30

作:竹上雄介
出演:井上祐貴、具志川莉央、本多力、希咲うみ、佐藤寛太、横田栄司 ほか
制作統括:須崎岳(NHKエンタープライズ/「おかえりモネ」)、本木一博(NHK)
演出:板垣麻衣子(NHKエンタープライズ/「燕は戻ってこない」)

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