放送100年「超体験NHKフェス2025」のイベントの一つとして、大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」のファンミーティングが3月23日に開催された。個性豊かな出演者たちが集い、熱気あふれるトークを繰り広げた様子を、駆け足で紹介する。
登場したのは“キャラが濃い”役柄を演じる出演者たち
イベント会場となったのは、東京・渋谷のNHKホール。ステージ上には、「べらぼう」の舞台のひとつである吉原の風景が描かれた緞帳が下ろされていた。照明が抑えられた会場に対して、緞帳の中央に描かれた桜の木が幻想的に浮かび上がる。
その緞帳が上がり、ファンミーテングがスタート。司会を務める片山千恵子アナウンサーが、平賀源内役の安田顕、長谷川平蔵役の中村隼人、いね役の水野美紀、鶴屋喜右衛門役の風間俊介を紹介すると、客席からは大きな拍手が送られた。その歓迎ぶりは、安田が「自分の声もよく聞こえないくらいの拍手で、ちゃんと平賀源内役と言えていたのか……」と戸惑うほど。
片山アナが、「きょうは特にキャラの濃い、クセの強い方々にお集まりいただきました」と紹介すると、客席からは笑い声が漏れ、すかさず風間が「笑ってくださったということは、皆さん『このメンツはクセが強いな』と思ってくださっているわけですね」と切り返した。それに中村は「僕はクセが強いつもりはないんですけど」と反応。安田が「いやいやいや」と応じ、早くもトークが熱を帯び始めた。
まずは片山アナが出演者たちの大河ドラマ出演歴を紹介しながら、「べらぼう」の撮影現場に対する印象を聞いていく。
安田:「べらぼう」は本当に楽しい現場ですね。熱量と言うのか、スタッフさんも役者さんもそれぞれが登場人物に思いを持って、本当に良い作品を作るんだ、視聴者の皆さんに届けるんだという熱量がすごく溢れている現場だと思います。
中村:大河ドラマは「八重の桜」と「龍馬伝」以来ですが、どちらも撮影自体は1週間くらいで終わって、ほとんど同じメンバー、同じ部屋での撮影でした。今回はロケにも行かせていただき、いろんなキャストの方とも共演できて、非常に楽しいですね。
水野:私は「武蔵 MUSASHI」にゲストでちょっとだけ出演させていただいたんですけれど、そのときは何もない野っ原のようなところで、鎖鎌を手に延々と戦うという(笑)。「大河ドラマって、つらいなあ」というイメージがありました。それが今回は本当に豪華なセットの中で、美しい女郎たちに囲まれて、とても楽しく撮影させていただいています。
風間:やっぱり江戸の話ということもあって、すごく活気がありますね。「粋な感じ」というのが撮影現場にも広がっていて。みんな気持ちよく撮影して、それを多くの人に届けようという熱量がすごいと感じます。現場はパワフルです。「べらぼう」は、蔦重(蔦屋重三郎/横浜流星)をはじめとするパワフルな人たちが、パワフルにお届けしています。

中村隼人と一緒のときの横浜流星は、はしゃいでる?
次にこれまでの物語をまとめた映像「4分でわかる『べらぼう』」が上映される。その映像は、瀬川(小芝風花)が花嫁衣装で花魁道中をして、「おさらばえ」と口にする場面で締めくくられていた。そのシーンに見入っていた出演者たちは、思わずため息を漏らす。
中村:切ないですよね、ここ。本当にね。
水野:最後の瀬川のアップが美しいでしょう?
風間:グッときちゃいますね。あの大門の、蔦重とすれ違うところもまた最高ですよ。
安田:あの大門、外と内じゃえらい違いだからね。大門の外に出られるということで、言葉にならない感慨深いものがあります。
さらに蔦屋重三郎を演じる横浜流星の印象を問われると……。
安田:背筋がすごいね(笑)。
中村:胸筋もすごいんですよ。もうバッキバキです。
風間:身体、すごいですよねぇ。あの筋力があるから、第1回の大火事のシーンで、お稲荷さんの祠を担いで走れたわけですよね。
水野:私は溌剌としたエネルギー、発するエネルギーが澄んでいる感じというか、スポーツマンのオーラというか。それがすごいと思いました。
風間:まさに江戸っ子というか、カラッとした笑い方で、本当に風が吹くんですよね、蔦重が喋るたびに。それが凄さだなと思います。
安田:現場でも蔦屋として居るしね。真面目、実直な面がありつつ、お茶目なところもあって。
水野:そう言えば、中村さんと一緒に撮影する日だけ、普段は見せない顔というか、ものすごく楽しそうだったんですよ。
中村:いつもは違うんですか?
水野:気を遣っている感じがあるんですけれど、中村さんと一緒のシーンでは、お友達が訪ねてきたというか、うれしそうにはしゃいでいらっしゃる感じで。仲良しなんですよね?
中村:(照れながら)そうですね。彼とは舞台で共演してから仲良くなったんですけれど、普段は寡黙で、それこそ蔦重とは真逆の感じなんですよ。そういう物静かな人間なのに、溌剌と演じているのを見ると、やっぱりすごいなと思いますね。

源内だからこそ“自由”という言葉を持てる
続いては、イベント出演者が演じる登場人物の名場面を紹介した映像を見ながら、人物像の魅力を深掘りしていくコーナー。まずは平賀源内の活躍が映し出された。
安田:自分で言うのも何だけど、魅力的な人ですよね。彼は悲劇的なことも喜劇として捉えていて、メンタルが強い。ユーモアもありますし。監督の大原拓さんからいつも言われているのですが、「いい意味で適当であることを大事にしてください」と。
これまでの撮影でいちばん好きなところは、蔦重に「自由というのは自らの心に由ってのみ生きることで、我が心のままに生きることが我儘。我儘を通しているんだから、きついのは仕方ねぇ」と語るシーンです。これは森下佳子先生が書かれたセリフでしたけれど、自由って何だろう? と、皆さんも考えたことがありませんか? すごく深いなぁと思いました。
この我儘っていうのは、今で言う我儘と、またちょっと捉え方が違う気がするんですね。似て非なるものというか。わが心のままに生きる、それで辛いならしょうがない。きっと彼は出過ぎたし、打たれたけれど、そういう人間はこれからも出てくるだろうし、その人は歴史に残っていくでしょうね。
源内は山にも行けば、野の草も拾う、絵も描く、市井の人たちに寄り添った文章も書く。いろんな人を見てきた人だからこそ、自由という言葉を持つことができる。適当でいられるのは、人の痛みがわかるからで、腹をくくっているから、ユーモアで返すことができるんじゃないか、そんな気がします。
中村は、名場面集で平蔵がシケ(乱れ髪)をフッと吹きあげるシーンが多く使われていることや「カモ平」と呼ばれていることに言及。
中村:最初の衣装合わせで、今回の長谷川平蔵は従来と違ったイメージにしたいので、シケを出すのはどうだろう? という話になって……。撮影テストのときに「シケで何かできませんか?」と聞かれたので、フッと吹いてみたら「それでいきましょう!」と。そこからシケで遊ばれる平蔵生活が始まりました(笑)。でも、カモ平呼ばわりは……。
風間:いやいや、愛されていますよ。これから平蔵の活躍が始まるだろうけど、時には、あの愛されキャラのカモ平も見たいなって思いますよね。
中村:やっぱり最後はしっかりとした長谷川平蔵、皆さんが持っているイメージに持って行きたいと思いますが、その中で“余白”は絶対に大事にしたい。どんな人にも認められる、“人間的な隙”の部分を作れたらいいな、と考えています。
“湖龍斎鉄拳”の浮世絵に出演者たちも大興奮!

イベント中盤には、浮世絵師・礒田湖龍斎を演じる鉄拳が登場。顔はいつもの白塗りだが、額には「べ」の文字が書かれ、実に3年ぶりの新ネタ「こんな『べらぼう』は嫌だ!」を披露した。
「主役が横浜流星さんじゃなくて、“横浜銀蝿”だ!」から始まる一連のネタに、会場は爆笑の渦に巻き込まれる。ネタを終えた後、片山アナに大河ドラマ出演依頼を受けたときの気持ちを聞かれた鉄拳は、こんなふうに話した。
鉄拳:素顔で出ることについては迷いましたが、やっぱり大河には出たい、と出演を決めました。浮世絵は撮影の3か月ぐらい前から練習して、ドラマの中で描いた浮世絵は、手元だけが映る場面でも吹替は使っていません。
監督から「絵を描く姿を手元から顔まで1カットで撮りたい」と言われたので、ひと月前からは1日4時間ぐらい練習したんですけど、放送を見たら編集でカットされていました……。それで、きょうは皆さんの絵を描いてきました。
鉄拳が出演者たちを描いた浮世絵を取り出すと、客席からは「すごい!」と称賛の声が上がった。そこには「礒田湖龍斎鉄拳」の署名があり、出演者たちは大感激。「ありがとうございます」と絵を持って帰ろうとする安田に、慌てた鉄拳が「SNSにアップするまで待って!」と懇願する一幕も。因みに、その浮世絵は鉄拳のインスタグラムで見ることができる。
瀬川が身請けされて吉原を出ていくときの芝居に痺れた
鉄拳が退場すると、名場面紹介は水野が演じる松葉屋の女将いねのものに。元花魁である彼女が、どんな思いを持って女郎たちと接していたのか、その心情が伝わるシーンが映し出された。
水野:いねは怖い存在だけれど、深いところで女郎たちのことを思っている、愛情あるキャラクターだと森下先生からうかがっていました。
女郎あがりなので吉原のことは知り尽くしている。女郎たちのつらさもわかるけれど、彼女の立場で今できるのは、松葉屋を切り盛りして、女郎たちのおまんまと寝床、稼ぎ口を確保してあげること。それが、自分にできる最大限のことだと、腹をくくった人として演じました。
また大好きなシーンとして、「瀬川という名跡を背負う意味」を瀬川に問いかける場面を挙げた。
水野:いねの思いがすべて詰まったシーンで、この場面、ほぼ話を聞いている小芝さんの表情なんですよね。いねの言葉を受け止める瀬川の表情で、いねの思いが膨らんで……。小芝さんの芝居に痺れました。
瀬川が身請けされて吉原を出ていくとき、最後にいねと目が合うんですけど、こみ上げてきて、本当に泣きそうになりました。

鶴屋と蔦重は、実はお互いを欲している……!?
最後に、風間が演じる鶴屋喜右衛門の名場面では、蔦重による出版物を手にした鶴屋が、笑みを浮かべながら講評している表情が次々と。SNSでも「顔は笑っているけれど、目は笑ってない」と話題になっているシーンに、客席もどよめく。すると、安田が……。
安田:いいですねぇ、あの張りついた笑顔!(笑)
風間:僕、今すごく笑っているんですけれど、皆さん、信じてくださってますか?(会場から拍手)
最近、僕がにこやかに過ごしていても、裏で何かあるんじゃないか? と言われるようになってきました(笑)。鶴屋は、本音と建前を愛している人だと思うので、裏でどう思っているのかを皆さんが想像しながら見てもらえたらうれしいです。
鶴屋には鶴屋の正義があって、吉原の方々が自分たちの産業に参入してくることを許すわけにはいかないという信念を持って対峙している。でも、蔦重の側から見ると立ちはだかる壁で、僕が笑えば笑うほど憎たらしいと皆さんが言ってくださるのは、この作品の中の鶴屋を愛してくれているおかげだと思っています。
片山アナが、「鶴屋はずっと蔦重とライバルなのか一緒に江戸の出版界を盛り上げていくのか今後の展開が楽しみ」と言うと
風間:僕個人としての感覚では、鶴屋は蔦重に会った瞬間から彼の才能を認めていたと思うんです。誰よりも才能を認めているからこそ、参入を認めるわけにはいかない。大店として背負っているものが大きいからこそ、持たざる者の蔦重が軽やかに動き回るのを、どこかうらやましくも思っていると思うんです。
蔦重は蔦重で、大店だからできることをうらやましく思っている。そういう関係だから、実はお互いを欲しがってるんじゃないかなと、僕は思っています。
あっという間に時間が過ぎ、最後は会場からの質問タイムに。水野は、「カメラが回っていないところで、共演者たちとどのように過ごしていますか」という質問に、撮影現場の舞台裏を語る。
水野:ちっちゃい子、禿ちゃんたちがすごくかわいくて、私、お話したくて寄っていくんですけれど、全然懐いてくれなくて(笑)。眉毛がないせいか、最後まで目を合わせてくれなくて、寂しかったなぁというのはありました。
女郎屋のアイドルタイム、いわゆる休憩時間のシーンを撮っているときには、現場にもゆったりとした時間が流れています。「今夜、何食べようかな?」と食堂のお勧めメニューについて話したりして、「昔の吉原にも、こんな時間があったのかもしれない」と思う瞬間がありました。忘八の親父衆が集まる撮影では、そこに健康の話が加わりますね。病院の話とか(笑)

あの有名な絵はどうやって生まれたのか……!?
締めくくりに、今後の「べらぼう」の見どころを語る4人からのメッセージが。
安田:時代劇というのは、動乱とか、切った張ったが多いですけど、「べらぼう」では江戸の市井の人々が主人公で、いろんな生き方、ドラマがある。これから蔦重がどのように生きていくのか、どのように成功して、最後はどうなるのか。まだまだ続きますので、ぜひ、応援のほど、よろしくお願いいたします。
中村:いわゆる光と闇がくっきりと描かれた作品だと思います。眼を背けたくなるような場面も実際にあった出来事で、その流れの先に今の我々がいるのだと思います。これから蔦重がどう成長していくのか、一方の武家側もどう変わっていくのか。戦のない時代ですけど、文化が花開いた時代の熱量や人々の思いを、皆さんに感じ取っていただきたいです。
水野:人も街もエネルギーに溢れている様が描かれていて、現代にも“刺さる”セリフがたくさん散りばめられています。ここから蔦重がどう成り上がっていくのか。カモ平はどう変化していくのか(笑)。地本問屋とのバトルはどうなっていくのか……。皆さん、楽しみにしていただければと思います。
風間:いち「べらぼう」ファンとして、皆さんと一緒の時間を過ごせて、すごく幸せでした。この先、皆さんご存じの“あの有名な絵”が、どのようにして生まれたのかも描かれます。これから先もべらぼうに面白い「べらぼう」を、皆さん楽しみにしていてください。
予定の1時間を30分近くオーバーして繰り広げられた楽しいトークは、観客からの大きな拍手で幕を閉じた。
なお、このファンミーティングの模様は、3月30日(日)午後5時からBSP4Kで、 4月12日(土)午後5時10分から総合テレビで放送予定。
