4月5日(土)スタートの土曜ドラマ「地震のあとで」(全4回)は、村上春樹が阪神・淡路大震災後に著した短編集『神の子どもたちはみな踊る』が原作。阪神・淡路大震災の影響を、現地ではなく遠い場所で受けた人間たちの“喪失”を伴う奇妙な物語だ。
原作では震災直後の1995年である舞台を、ドラマでは1995年から2025年に至る“30年”に置き換えることで、“今”につながる時間を描き出す。
各回の主人公を、岡田将生、鳴海唯、渡辺大知、佐藤浩市がそれぞれ演じるほか、堤真一、井川遥、錦戸亮、のん(声)らが出演する。国際的に評価された映画『ドライブ・マイ・カー』(原作:村上春樹)の大江崇允が脚本を担当し、NHKドラマ「その街のこども」「あまちゃん」で震災を描いてきた井上剛が演出する、奇妙で美しい世界を全4回で描く。
3月13日には、第1話の完成披露試写会と出演者会見が開催され、第1話に出演した岡田将生、橋本愛、唐田えりかのほか、制作統括の山本晃久プロデューサー、演出を担当した井上剛ディレクターが登壇。試行錯誤しながら作り上げたという本作への思いを語った。
村上春樹作品と対峙した“同志”として

第1話の舞台は、1995年、阪神・淡路大震災直後の東京。主人公・小村(岡田将生)の前から、震災のニュースを見続けていた妻・未名(橋本愛)が突然姿を消す。ぼう然自失の小村は、ひょんなことから釧路で出会ったシマオ(唐田えりか)たちと旅することになるという物語。
――第1話を観たご感想をお聞かせください。

岡田 村上春樹さんの原作作品に出させていただくのは、映画『ドライブ・マイ・カー』に次いで2回目です。前回もそうでしたが、今回も物語が理解できないまま撮影に臨む日々で、心身ともになかなか来ましたね……。
村上さんの原作作品に出演させていただく時は、毎回「人生とは何か」「人とは何か」という問いをずっと突きつけられているように感じます。きっと視聴者の皆さまも、同じような感覚でご覧いただけるのではないかと思います。

橋本 村上春樹さんの原作を読んだときに思い描いた幽玄な世界が、そのまま映像化されたようで感動しました。地震は、私たちにとって現実的なものですが、それと対極の異世界のような世界観が興味深く、2話以降もすごく楽しみになりました。
原作は、実際に被災した人々の話ではなく、そこから距離のある人たちを描いているところが、とても興味深く感じました。思えばそれは、私自身とも重なること。東日本大震災も熊本地震も直に被災したわけではありませんし、阪神・淡路大震災にいたっては、まだ生まれていませんでした。
この国の大半の人も同じであると考えれば、この作品は、この国の大半の人を描いた物語なんだと思います。

唐田 私は、この作品のことを、全部理解できたとは言えません。ですが、この作品が新しい発見を与えてくれたのは確かです。特に印象に残っているのは、小村とシマオとの場面。
台本を読んだときには想像もしなかった感情が、岡田さんとお芝居する中でふいに湧いてきて。これまで感じたことのない初めての感覚でした。難解な作品だからこそ得られた面白さを感じられたことが、ただただありがたいです。
――この作品を通して、阪神・淡路大震災とご自身との距離感に何か変化はありましたか。
岡田 阪神・淡路大震災が発生した30年前、僕はまだ子どもだったのでほとんど記憶がありません。ですがこうして仕事として関わらせていただくことで、地震は大地を揺るがすものであると同時に、人間一人一人の内面をこんなにも揺らしてしまうんだと気づきました。距離感の違いはあれど、誰もが何らかの影響を受けているのではないかと。
橋本 私は阪神・淡路大震災の1年後に生まれました。震災で、ありとあらゆるものが揺らいでしまった後に、人格形成されたからでしょうか。世界は諸行無常で常に移り変わりゆくものだという感覚が、物心ついた時からあったように思います。私たちの命や人生は、震災の後の余波の上にあるんだということを、今回改めて気づかされました。
唐田 「この作品で距離感が変わった」というよりは、歳を重ねていくにつれてだんだん変化してきたように思います。地震などの自然災害は、いつ起こるかわからないと認識するようになりましたし、そもそも何が起こるか分からないのが日常だという感覚を、今は持っているように思います。
“30年”の負の連鎖を全4回で描く
原作と本作との大きな違いは、時代背景。阪神・淡路大震災直後の1995年を背景とした原作とは違って、ドラマは、第1話は1995年、第2話は2011年、第3話は2020年、第4話は2025年と、年代も登場人物も異なる4つの物語を通じて、「地震のあと」の30年間を描いていく。
山本晃久(制作統括) 企画を立ち上げる時に、井上さんや脚本を書いてくださった大江さんと、4つの物語を、2025年に向かって時間が経過していく構造を取ろうと決めました。阪神・淡路大震災を起点にどんどん今に時間が追いついていくという構造で、村上春樹さんサイドにもご快諾いただきました。ドラマをご覧になるみなさまには、今までの30年に思いをはせていただけたらうれしいです。
井上剛(演出) 原作は、1月17日に阪神・淡路大震災、3月20日に地下鉄サリン事件という未曾有の“揺れ”が起きた1995年が舞台です。こんなにひどいことはもう起きないんじゃないかと当時言われていたし、僕も思っていました。ところがその後、毎年のように大きな天災や事件が起きているのが事実です。
この30年間、人々は大きな揺れにさらされ続けているということをきちんと描きたかった。それには、連作が適していると思いました。4話それぞれ、描く時代も違うし登場人物も違うので、一見バラバラな物語のように見えますが、みな“揺れている”ということは同じで、それにどう立ち向かっていくのかが描かれていきます。
そういう意味では、オムニバスドラマではなく、全4話のつながりのある物語としてご覧いただきたいです。
#1「UFOが釧路に降りる」4月5日(土)午後10:00
1995年、東京。阪神・淡路大震災のニュース映像を見続けていた未名(橋本愛)は、突然家を出ていく。夫の小村(岡田将生)は、妻の行方も分からないまま、後輩に依頼された「届け物」をするため釧路へ赴く。妻はなぜ出ていき、どこに行ってしまったのか? 小村は、釧路で出会った女性たちに奇妙な旅へと導かれていく。
#2「アイロンのある風景」4月12日(土)午後10:00
2011年、茨城。家出して海辺の町に暮らす順子(鳴海唯)は、流木を集め焚き火をするのが趣味の画家、三宅(堤真 一)と出会う。順子は、自分と同じくこの町に流れ着いた三宅に惹かれ、いつしか焚き火を共にするようになる。3月11日の明け方、焚き火の大きな炎を前に、神戸にいた三宅の過去が明かされていく。
#3「神の子どもたちはみな踊る」4月19日(土)午後10:00
善也(渡辺大知)は、熱心な宗教団体の中で、母親(井川遥)から「神の子ども」と言われ育ったが、2011年、東日本大震災を機に信仰をすてた。9年後の2020年、善也は、地下鉄の中で、耳の欠けた男を見つける。それは父親かもしれない男の特徴だった。自分の父親とは誰なのか? はたして神とは? 善也は男を追いかけていく。
#4「続・かえるくん、東京を救う」4月26日(土)午後10:00
2025年、東京。銀行を定年退職し漫画喫茶で暮らす片桐(佐藤浩市)のもとへ、突然巨大な“かえる”の姿をした「かえるくん」(のん・声)が現れ、間もなく地震が起こるという。「かえるくん」は30年前にも片桐と共に戦い、東京を地震から救ったと言うが、片桐にはまったく身に覚えがない。再び、2人の戦いが始まる。
土曜ドラマ「地震のあとで」(全4話)
4月5日(土)放送スタート
毎週土曜 総合 午後10:00~10:45
原作:村上春樹『神の子どもたちはみな踊る』より
脚本:大江崇允
音楽:大友良英
出演:岡田将生、橋本愛、唐田えりか、北香那、泉澤祐希、吹越満/鳴海唯、黒崎煌代、堤真一/渡辺大知、渋川清彦、黒川想矢、木竜麻生、井川遥/佐藤浩市 、錦戸亮、津田寛治、のん(声)ほか
制作統括:山本晃久、樋口俊一、京田光広
プロデューサー:訓覇圭、中川聡子
演出:井上剛
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