アンパンマンを生み出した漫画家・やなせたかしと妻の暢をモデルに、フィクションとして描く連続テレビ小説「あんぱん」。連続テレビ小説112作目となるこの作品で、ヒロイン・朝田のぶを演じている今田美桜は、作品に対して何を思い、どんな気持ちで日々の撮影に臨んでいるのだろうか。
クランクインのときから、温かい空気に包まれて

――連続テレビ小説のオーディションとしては過去最多、3365人の中からヒロインに選ばれたことに対する率直な印象を聞かせてください。
私、カメラテストに進む前のグループ・オーディションの後で「これ、落ちたな」と思ったんですよ。それは何となくなんですけれど、一緒に受けた方たちのお芝居がすばらしかったので、厳しいだろうな、と感じていて。
それが、予想外なことにカメラテストまで呼んでいただいたので、もう気持ちが振り切れていたから、最後のカメラテストがめちゃくちゃ楽しかったんです。ヒロインのモデルになった暢さんという方がどんな方なのか、今ほどわからない状態でもありましたし、そのときいただいた台本をとにかく素直に演じてみよう、という気持ちでカメラテストに臨んだことを覚えてます。

――「あんぱん」の収録で感じたことは?
私はクランクインのときに、いつもはソワソワしてしまうんですよ。それは緊張もあるし、作品をまだつかみきれていないからなんですが、今回はその感じが全くなくて。
なんかもう、クランクインから全力で取り組めるように、最初からぽかぽかと居心地のいい空気をスタッフの皆さんが作ってくださっていて、そのことにとても感動しました。すごく和やかに撮影に入れましたし、私の中でスッと楽になれた気がします。
――スタッフや共演者の皆さんが作る現場の雰囲気が、今田さんにフィットしたのかもしれませんね。
そうかもしれないです。ほかの作品だと、徐々になじんでいく感覚なんですけれど……。クランクインが、高知ロケからだったことが大きかったのかもしれません。夏の、大自然の中でのロケ、あの空気感で、みんなが穏やかになれたのかなとも思います。
作品の舞台・高知に「たまるかー!」

――作品の舞台となっている高知ですが、現地の熱や、地元の方々の期待をどのように感じましたか?
あれほど熱烈に歓迎していただけると思っていなくて、本当にありがたいなと思いました。同時に、「あんぱん」という作品に対しての期待値と、やなせさんが本当に愛されているんだなということを感じて、すごく気が引き締まりましたね。より責任を持って演じなければ、という思いになりました。
――劇中に、「たまるかー」という土佐ことばが何度か登場していますが、それは「すごい」という意味なのでしょうか?
「たまるかー」って、万能な言葉だと思っていて。「すごい」も、もちろんありますし、「びっくりした」でもありますし、いろんな場面で使えるので、結構連呼していますね、みんなで。

――今田さんが高知で感じられた「たまるかー」なものは?
クランクインの日、川の手前にある畑を走るシーンがあったんですけれど、その畑に植えてある野菜や花は、高知の香美市の皆様がこの撮影のために育ててくださったものだったんです。その景色が絶景で、まさに「たまるかー!」でした。
――「あんぱん」をご覧になった方々に、高知へ行ったら「ここを訪ねてほしい」「こういう体験をしてみて」というお勧めはありますか?
実際に高知県でロケをしたのは、数日ほどでしたが、すごく青々とした、広大な大自然の中で撮影させていただいたので、あの風景はぜひ見てほしいですね。
あとは「ここに、やなせさんの伯父さんの病院があったんだよ」とか、私もいろいろ教えていただいたので、やなせさんが育った町としてゆかりの地を訪ねると、作品の空気感を感じていただけるんじゃないでしょうか。町の人たちがすごく穏やかで、温かくて、やなせさんに対する愛情や作品への期待を、私も行って感じることができました。
嵩役が北村匠海さんであることに、大きな安心感が

――のぶの夫となる嵩を演じる北村匠海さんとは6度目の共演ですが、相手役が北村さんと知ったときはどう思いましたか?
もう「大丈夫だな」って思いました(笑)。朝ドラは放送時間も撮影時間も長く、1年近く撮影をするのは私にとって初めての経験ですし。それに加えて夫婦役、幼なじみであり、生涯をともにするパートナーということで、「相手役は誰になるんだろう?」と、ずっと気になっていたんです。だから、それが北村さんだと聞いたときは、とにかく安心しました。
――嵩のモデルはやなせたかしさんですが、北村さんもやなせさんと同じように多方面で活躍されていて、イメージが重なるところはありますか?
やなせさんはきっと穏やかで、ユーモアあふれる方なのかなと思うんですけれど、北村さんの性格も穏やかで、時々ボソッと、さりげなくボケるので(笑)。
それこそ音楽活動を行ったり、映画の監督をしたり、やなせさんに負けないくらいマルチに活躍されているから、嵩役に向いていらっしゃると思いますね。ご自身も「いろいろ通ずるところがある」とおっしゃっていたし、北村さんが嵩を演じてくださって本当によかったなって思っています。
このドラマが、誰かの心に寄り添えることを願って

――ところで、今田さんは高校生のころ、ドキンちゃんのキーホルダーをカバンにつけていたそうですが、当時の自分に、今のぶを演じていることをどんな言葉で伝えたいですか?
そうですね、当時はドキンちゃんのモデルが暢さんだということも知らずにつけていたのですが……。「私、ドキンちゃんになるんだよ」ということは伝えたいです(笑)。
高校生のころもそうですけど、本当に記憶がないくらいの小さなときからアンパンマンという存在が身近にあって、おもちゃも持っていたし、本当にお世話になってきたので……。いろんな思いを込めて「頑張るよ」ということを伝えたいですね。
――最後になりますが、「あんぱん」の見どころについて、どんなところを視聴者の皆さんに楽しんでほしいですか? キャストの方々も錚々たる顔ぶれだと思うのですが。
キャストは本当に豪華ですよね。私も撮影現場に行くたびに、「すごいなぁ」と思っちゃうんですよ(笑)。見どころは、もうありすぎて、ピックアップするのが難しいんですけど……。
最初の本読みのときに、中園さんが「重いテーマもたくさんあるので、明るいところはとことん明るくやってほしい」とおっしゃっていて、そういう部分も生きてくるのかなと思っています。登場人物もそれぞれに個性があって、本当に楽しめるんじゃないかなと。
そして、やっぱり戦争という大きなテーマがあって、命を落とす方や、その悲しみとどうやって向き合っていくのかとか、胸を締め付けられるシーンもあります。逆に、誰かの心に寄り添えるところもあって、とっても心が温かくなるドラマです。
ひたすら走っていたり、あんぱんを売っていたり、すごく可愛らしいシーンもたくさんあるし、ときには喧嘩をするシーンもあるし、本当に人間らしいところがたくさんあります。それから、朝田家と柳井家では雰囲気が全然違うので、それも面白いなと思うし……。とにかく人間味あふれるドラマですので、ぜひ見てください!
