本日から放送がスタートした連続テレビ小説「あんぱん」は、戦前・戦中・戦後と激動の時代を生きたヒロイン・朝田のぶ(今田美桜)と、彼女の夫になるやなたかし(北村匠海)が織りなしていく“愛と勇気”の物語だ。アンパンマンを生み出した漫画家・やなせたかしと妻の小松のぶをモデルに物語を大胆に再構成し、フィクションとして描いたオリジナル作品である。

朝ドラとはどういうものか、どう伝えるべきか。作者である脚本家・中園ミホがこだわったやなせたかしさんの世界観は何かを聞いた。

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「朝ドラの王道」を描いていきたい 

――中園さんが考えている“朝ドラ”とは?

私は、子どものころから朝ドラのファン。若い人はご存じないかもしれないけれど、「おはなはん」の時代から見ています。母も楽しみにしていて。母はゆっくり見たいからと、それまでに朝ごはんの支度を済ませていました。当時はどの家庭もそうだったと思います。日本の朝は、朝ドラを中心に回っていました。

「おはなはん」とか「雲のじゅうたん」とか、私が親しんだ朝ドラは、みんな実在のモデルがいて、その生涯を描いたもの。母や周りの大人たちは、ドラマをきっかけに主人公に興味を持ち、自伝を読んだりしていました。それほど大きな影響があったのです。

そういう姿を見ながら育ったので、私にとって朝ドラというのは、ドラマの中でも特別なもの。朝ドラがなくなるときは、テレビがなくなるときだと思っています。

今回私は、やなせたかし・小松のぶ夫妻の生涯を描く「王道」の朝ドラを書きたいと思っています。

やなせさんの世代というのは、戦争とその終結によって、正義が逆転したことを目の当たりにしました。世の中の価値観がすべてひっくり返るという体験は、その後の人生観に大きく影響したと思います。「正義は逆転する」。今、私はそれについて考えながら書いています。

――このドラマは最初、その言葉から始まりますね。

やなせさんは終戦後、「じゃあ、逆転しない正義とは何か。飢えて死にそうな人がいれば、一切れのパンをあげることだ」ということにたどり着きました。子どもたちが大好きなアンパンマンは、やなせさんのそんな思いから生まれていることをぜひ知ってほしいと思っています。

――冒頭に「正義は逆転する」という、重く、深いメッセージを持ってくることは、すんなり決まったのですか?

私自身は、かなり早く決めていました。きっと反対されるだろうな、と思ったら、やっぱり反対するスタッフもいましたけれど(笑)。でも、絶対にここから入ろうと。じつは「あんぱん」の企画書も、この一行から書き始めました。今回私がいちばん書きたいことです。

――反対されることも想定されていたのですね。

はい。これだけ長く脚本家をやっていると、ね(笑)。でも「ここは私、変えないので」と主張して、全体を貫くテーマとなっています。ですから、私の中ではこれ以外のファーストシーンは考えられませんでした。

今回、私はやなせさんの人生観や正義観をはっきり描こうと思っています。2人の恋愛についても、そういう描き方をしているつもりです。のぶと嵩は考えの違いでぶつかったりして、見ている方は初めは違和感もあるかもしれませんが、次第にわかっていただけるのではないかと信じています。