
連続テレビ小説「花子とアン」や大河ドラマ「西郷どん」などの脚本を手がけた脚本家・中園ミホさん(65歳)。3月31日から放送の連続テレビ小説「あんぱん」では、アンパンマンの生みの親である漫画家・やなせたかしさんと妻の小松暢さんをモデルにした物語を描きます。中園さんが、やなせさんとの出会いや、脚本家としての歩みを語ります。
聞き手 黒氏康博この記事は、月刊誌『ラジオ深夜便』2025年4月号(3/18発売)より抜粋して紹介しています。
心の師・やなせたかしを“朝ドラ”に
――「あんぱん」はやなせたかしさんと、奥様の小松暢さんをモデルに描いた物語ですが、なぜお二人に注目されたのでしょうか。
中園 やなせさんとは不思議なご縁があって。実は子どものころ文通をしていたんです。10歳のときに父が病気で亡くなり、落ち込んでいたら、母がやなせさんの『愛する歌』という詩集を買ってくれて。それを読んで救われる思いがしたんですね。
その気持ちを手紙で送ったら、やなせさんからすぐにお返事をいただき、そこから文通が始まりました。音楽会にもお招きいただいて「おなかがすいていませんか?」「元気ですか?」と優しく声をかけてくださいました。
──やなせさんは、2013(平成25)年にお亡くなりになったんですよね。
中園 ここ数年、なぜかやなせさんのことを考えることが多くなりました。今もお元気だったら、この世の中を見てどんなことをおっしゃるのかなと。そんなとき、今回の“朝ドラ”のお話をいただいたんです。私は常々、昭和の時代から日本を作ってきた人たちをモデルにした王道の“朝ドラ”を書きたいと考えていたので、すぐ、やなせさんを思い浮かべました。
ただ、やなせさんのことを調べてみると、奥様の暢さんもまたパワフルで魅力的な方だということが分かったんですよね。“朝ドラ”として描くなら、暢さんの目線で描いたほうがおもしろくなるかもしれないと思ったんです。
“取材の中園”と呼ばれるゆえんとは?
──脚本家として手応えを感じられたのはいつごろですか。
中園 私は湯水のようにアイデアが湧いてくるタイプではないので、特に取材を大事にしていました。「anego(アネゴ)」(日本テレビ系)というドラマの脚本を書いたときに派遣社員の女性たちを取材したのですが、会議室で話を聞いてもなかなか本音を聞き出せなくて、お酒を飲みに誘ったんですね。
でも、「正社員と摩擦とかありませんか、嫌な思いをしていませんか?」と聞いても愚痴や不満が一切出てこない。これはおかしいと思って、毎週飲みに誘ったんです。それを数か月続けていたら、ある日、一人の女性が泣きながらセクハラの話をしだして、その場にいた派遣社員の女性たちがみんな泣いたんです。
そのとき、初めて彼女たちの言葉にできない苦しみが分かったような気がして、これは絶対に書かねばと思いました。そこから生まれたのが、2007年放送の「ハケンの品格」(日本テレビ系)です。
──「はつ恋」(NHK)や「ドクターX〜外科医・大門未知子〜」(テレビ朝日系)など、医療関係の作品も徹底的に取材されています。
中園 「はつ恋」ではスーパードクターと呼ばれる著名な先生の教授室に押しかけて、先生からしつこいと言われるほど取材しました。大学病院っておもしろいところだなと思ったんですけど、いまだに「白い巨塔」*1みたいに教授回診をしているんですよね。
ある病院の院長に「何のためにやるんですか」と伺ったら「何言っているんですか。うちの病院は権威があり、立派な医療を受けられるということを患者さんに感じていただくためです」とおっしゃったのが滑稽でしたね。「はつ恋」の取材をしながら「白い巨塔」のパロディーみたいなことを書きたいなと思っちゃいました。「ドクターX」の着想のきっかけにもなっています。
*1 原作は山崎豊子の長編小説。1966年公開の映画をはじめ、複数回テレビドラマ化されている。
※この記事は2025年1月1日、2日放送「新春インタビュー」を再構成したものです。
文通前のやなせたかしさんとの偶然の出会い、脚本家になる前の占い師時代、脚本家デビューのきっかけなど、中園さんのお話の続きは月刊誌『ラジオ深夜便』4月号をご覧ください。
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