各地の石を訪ね歩く西本さん。火山活動でできた柱状節理がそそり立つ三重県・たてさきで。

河原の石やビルの石材、城の石垣――。岩石を研究し、あらゆる石から地球の歴史を読み解く西本にしもとしょうさん(58歳)。
子どものころから無類の石好きだった西本さんが、石の魅力、そして好きなことを追求する楽しさについて語ります。

聞き手 柘植恵水この記事は、月刊誌『ラジオ深夜便』2025年4月号(3/18発売)より抜粋して紹介しています。


沈まない石が人生を決めた!?

──そもそも地質学や岩石学って、どういうものなんでしょう?

西本 ひと言で言うと“石や地層などから謎を解き明かす学問”です。地球の歴史を石から読み解く、いわば“歴史科学”みたいな感じですね。例えば火山に関連した石がいっぱいある場所なら、大昔そこに火山があったと推測できますよね。

石が分かってくると、タイムマシンに乗って昔の地球に旅をしている気持ちになるんですよ。「マグマがこんなふうに上がってきたんだ」とか、「ネバネバの溶岩が噴火したところだな」とか。そんなつもりで山を歩くと楽しいでしょう? 

──円いケーキを切って中の層を見ているような感じでしょうか?

西本 まさにそうなんです。ケーキの中にスポンジやクリームがどんなふうに入っているかを観察し、ケーキがどうやって作られたのか解読していくようなものです。


街は石材の博物館

──西本さんは街の中のビルや地下道など、身近にある石にも注目していますよね。

西本 はい。きっかけは2つあります。1つは考古学や歴史学の研究者たちとコラボをしたこと。古墳や石器、城の石垣の石など、考古学・歴史学にとって重要な石を一緒に見てほしいと頼まれたんです。

──異分野の方との研究はいかがでしたか。

西本 専門領域が違うので、いろいろな角度からものを見るのが刺激的で。それまでは大地の歴史ばかりに注目してきましたが、街なかの石のルーツを調べていくと、地球の営みだけではなく、人々の営みも分かるんだと気付かされました。石から都市や文化の歴史に思いをはせることができるんですね。

もう1つは、当時勤めていた名古屋市科学館が街の真ん中にあったこと。自然観察に行きたくても遠いので、街なかに何かないかと探していて見つけたのが、建物などに使われている“石材”でした。調べると世界中のさまざまな石が使われていると知り、街なかで見ることができる石材にハマってしまったんです。

──街なかの石材は、どんなところがおもしろいのですか。

西本 日本の石は古くても数億年前くらいですが、海外からきた石材だと何十億年も前の石に出会えます。しかも本来なら海外に地質調査に赴き、採った石を切って磨いて……と観察に至るまでたくさん工程を踏まなければなりませんが、街なかの石材はすでにきれいに磨かれていて、もう観察の準備万端(笑)。

──なぜ世界中の石材が日本で使われているのでしょうか。

西本 なぜでしょう? 建築物に使われている石材は、建物の顔を化粧するようなもので、構造的には不要なんです。設計したデザイナーが、わざわざ世界中から集めてきたわけです。なぜその石で装飾したのかなど、想像するとおもしろいですよ。

──時代的にも流行があるかもしれませんね。

西本 まさにあるんです。バブル期に使われていた石材と、最近のものは全然違うんですよね。バブル期には赤い石材がはやっていたようですよ。石材の時代背景の知識を持っていると、「あっ、この石材はバブル後の2000年代のだ」とか分かるんです。


気付いて一歩先を考えるのが科学

──ビルの壁の中に、アンモナイトの化石が入っていることがありますよね。

西本 アンモナイトは人気ですね。アンモナイトが埋まっている石材って、渦巻き模様の面が見えるよう、うまいこと切断されていると思いませんか? 化石の中心部を通るような面で切断しないと渦巻きはきれいに出ないはず。

おそらくアンモナイトは水に沈むときに水平に倒れたんじゃないか、いくつも渦巻き模様が見えているのは、たくさんのアンモナイトが向きをそろえて海底に沈んでいたということなのでは……と推測できるんです。

「アンモナイトがあった!」と見つけただけで満足せずに、その一歩先を考えることが科学だと思います。今まで誰もやっていないことに気付いて究めなければ、研究はできません。だから、私たち研究者はいつも良い意味で“変”でないといけないんです。

※この記事は2024年12月15日放送「子ども科学電話相談40周年~好奇心、岩を穿うがつ」を再構成したものです。


石好きの少年時代や学芸員時代のエピソード、未来ある子どもたちに伝えたいことなど、西本さんのお話の続きは月刊誌『ラジオ深夜便』4月号をご覧ください。

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