2004(平成16)年7月、高野山を含む「紀伊山地の霊場と参詣道」が世界遺産に登録されてから20年がたちます。弘法大師・空海が開いた高野山には、今や国内外から多くの観光客が訪れます。人々を引き寄せるものは何か、そして改めて感じたい空海の考えは何かを、僧侶である藪邦彦さんに伺いました。
聞き手/山田朋生
この記事は、月刊誌『ラジオ深夜便』2025年1月号(12/18発売)より抜粋して紹介しています。
国内外から人々が集う日本の信仰の聖地
――高野山が世界遺産に登録されて20年がたちますが、何か変化はありましたか?
藪 はい。20年前は海外に発信する手段もままならず、なかなかうまくアピールできなかったのですが、“世界遺産”というキーワードによって、多くの海外メディアに取り扱っていただき、発信力が強くなりました。
――訪れる人は増えましたか。
藪 海外からの観光客が増えましたね。高野山に行くケーブルカーに乗りますと、車両の中に日本人が私一人、というようなことも。以前は高野山の宿坊やお土産屋さんには英語を話せる方はほとんどいなかったのですが、今では片言の英語で普通に対応されています。
異なる分野にもつながる空海の教え
――異業種の方との交流を大切にされているそうですね。
藪 宇宙科学を学ぶ方や数学者、医療関係の方など、さまざまな方々とお話しさせていただきます。すると異なる分野なのに、真言密教の経典に書かれていることと不思議につながることがあります。
――といいますと?
藪 例えば宇宙科学では、ビッグバンという爆発によって無数の物質が放出され、宇宙が広がり続けているといわれていますが、真言密教の経典にも、何から生まれたものでもない唯一無二の波動が存在すると説かれています。
この唯一無二の波動とビッグバンはつながっているとも考えられます。片や宇宙科学、片や宗教とアプローチは違いますが、同じ話をしていますよね。そんな共通点を見つけるとうきうきします。
――交流する中で、改めて重要だと思う空海の考えとはどんなことでしょうか。
藪 お大師様の教えの中に、曼荼羅があります。曼荼羅には、姿形の違うさまざまな仏様が描かれており、互いに関わり合って命を生かしているということが説かれています。私たちも姿形、生まれや育ちが違うからこそ尊い命なのです。そして互いに関わり合って生きることの大切さを知れば、多くの方が救われる。そんな道がおのずと見えてくるのではないかと思います。
――若い方とも積極的に触れ合う機会を設けているそうですね。
藪 特に都会の方ですね。田舎暮らしですと、周りに川や山や木々があり、自然の動きを感じられます。でも都会では自然と関わることも少なく、自然に対する感謝の気持ちが薄れているのではないかと感じることがあります。そういう方に、自然に感謝する心、人々に感謝する心、その心のベースとなる教えを発信したいと思っています。
やぶ・ほうげん
1969(昭和44)年、福岡県の寺に生まれる。高野山大学を卒業し、’88年より高野山に止住。’94(平成6)年より金剛峯寺に奉職。
※この記事は2024年7月20日放送「世界遺産20年 今改めて感じたい空海の考え」を再構成したものです。
「高野山を訪れ、命の意味を感じてほしい」と語る藪さん。高野の地を開いた空海の教えなど、お話の続きは月刊誌『ラジオ深夜便』1月号をご覧ください。
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