紅茶とスコーンが人気のおしゃれなカフェに入り、向かいの椅子に荷物を置く。パソコンの入ったリュックはなかなか重く、つい「よいしょ!」という声が出てしまった。ちょっと恥ずかしい。
しかし「よいしょ!」なんてまだ可愛いほうだ。家でひとりのときは「よいしょこらしょのどっこいしょ~!」とフルバージョンで叫んでいる。
声を出すことで実際に力が出やすくなるということも多少はあるだろう。でも私の場合、それよりも気分的な要素のほうが大きい。音の響きが心地よく、また言っている自分がなんだかおかしくもあり、その楽しい気分で元気が出るのだ。
ほかの人の掛け声を聞くのも楽しい。以前一緒に仕事をしていた番組プロデューサーのYさんの掛け声はなかなか個性的。彼が立ったり座ったりするたびに発する「よおぉ~~ぃこらせぇ~!」という野太い声! 「よ」のあとの「お」の音が強くて長いのだ。何度聞いても笑ってしまう。
私が非常勤講師をしている女子短大の「口語表現」の授業で、好きな言葉を尋ねたところ「パンツ」と答えた学生がいた。好きな言葉が「パンツ」ってどういうこと!? 聞けば、ひとりでいるとき、ちょっと疲れたなというときに不意に口をついて出るのだそうだ。スカートよりパンツが好きというのでもない。ただ、声に出して「パンツ!」と言うとなんだか楽しくなって元気が出るという。
「パ」の子音である「P」の破裂音、母音「ア」の音の明るさ、そして「ツ」で潔くスパッと終わる感じ。「パンツ」を音として分解してみると、なるほど元気が出そうな気がしてきた。
「大丈夫、大丈夫」と口癖のように言う人がいる。全然大丈夫じゃない状況でも「大丈夫」と口に出して言うことで、また周りの人はそれを聞くことで、少しだけ元気が出ることがある。きっと大丈夫だと思える。言葉にはそういう力がある。
(なかがわ・みどり 第2・4月曜担当)
※この記事は、月刊誌『ラジオ深夜便』2024年10月号に掲載されたものです。
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