ことしの10月で放送開始から65年を迎えた「おかあさんといっしょ」。これを記念して、10月30日(水)に特番「放送65年 おかあさんといっしょの魔法」が放送される。

番組のナビゲーターを務めるのは、ミュージカルを中心に活躍する俳優で歌手の井上芳雄さん。自身も現在子育て中であり、番組を楽しむ視聴者の一人である井上さんに、「おかあさんといっしょ」の魅力や特番の注目ポイントを聞いた。


僕にとって「おかあさんといっしょ」は、子育ての助けとなってくれる貴重な番組です。

 ――「おかあさんといっしょ」の特番ナビゲーターを務めることになり、率直なお気持ちを教えてください。

「おかあさんといっしょ」が65年も続いている長寿番組なんだという驚きがまずありましたが、子どものころに夢中で見ていた番組であり、今は親として子育てするうえでとてもお世話になっている番組に、このような形で関わることができて本当に光栄です。

65年という長い歴史の中でどのように番組が作られてきたのかを、今回の特番を通してたくさん発見することができたので、非常にうれしかったですね。

――ふだんお子さんとは「おかあさんといっしょ」をどのように楽しんでご覧になっているんですか。

子どもが2人いて、上の子はもう大きくなりましたが、小さいころはよく一緒に番組を見ていました。下の子は今6歳なので、一緒に楽しんで見ています。ふだん生活をしていても、子どもがどんなことに興味があるのかわからないときがあるんですが、「おかあさんといっしょ」を一緒に見ていると、以前はこのコーナーに興味を示さなかったのに、今は興味を持つようになったんだとか、この歌を歌えるようになったんだ、などの発見も結構あるんですよね。

また、子どもと同じくらいの年齢の子がテレビの中でやっているのを見て、「これ、マネしてみようか」と言うこともあります。子どもの成長度合いによって番組の楽しみ方も変わるので、僕にとっては子育ての助けとなってくれる貴重な番組という認識が強いですね。

――具体的に、番組のどのようなところが子育てに役立っていますか。

「パジャマでおじゃま」や「はみがきじょうずかな」のコーナーは、まだできないことでも、同じ年くらいの子がやっているんだから、まずはマネしてやってみようということで活用しています。

ほかには、毎日一緒に子どもとべったりいるわけではないので、久々に遊ぶとなったときにどうやって遊んだらいいかわからないこともあって。そんなときは、「おかあさんといっしょ」の「たいそう」を一緒にやって、「お父さんの上に乗ってみよう」と声をかけたりします。それが親子のスキンシップにもなるし、遊ぶきっかけを与えてくれるので、とても助かっています。

――親の立場から見た「おかあさんといっしょ」の魅力はどんなところですか。

基本は子ども向け番組ではあるのですが、子育てする親も楽しめるようにバージョンアップしているなと感じます。「たいそう」一つにしても、僕らが子どものころにはなかったような動きが使われていて、時代に合わせてどんどん進化しているので、大人が見ても面白いと思う内容なんだというのは、親になってから発見したことですね。

さらには、「おかあさんといっしょ」に登場する歌を幼稚園生がみんなで一生懸命歌っているのを聴くと、改めていい歌だなと思うし、僕もコンサートなどで歌わせていただく機会があるのですが、歌いながら「なんか泣けてくるぜ」と感動したりもするんです。

「おかあさんといっしょ」には、単なる子ども向け番組というジャンルにはない魅力や音楽のすばらしさがあることなど、たくさん気づかせてもらいました。

10月30日放送の特番では、「おかあさんといっしょ」の現場にカメラが密着! 収録の様子はテレビ初公開となる。

「おかあさんといっしょ」から、魅力的な歌がたくさん生まれていることもすごいなと思います。

――コンサートなどで「おかあさんといっしょ」の歌を歌われているということですが、番組で登場する歌にはどのような印象をお持ちですか。

実際は、子どもに向けて作られているので、シンプルな歌が多いと思うんです。難しい言葉を使っていないからこそ、メロディーの良さや言葉の強さというのがまっすぐに伝わってくる。そこがいちばんの魅力だと思いますし、モノづくりをする僕らもお手本にしなければならないところだと感じています。

最近は、音楽業界の中でも「『おかあさんといっしょ』で歌われている曲がとてもいいよね」と再評価されていることも、実感としてありますね。僕もコンサートで「ぼよよん行進曲」をミュージカル俳優の仲間10人くらいで歌ったことがあるんですが、歌詞がキャッチ―で振り付けも面白くて、そのうえ泣けてきちゃう。

この歌は、お父さんお母さんにとっては自分の子育てを思い出してグッと来るものがあるだろうし、でもすごく希望の歌でもあるんですよ。そういうメッセージがストレートにささる魅力的な歌が「おかあさんといっしょ」からたくさん生まれていることも、改めてすごいなと思います。

先日番組で見ましたが、「10月のうた」である、さだまさしさんが作詞・作曲をされた「たからもの」もすごくいい歌ですよね。いつかカバーさせていただきたいですし、こうしてどんどんいい歌が生まれているという意味でも、「おかあさんといっしょ」は日本の歌を作り出す場として重要な番組なのかもしれません。

――「たからもの」は、どんなところがすばらしいと感じましたか

「お母さんとお父さんは、子どもたちのことをこう思っているんだよ」という気持ちが歌に込められていて、とてもジーンと来ました。実際、子どもたちが「たからもの」を聴いてどのように感じるかはわかりませんが、成長して思春期を迎えたときにこの歌と再会して、「お母さんとお父さんは自分のことをこんなふうに思ってくれていたんだ」と初めて知るかもしれない。

もしかしたら、20年後、30年後になってからわかる子どもたちもいるかもしれませんが、親としては日々大切に思っていることですから。なかなか日常に追われて、直接子どもたちに「君たちは宝物なんだよ」と伝えられる場面は少ないと思います。でも、こうやって歌にしてくれることで、逆に伝えやすくなりますよね。

さださんがこの番組にも、こんなてきな歌を作られていることに感動しましたし、こういう親子で共有できる歌はやっぱりすばらしいなと感じました。

出演当時の思いを語る、横山だいすけさん(左)と茂森あゆみさん(右)。

特番を見たら、番組への愛情や愛着、感謝が大きくなるはずです。

――特番のタイトルが「放送65年 おかあさんといっしょの魔法」ということですが、番組にはどんな魔法があると思いますか。

65年も続いているということは、さまざまな研究の成果ですし、たゆまぬ努力があったからこそだと思います。そして、番組に関わって来られた方たちの「子どもたちを楽しませたい」「お母さんと一緒に楽しんでほしい」という思いが生んだ結果でもありますから、その思いこそが魔法になっているのではないでしょうか。

今回の特番を通して、ただ偶然にできたものではなく、ちゃんと意図があり、思いがあって「おかあさんといっしょ」が作られてきたことに感動しました。65年の中で積み重ねてきたものを、時代ごとに次の世代の人たちが引き継いできたこともすばらしいと思います。

特に、歌のお兄さん、お姉さんの代替わりがそれに当てはまると思うんですが、歴代の人たちがやってきたことをしっかり今の人たちが受け継いで、時代に合わせて新しくしていくということを実践できているのも、この番組が長く続いている秘密なんだと感じます。

今回の特番では、そういった番組のすごさを知ることができますし、まさに世界に向けても、日本が誇りを持って紹介できるすばらしいコンテンツだと思うので、もっとたくさんの人に「おかあさんといっしょ」の魅力を知ってほしいですね。

――特番に出演したことで、今後「おかあさんといっしょ」の見方も変わりそうですか。

「おかあさんといっしょ」は時代とともに変わってきたところもあると思います。今では「おとうさんといっしょ」も放送するようになりましたよね。これから僕も、子どもが大きくなるにつれて番組を見る回数が少なくなってしまうかもしれませんが、自分の子どもが大人になって子育て世代になったときに「おかあさんといっしょ」に再会すると懐かしさを感じるはずです。

そして、僕の孫が生まれたら「おじいちゃんのときの『おかあさんといっしょ』はこうだったよ」と伝えるだろうし、そうやって世代でつながっていける番組もなかなかありません。僕自身もこの先、「おかあさんといっしょ」とどういう関わり方ができるのか、とても楽しみです。

10月からスタジオのセットも新しくなった。

――「おかあさんといっしょ」は、どんな番組であり続けてほしいですか。

今後も番組づくりの中で、たゆまぬ努力を重ねられていくと思います。時代が変わることで子どもたちも変化していくし、親たちも変化していく。生活のスピード感やリズム感などいろいろなものが変わっていくでしょうけれど、「おかあさんといっしょ」という番組の一番大事なところは、子どもたちへの愛情であり、親への愛情でもあると思うんです。その気持ちは、これからもずっと変わらないでほしいですね。

今回の特番のように、子どもではない方や子育て世代ではない方たちにも、「今の『おかあさんといっしょ』ってこうなっているんだよ」ということを知ってもらえる機会が、これからどんどん増えていってほしいです。

――特番の放送を楽しみにしている方にメッセージをお願いします。

65周年を迎えたことは本当にすばらしいことだと思います。「おかあさんといっしょ」自体は親子に向けて作られている番組ですが、今回の特番はかつて子どもだったすべての人たちが楽しめる内容になっています。なかなかふだん見ることができない収録現場も見られますし、きっと特番を見たら、「おかあさんといっしょ」への愛情や愛着、感謝が大きくなるはずです。

記念すべき65年のタイミングだからこそ見ることができる内容になっていますので、全ての世代の方たちにぜひご覧いただけたら幸いです。

【プロフィール】
いのうえ・よしお

1979年生まれ、福岡県出身。2000年にミュージカルデビュー。数々のミュージカルや舞台で主演を務めるほか、歌手やMCなど幅広く活躍。NHKでは、大河ドラマ「おんな城主 直虎」、「経世済民の男・小林一三」などに出演。

放送65年 おかあさんといっしょの魔法

10月30日(水) 総合 午後7:57~8:42
11月4日(月) 総合 深夜0:35~1:20(再放送)

子どもが参加するコーナーの収録(スタッフ間で「せき収録」と呼ぶ)は、年間およそ 200 回で、1日に3回。1回の収録に参加するのは、抽選で選ばれた一般の3歳児、40人です。
おとなでもアタフタしてしまう収録ですが、いかに緊張させず、集中力を切らさず、迅速に参加してもらうか。長年の番組制作の経験で培ってきたノウハウや、出演者とスタッフが一丸となった連携プレーがあります。収録はどのように行われているのか? その現場にカメラが密着します! 
また、放送がどのように始まり、どんなこだわりをもって制作されてきたのか、貴重なアーカイブス映像とともに歴史を振り返る企画や、“レジェンド”のお兄さん・お姉さんがどんな喜び、発見、戸惑い、葛藤などを抱え、どう前に進んでいったのか、本音を打ち明ける座談会企画も!

「おかあさんといっしょ」NHK公式サイトはこちら
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