10月8日(火)スタートのドラマ10「そらわたる教室」の会見が行われ、出演者の窪田正孝さん、小林虎之介さん、伊東蒼さん、制作統括の神林伸太郎さんが登壇した。


大阪府の定時制高校・科学部で、年齢も抱える事情もさまざまな生徒たちが、2017年の科学研究の発表会「日本地球惑星科学連合大会・高校生の部」で優秀賞を受賞した。その後、「はやぶさ2」の基礎実験にも参加することになったという実話に着想を得て生まれたのが、伊与原新さんの小説『宙わたる教室』だ。本作は、この小説をドラマ化したものとなる。

科学者として将来を有望視されながらも、突然、定時制高校の理科教師となる藤竹ふじたけかなえを演じる窪田さんは、定時制高校での学びの場を、“大人の青春”と評した。

「定時制高校の科学部という、なかなかない舞台。ジェネレーションを超えた何かがうごめいていて、夜の教室っていうのも、今までの学園ドラマと全然違う雰囲気があって、大人の青春が詰まっているなって感じています」(窪田

また、科学者から理科教師になった藤竹を演じるにあたって、熱を帯びすぎず、バランスを取ることを意識したという。

「セリフに難しい専門用語がありましたが、難しいものと捉えてしまうと、その枠でしか見えなくなってしまいます。なので、科学の楽しさや実験の面白さを、生徒はもちろん、視聴者にどうやったら届けられるか、というのはすごく意識しました。でも、熱を帯びて伝えすぎると、視聴者側もちょっと引いてしまうのかなって思ったりして……。熱すぎず、冷たすぎず、距離感を保ちながら科学の面白さを伝えたいと考えました。

人は難しいことを耳で聞いているだけだと、どうしても右から左に(流して)処理してしまうんですけど、実験という目に見えると分かりやすいもので具体的に伝えると、不思議とのめり込んでいきます。この作品はそこを大事にしています。藤竹は先生でも研究者でもあるから、そのあたりのバランスも意識しました」(窪田


役づくりのために新宿歌舞伎町に足を運ぶと......

小林虎之介さんと伊東蒼さんは、定時制高校の生徒を演じている。2人とも、さまざまな事情や苦しみを抱えている難しい役どころだ。

小林演じる不良生徒・柳田たけ は、読み書きが苦手なことを馬鹿にされたのをきっかけに、不登校から不良の道に進む。

小林さんは岳人を演じるにあたって、彼がまとう雰囲気をつかむために、クランクインの1週間前に歌舞伎町に行って、実際に肌で感じてみたという。しかし、そこで思わぬ出来事に遭遇した。

「夜、歌舞伎町や新大久保などに足を運んで、どういう人がいるのかなとか思いながらぶらぶらしました。普段暮らしている場所とは全然違った空気感があったので、すごく勉強になりました。ずっと立ち止まっていて絡まれるのも嫌なので、自転車に乗って、すごくゆっくりぎながら同じところを回っていたんですね。そしたら警察官3人に止められて、『かばんの中身を全部出して見せてください』って職質(職務質問)されました(笑)。自転車も買ったばかりで、まだ防犯登録が反映されていなくて……」(小林

伊東さんが演じるのは、SF小説マニアの名取佳純。起立性調節障害で朝に活動できないことから定時制高校に通い始めたものの、保健室登校を続けている。彼女は、ふとしたきっかけから藤竹と関わるようになる。

「佳純は自分の殻に閉じこもっていて、家族以外と接する機会があまりなかったはず。だから、藤竹先生に声をかけられてからは、すごく目まぐるしかっただろうなと思いました。

佳純の根っこにはSF小説が好き、宇宙や天体が好きという気持ちがあるので、それを忘れないようにしつつ、藤竹先生の言葉に惹かれていくところも大事にしようと思いながら演じました」(伊東


科学実験の映像化は苦労の連続

本作の見どころの一つに、藤竹が授業などで行う科学実験がある。しかし、小説に描かれていたものを映像化するにはさまざまな苦労があったという。制作統括の神林伸太郎さんは、

「科学実験の再現は苦労の連続。米村でんじろう先生などにも監修に入っていただき、事前に予備実験をやったのですが、なかなかうまくいきませんでした。予備実験を何回も繰り返し、脚本と実験を行ったり来たりしたので、通常よりも倍の時間がかかったと思います。

ただ、実験に力を入れた意味は非常にありました。『なぜ空は青いのか』『火星の夕日は、実は青い』などは、科学に興味がない人でも普通に疑問に思うもの。この作品は、好奇心みたいなものが本当はあるのに、それを抱えている事情で出せないがために学校に通えなかったり、チャンスを奪われたりしてきた人たちの物語なので、科学実験でその好奇心をくすぐってあげる。そこがちゃんと描けていれば、視聴者の皆さんの好奇心みたいなものが刺激されて物語に引き込まれていくはずなので、実験の再現はできるだけ忠実にしました」(神林

会場には原作者の伊与原新さんも来ており、会見の途中から登壇し、作品の感想を述べた。

「言うまでもなくめちゃくちゃよくて、すごい感動しました。澤井(香織)さんの脚本の力と、出演者の皆さんの演技の力で、自分の原作の世界が何倍にも何十倍にも豊かに広がっていたのが驚きで感動しました。

第1話は、小林さんの演技が本当にヤバくて、家で、1人で観ていたら絶対泣いてました(笑)。窪田さん演じる藤竹は、ああいう研究者が本当にいそうな感じがしました。彼は、教師としてではなく、研究者としてのトレーニングを受けてきた人。だから、自分は教える側、生徒を教えられる側っていう立場を意識していなくて、フラットな感じなんですね。自分も彼らも同じ世界に生きていて、同じようなことができるはずだっていうことを信じている。そういう生徒への目線が、窪田さん演じる藤竹から感じられて、プロの役者さんはすごいと思いました」(伊与原

それを受けて窪田さんは、藤竹は研究者であって、先生っぽくしないことを意識していたと語った。

「藤竹は研究者というかプレイヤー側なので、教える側ではないんですよね。そこはずっと軸にあって、先生っぽく言おうという意識は全くなかったです。ただ、回を重ねるごとに、生徒の皆さんを通して彼の温かさみたいなものが少しずつ出て、だんだん人間らしくなっていくというか……。

宇宙にはまだまだいっぱい謎があって、その真理に誰よりも興味を持っているのが藤竹。宇宙や天体が大好きな気持ちは常に持っていて、ピュアな、子供のような、心のままにいる人なのかなと思っています」(窪田

小林さんと伊東さんも、窪田さん演じる藤竹が先生に見えたことがないと笑った。

「俳優の先輩として学ぶことは多いけど、先生だと思ったことは1度もない(笑)」(小林

「私は第3話で藤竹先生と関わるのですが、第1話の先生は雰囲気が全然違っていてびっくりしました。その違いもぜひ楽しみにしていただけたら」(伊東

定時制高校の“夜の教室”を舞台にした物語。科学や宇宙への好奇心もかき立てられる青春ドラマに期待が高まる。

【あらすじ】
東京・新宿にある定時制高校。そこにはさまざまな事情を抱えた生徒たちが通っていた。負のスパイラルから抜け出せない不良の柳田岳人(小林虎之介)。授業についていくことを諦めかけた、フィリピン人の母と日本人の父を持つ越川アンジェラ(ガウ)。起立性調節障害を抱え、保健室登校を続ける名取佳純(伊東蒼)。青年時代、高校に通えず働くしかなかった長嶺省造(イッセー尾形)。年齢もバックグラウンドもバラバラな彼らの元に、謎めいた理科教師の藤竹(窪田正孝)が赴任してくる。藤竹の導きにより、彼らは教室に「火星のクレーター」を再現する実験で学会発表を目指すが、自身が抱える障害、家庭内の問題、断ち切れない人間関係など様々な困難が立ちはだかり……。

ドラマ10「そらわたる教室」(全10回)

10月8日(火)スタート
毎週火曜 総合 午後10:00〜10:45/BSP4K 午後6:15〜7:00
毎週金曜 総合 午前0:35〜1:20(再放送)※木曜深夜

原作:伊与原新『宙わたる教室』
脚本:澤井香織
音楽:jizue
主題歌:Little Glee Monster「Break out of your bubble」

出演:窪田正孝、小林虎之介、伊東蒼、ガウ、田中哲司、木村文乃、中村蒼、イッセー尾形ほか
演出:吉川久岳(ランプ)、一色隆司(NHKエンタープライズ)、山下和徳
制作統括:橋立聖史(ランプ)、神林伸太郎(NHKエンタープライズ)、渡辺悟(NHK)

ドラマ10「宙わたる教室」NHK公式サイトはこちら

兵庫県生まれ。コンピューター・デザイン系出版社や編集プロダクション等を経て2008年からフリーランスのライター・編集者として活動。旅と食べることと本、雑誌、漫画が好き。ライフスタイル全般、人物インタビュー、カルチャー、トレンドなどを中心に取材、撮影、執筆。主な媒体にanan、BRUTUS、エクラ、婦人公論、週刊朝日(休刊)、アサヒカメラ(休刊、「写真好きのための法律&マナー」シリーズ)、mi-mollet、朝日新聞デジタル「好書好日」「じんぶん堂」など。