NHK財団が主催した「インフォメーション・ヘルスAWARD2024」。全国から集まった65件の応募作からグランプリ1件・準グランプリ2件・特別賞7件が決まりました。そして今年度も「第2回インフォメーション・ヘルスAWARD」の募集を開始しています(詳しくは財団の公式サイトをご覧ください)。

昨年度AWARDで選考委員をつとめた、株式会社PoliPoli代表取締役の伊藤和真さんは現在25歳。大学入学後に「俳句てふてふ」という俳句SNSアプリを作ったことをきっかけに、ネットを舞台にした新しい事業を次々に立ち上げています。

ネット起業家としてのミッションは、「新しい政治・行政の仕組みをつくりつづけることで、世界中の人々の幸せな暮らしに貢献する」。

政策の動きや課題を知って自分の意見を様々な形で反映させられる政策共創プラットフォーム(PoliPoli)や、 行政からの意見募集に自分の意見を届けることで政策をサポートする(PoliPoli Gov)、民間や自治体の政策の実証実験をサポートし社会課題解決を加速させる寄付基金(Policy Fund)など、ネットを通じて社会の仕組みを変えていく提案を続けています。

そんな伊藤さんにAWARDの印象や情報空間の課題について聞きました。

「特に高校生からは誹謗中傷をテーマにした応募が多かったですね。高校生のリアルな悩みを知ることができて僕自身にとっても学びになりました」(株式会社PoliPoli代表取締役 伊藤和真さん)

想像していたよりずっとクリエイティブですごいな

——第1回AWARDの選考をされた感想を聞かせてください。

事前に想像していたよりずっとクリエイティブなアイデアが多くて「あっ、こういう発想があるんだ」と感心したし、面白かったです。

僕はスタートアップ起業家の目線で、企画というより事業化できるかどうかを判断することが多いのですが、今回は、企画段階であったり研究に近いものが出てきたりしたので、よりクリエイティブな内容になっていてすごいと思いました。

——若い人たち、特に高校生からの応募が多かったことについては。

僕は高校生の時にこうしたAWARDに応募した経験はなかったので、まずチャレンジする、一歩踏み出した皆さんに拍手です。今後もどんどんチャレンジしてほしいなと思います。特に高校生からはぼう中傷ちゅうしょうをテーマにした応募が多かったですね。

僕も SNS上の誹謗中傷対策を検討する総務省の有識者委員を務めたり、弊社のサービス「PoliPoli Gov」で関連の意見募集をしたりと日頃から考える機会が多いのですが、今の高校生のリアルな悩みを知ることができて僕自身にとっても学びになりました。


ネット情報に振り回されないためには、自分と向き合って考える時間が大切

——伊藤さんはインターネットを舞台に、これまでにない新しい事業を立ち上げ展開しています。その伊藤さんにとって、インフォメーション・ヘルス=情報的健康という考え方はどのように映っていますか。

皆さん、幸せとか喜びを感じる「理想」がある一方で「現実」がある。その時に「理想」分の「現実」を1に近づけていきたい。数式にすると

となり、それを追求したいと……。

しかし、ネットやSNSにはすごい人や素晴らしいものがあふれていて、どんどん「理想」、つまり分数の分母だけが大きくなってしまう。きらびやかな世界が画面の向こう側で輝いている。でも自分自身の「現実」はなかなか進歩しないので、そのギャップをすごく大きなものに感じて悩んでしまう。

そんな時は、自分がどういう存在で何をしたいかを考える、つまり自分と向き合うことが大切です。「自分探し」とは少し違います。自分の中の軸とか定まった考えを固めていくことだと思います。

ネットのコンテンツを見ていてワクワクしたり逆に嫌な感じになったりした時に、なぜそんな気持ちになったのかを自己分析する。そうすることで自分に必要な情報を選んで摂取していくこと=「情報的健康」が可能になってくる。

そうしたリテラシーが、小さい時から一人ひとりに求められるすごく難しい時代になっているなと思います。このAWARDに応募するというのも、そういう自分に向き合って考えるきっかけとして重要性があると思います。


「情報的健康」の仕組みの「社会実装」とは

——インフォメーション・ヘルスAWARDは「情報的健康」のアイデアとともに、その社会実装(実際に社会で使えるようにすること)を目標にしていますが、大変高いハードルがある難しいことだと思っています。ネットを使って新しい事業を次々に立ち上げていらっしゃる起業家としてアドバイスをいただけますか。

日本はとても便利な社会なので、本当に使われるものを新しく作る、ゼロから1を作るのはすごく難しい、いや無理に近いと思っています。基本的には失敗する。

でも、そういうチャレンジをすることで、アイデアがブラッシュアップされたり、作成者が勉強になったりという、フィードバックをもらいながら成長していくプロセスがまずは大事です。

そのうえで、これまでになかった切り口で社会にインパクトを与えるというのが本当の意味でのクリエイティブなことだと思っています。AWARD参加者の皆さんも、ぜひ実装を目指してほしいと思います。

起業家には2パターンあって、まずマーケット(市場)があるところを見定めて社会全体を見て事業を作っていく方法があります。一方で僕の場合は、マーケットとかお金になりそうというよりも、まず自分が作りたいものとか社会にとって必要だと思うものを作っていくやり方です。自分の思いがあってそれを実現しようとするからこそ続けられるのだと思っています。

僕には、ネットをプラットフォームにしたサービスを作ることで、誰かを幸せにするという自己実現ができた、という強い原体験があります。それは最初に作った俳句のネットサービスのプログラムでした。

どんどん広がっていって、自分の知らない人たちがそれを使って俳句を投稿したりコメントしたりしているのを見た時の感動は忘れられません。ネットを使うことで自分にできることが何百倍にも広がったと感じました。

そしてアジャイル*に社会に役立つものにするために、一度作ったものをもっと使ってもらえるように、もっと使いやすいようにどんどん変えていくことが大事です。ネットだとそれができるんです。

* アジャイル……「素早い」「機敏な」という意味。ビジネスでは「状況の変化に対して素早く対応すること」を表す言葉として用いられている。

「インターネットのサービスにはいいことがたくさんある。そう信じているからこそ、ネットの課題やリスクに向き合って解決策を見つけていこうと思います」(伊藤さん)

調和とクリエイティビティが両立する情報空間を互いに影響し合いながら作っていく

——最後に第2回AWARDに応募しようという方々にメッセージをお願いします。

AIもそうですが、インターネットのサービスは自分ができることを増やし続けてきた人類の歴史の中の流れですから、いいことがたくさんある。ある程度みんなが願う方に向かっている。自分はそう信じているからこそ、ネットの課題やリスクに向き合って解決策を見つけていこうと思いますし、AWARDが問いかけている「情報的健康」を考えることは大切だと思います。

調和とクリエイティビティが両立することがインターネット空間に求められていると思っています。誰でも新しいことにチャレンジしたり自分の思うように行動したりできるのと同時に、攻撃し合ったりぶつかり合ったりしないように調和していく場であることが必要です。

誰か一人がリーダーシップをとって決めていくのではなく、みんなが互いに影響を受けたり与えたりしながら、ネットをうまく使いこなしていく仕組みを作っていく。今回、AWARDにアイデアを提案するところから、皆さんも関わっていただきたいなと思います。

(取材・文/NHK財団 インフォメーション・ヘルスAWARD事務局)

インフォメーション・ヘルスAWARD 2024に関しては公式サイトをご覧ください。
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