NHK財団が主催した「インフォメーション・ヘルスAWARD2024」。準グランプリに輝いた「偏食の可視化」は、ネットで見ている内容を分析しその偏りをグラフ化するとともに、似た内容ばかりを見ている人にはAIが違った見方を表示して情報の偏食に気付かせるというアイデアです。受賞した静岡大学情報学部・高口こうぐち鉄平教授研究室13期生代表の島袋響一朗さんに聞きました。


ネットやSNSを使ってるとストレス溜まるし疲れるよね、とみんな漠然と思っている

——インフォメーション・ヘルス=情報的健康についての意見を聞かせてください。

率直に大事な考え方だなと思っています。SNS使ってるとストレス溜まるよね、とか、ネットで疲れちゃうことが多いね、という話は周りの友達とよくします。SNSでつぶやいたらすごく過激なリプライがきて、心にマイナスの印象が残ってしまうというような、嫌な気持ちになった経験をみんな何かしら持っています。

注目を集めるためには、みんなが幸せに感じるような伝え方をしなくてもいい、むしろそうじゃないほうが儲かってしまう、という所があると思います(参考:アテンションエコノミーって何? 「クリック命」のネット世界)。ただ、そうした不安を漠然と感じていても、それにきちんと向き合って対策を考えようという人はなかなかいないかもしれません。

一方で、人を非難するような投稿をする人のコメントに対しては、ブロックするとかミュート機能を使うという対策をしたり、ネットで煌きらびやかな世界を見て疲れてしまった時に、そうした情報を遠ざけようという管理をしていたりする人も身の回りにはたくさんいます。あふれる情報の中で精神的に健康でいようとすることへの意識は大切だと思います。


情報の偏りを自覚するには「可視化」することが大切

——受賞した「偏食の可視化」というアイデアはどうやって生まれたのですか。

食品の栄養管理サービス、例えば食べたものを入力して栄養素の偏りを記録してくれるアプリがありますね。脂質をりすぎ、とかビタミンが少なすぎ、とか。それを情報に置き換えて自分の偏りを自覚することができたら、危機感を持って改善しようと思うきっかけになると考えました。

ただ、「情報的健康」とか「フィルターバブル」といった言葉は難しそうだなと感じる人も多いと思います。だから、とにかく使ってもらうためにゲーム感覚でわかりやすく、ハードルを低くしようと考えてわいらしいデザインにしました。

「偏食の可視化」視覚的アプローチ(NHK財団 インフォメーション・ヘルスAWARD2023年度実施報告)
第1回インフォメーション・ヘルスAWARDシンポジウム(2024年04月2日)より。中央が島袋さん。

情報の偏りといってもそれを判断するのはとても難しい

——選考委員からは、わかりやすく見える化するための「ビジュアル」はとても大切だという評価がありました。そのうえで、実際に社会実装するためには、ネットで見ている情報のデータをどうやって集めるのか、とか、そもそも何をもって情報が偏っていると判断するのか、など様々な課題があるという指摘もありましたね。

情報の偏りを意識する例として、ニュース記事ごとに、右翼ポイント・左翼ポイントを配分する、というアイデアを提示しました。わかりやすい例として挙げたのですが、実際にネット上にある意見は、はっきりどちらかに分類できるものはほとんどありません。偏っているかどうかをどう判断してどのようにポイントを振るかがとても難しい。

さらに、偏りを可視化しようとするカテゴリーにどんな名前を付けるかによっても使う人の印象が変わってしまうなど、解決しなければならない課題がたくさん残っていると考えています。


健康のためにスムージーを飲んでいる人はいるけど、情報の摂取について主体的に行っている人は少ない

——「情報的健康」や「情報の偏り」といっても、人それぞれに求めているものが違っていて、それを一つの物差しに当てはめてしまうとかえって表現の自由や思想・信条の自由を制限することにつながりかねませんね。

偏った食事をするべきではないと分かっていてもこってりラーメンは食べたいし、病気になるかもしれなくてもそれでいいと思う人は、極論すれば食べ続けてもいいわけですね。

だから「情報の偏り」などの課題を解決しようとするには、それに直面している人が受け身=受動的ではなくて、本人が自覚して主体的に関わっていくことしかないと思っています。情報の選択の自由や閲覧する自由が、妨げられたり失われたりしてはならないわけですから。

自分の周りの大学生の中には、健康意識が高くて食事や運動に気を遣っている人がいます。それと同じように、情報的健康を意識するのが当たり前のような状況にならないかな、と思います。健康のために毎日ジムに通ってヨガをやってます、グリーンスムージーも飲んでます、という人は別に変な人じゃないですよね。

でも情報の摂取について同じように主体的に健康になろうと思っている人は少ない。そもそもそこまで思いつかないですよね。ましてや徹底してやっているって聞いたらちょっとびっくりされちゃう、というのが現状では多いのかなと思っています。

「情報の偏りなどの課題を解決しようとするには、本人が自覚して主体的に関わっていくことしかないと思っています」(島袋さん)

AWARDに正解はないので柔軟に考えてほしい

——最後に第2回AWARDに応募しようという方々にメッセージをお願いします。

「インフォメーション・ヘルス」や「情報的健康」という考え方自体が新しいものなので、参考にできるものが本当に少ないと思います。ですから心細さとか、これでいいのだろうかという疑問や不安を抱えながら取り組むことになると思います。

でも、基本的にこのAWARDに正解はないので、とがっているんじゃないかとか、おかしなこと言っているんじゃないかみたいなことを考え過ぎずに、柔軟に肩の力を抜いて、できたら自分の周りの人たちと意見交換したりしながら取り組んでほしいなと思います。

(取材・文/NHK財団 インフォメーション・ヘルスAWARD事務局)

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