NHK財団では、情報空間の課題の解決方法や、一人ひとりが望む「情報的健康(インフォメーション・ヘルス)」を実現するためのアイデアを募集し、社会実装に向けての取り組みを進めています。今年も募集が始まりました。
詳しくは財団の公式サイト「インフォメーション・ヘルスアワード」をご覧ください※ステラnetを離れます

昨年開催された「第2回インフォメーション・ヘルスAWARD」アイデア部門で準グランプリを受賞した木田直斗さん(関西大学)にお話を伺いました。

木田さんのアイデア「知ることに楽しさを」は、記事を読んでクイズに答えるとキャラが育つ、新聞社連携の学習アプリです。(木田さんが書いたアイデア


第2回インフォメーション・ヘルスAWARD 表彰式(2024.12.3)

SNSやニュースアプリの“なんとなくの違和感”を形にしたかった

――受賞作品を制作されたきっかけや、背景にある思いについて教えてください。

木田 大学生活の中で「何かに挑戦したい」と思っていたときに、この募集を知ったことがきっかけです。そこからアイデアを練っていく中で一番に思ったのは「みんなにリテラシーを持ってもらいたい」ということだったんです。

それで「どうやってリテラシーを身につけてもらうか?」と考えたときに、まずは“基本的な事実”をきちんと受け取れるようになることが大事なんじゃないかと思ったんですね。つまり、ネット上や口コミで語られていることの中から事実を見つけ出す力を育てることが、リテラシーの第一歩になるんじゃないかと。そう考えたのが、この作品をつくる最初のきっかけでした。

――情報空間に対して違和感を覚えたのはいつ頃からでしたか?

木田 高校生の頃からSNSやニュースアプリを使っていて、「同じような情報ばっかり出てくるな」とか、「これって本当なのかな?」って思うことはありました。
でもそのときは、なんとなくモヤモヤするだけで、「フィルターバブル」や「アテンションエコノミー」という言葉を知っていたわけではなかったんです。

大学に入って、そういう概念を学んだことで、「あのとき感じていた違和感って、こういうことだったんだな」ってに落ちたというか。だから今回の作品でも、そういう“なんとなくの違和感”をちゃんと言葉にして、形にしたいと思いました。

――そのころ、高校などで情報リテラシーについて学ぶ機会はありましたか?

木田 授業自体は何回かありましたが、そこまで深く踏み込んだ内容ではありませんでした。
どちらかというと、「インターネットの人とはあまり関わらないようにしましょう」とか、初歩的な注意喚起が中心で。

だから、実際に自分たちが日常的に使っているSNSとか、情報の受け取り方について考えるような内容ではなかったんですよね。そういう意味では、あまり強い効果はなかったんじゃないかな、というふうに感じています。

――今回、準グランプリを受賞した「知ることに楽しさを」はクイズ形式の作品ですが、制作にあたって特に苦労した点や工夫した点があれば教えてください。

木田 今回の作品で特に意識したのが、「ゲーミフィケーション」の要素です。これは、大学のゼミの水谷みずたにえいろう 先生(当時:関西大学社会学部メディア専攻 准教授、現:慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所 准教授)からも強くアドバイスをいただいた部分でした。

これまでもニュースアプリなどでポイント制度がありましたが、それは、「ニュースを読めばポイントがもらえる」というようなものでした。そういう仕組みはポイントが欲しい人には響くかもしれないけれど、時間に余裕がない人や、そこまで関心がない人にはなかなか届かないんです。

そこで、「ゲームをしたい」という動機づけをして、自然とニュースや情報に触れてもらえるようにしたいと考えました。ゲーム感覚で楽しみながら情報に触れることで、それが日常の習慣になっていけば、すごく強いツールになるんじゃないかと思いました。

 ゲーミフィケーション…ゲームの仕組みや要素を、ゲーム以外の場面に取り入れて、人の行動や意欲を高める方法


「今、自分がのめり込んでいる社会」を 普遍的・俯瞰的に見る

――大学のゼミで「情報的健康」について学ぶ中で、新しい気づきはありましたか?

木田 一番大きかったのは、「今、自分がのめり込んでいる社会」を、少し引いた視点――つまり、普遍的・かん的に見られるようになったことだと思っています。

というのも、自分自身も中学・高校の頃はSNSにかなりのめり込んでいて、その世界しか見えていなかった時期がありました。
誰かが言ったことを、そのまま自分の現実として受け取ってしまって、それを無意識のうちに自分の中にめ込んでいたんです。

でも、「情報的健康」やメディアについて学ぶ中で、「誰かが言っていること」と「事実」は必ずしも同じではないということに気づきました。
その言葉の背景や意図を考えたり、他の視点と照らし合わせたりすることで、自分の中に“物差し”のようなものができてきたんです。

その物差しを持てたことで、情報をただ受け取るだけじゃなくて、自分なりに解釈して態度を形成できるようになった――それが一番大きな変化だったと思います。


情報に触れる“きっかけ”の格差が課題

――昨年は「SNS選挙元年」と言われる一年でもありました。木田さんのまわりでも、話題になったことはありましたか?

木田 正直、全然話題にはなってなかったですね。自分のまわりではニュースを見ている人も少ないのが現実でした。

――ニュースや身のまわりの出来事に関心を持たない人が多いという印象でしょうか?

木田 気にしていないというよりは、気にする“機会”がないんじゃないかなって思います。
というのも、テレビを見る人も少ないですし、WEBのニュースひとつ取っても、芸能人の騒動みたいな話題が一番上に出てくるような仕組みになっていて。

だから、本当に大事なニュースに触れる機会がそもそも少ない。
結果として、「知る・考える」という選択肢自体が、最初から与えられていないのかもしれないなって思います。


――最後に、木田さんから「第3回インフォメーション・ヘルスアワード」の応募を考えている方へのメッセージをお願いします。

木田 一番伝えたいのは、日々の生活の中でふと感じる「こうだったらいいのに」とか、「この仕組み、ちょっと嫌だな」っていう違和感を、アイデアとして自由に出してみてほしいということです。

情報に関わる業界のトップの方々が選考してくれるって、なかなかない貴重な機会なんですよね。僕自身、準グランプリをいただいて、本当に貴重な経験になりました。自分が日々感じていたモヤモヤや気づきを、ちゃんと評価してもらえる場があるって、すごく励みになります。
だからこそ、ぜひこのチャンスを活かして、自分の中にある小さな気づきや違和感を、アイデアとして形にしてみてほしいなと思います。

――ありがとうございました。

(取材・文:インフォメーション・ヘルスアワード事務局)

「第3回インフォメーション・ヘルスアワード」の募集が始まっています。詳しい応募方法などはNHK財団の公式サイトをご覧ください。
ステラnetでは、選考委員や受賞者の方々のインタビューなどをこれからも掲載する予定です。ご期待ください。(※ステラnetを離れます)

※文中に登場した、木田さんの当時の指導教員教員、水谷瑛嗣郎先生(現・慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所 准教授)のインタビューも後日お届けします。

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