〇生活に忍び込むフェイクニュース

皆さんは、デマ情報やフェイクニュースに出会ったことがあるでしょうか。

新型コロナウイルスが日本ではやりはじめて間もなく起きた「トイレットペーパー問題」は覚えていますか。SNSで発信されたデマがきっかけとなり、各地で品不足が生じました。一件のデマが発端ではありましたが、広く拡散したのは「デマへの注意を呼びかけるツイート」であり、かえってデマが知れ渡るという皮肉な現象が起きました。

“トイレットペーパー問題”が意味するもの「フェイク・バスターズ」ダイジェスト③

あの時、インターネットやSNSで「トイレットペーパー」と検索すると、開店前のドラッグストアに並ぶ人々や空っぽの商品棚の写真が次から次へと流れ込み、不安を駆り立てられたことを覚えています。

検索ワードとして入力した言葉が、自分や社会をも混乱に陥れている。自分がスマホ越しに触れている情報空間が、生活に影響を及ぼすことを目の当たりにしました。

一年前、情報の専門家が「情報的健康(インフォメーション・ヘルス)」についての共同提言を発表しています。

「私たちは、フェイクニュース(偽情報)やインフォデミック(感染症を巡る情報氾濫)を、 人々の命も脅かす深刻な社会的病理と考える。背景にあるのは、インターネットの発展がもたらした情報の「飽食」「偏食」であり、個人としても、社会としても、情報の適度なバランスを意識する「情報的健康(インフォメーション・ヘルス)」が非常に重要になる。」

2022年01月KGRI Working Paper No.2「共同提言『健全な言論プラットフォームに向けて ―デジタル・ダイエット宣言 ver1.0』」鳥海不二夫 東京大学大学院工学系研究科教授、 山本龍彦 慶應義塾大学大学院法務研究科教授 同グローバルリサーチインスティテュート副所長
https://www.kgri.keio.ac.jp/docs/S2101202201.pdf

〇情報の「飽食」の時代 「偏食」を防ぐには

今年は大河ドラマが始まって60周年となります。これまで放送された61作品(「どうする家康」を含む)の中で幕末を扱った作品は15作品あり、ある週末に徳川慶喜の登場シーンに絞って一気見をしました。

作品ごとの徳川慶喜の描かれ方の違いにまず驚きが。
会津藩、篤姫、坂本龍馬、勝海舟、西郷隆盛、渋沢栄一、そして徳川慶喜の視点で描かれた幕末。短い時間で集中して見たおかげで、私の幕末情報は満腹状態になりました。
“推し慶喜”もでき、史実とフィクションを行ったり来たりしながら、一つの作品では得ることのできなかった「人物の立体感」が形成されました。

史実や人物をどう描くのか、作品ごとに異なることはドラマならではの魅力でもあります。ですが、これが事実を伝えるべきニュースならどうなのでしょうか。

事実が一つであっても、伝える言葉や編集、フェイクニュースやアルゴリズムによる情報の偏りによって、社会を混乱させ分断を引き起こす。それは、米国大統領制の混乱や、前述の「トイレットペーパー問題」でも見られました。

先の提言では以下のようにも書かれています。

インターネットの普及により、言論空間は「ビッグバン」のごとく爆発的に膨張し、情報が双方向・リアルタイム・無制限に交錯する、これまでにない、まったく新しい次元へと突入した。
ネット黎明期においては、「ビッグバン」で民主的で開かれた世界が実現することが期待されたが、現在においては、多様な一般ユーザーが実名・匿名で投稿する玉石混交のコンテンツ(UGC; User Generated Contents)が溢れ、出所不明の偽情報が、取材に裏付けられたジャーナリズムと隣り合わせになりながら存在し、ボットのような実在しないフェイク群衆の手も借りて拡散・増幅されるような世界となっている。

情報が「飽食」の時代、一方面だけの見方=「偏食」にならずに「適度なバランス」を取りながらいくつかの情報を見比べる。すると、一つの事実に「立体感」が生まれて来ます。

また、その記事を発信している人・メディアが出している他の情報にも触れ、傾向を知る。そんな時間がない時は、「自分が見ている情報はフェイクニュースしれない」「偏っているしれない」と注意をはらう。
今、全ての人々に、情報社会に対する情報的健康への意識が必要とされているのです。


〇 NHKグループが取り組むメディア・リテラシー活動

NHKでは全国の小学生を対象としたメディア・リテラシー活動、「つながる!メディア・リテラシー教室」(https://www.nhk.or.jp/info/about/ml/school.html)などを2年前より展開しています。

さらに、「メディア・リテラシー」への積極的な取り組みとして、NHKサービスセンターでは高校生以上に向けた新たな講演活動を始めました。

この講演では、受け手として、発信者としての情報的健康への意識を高め、NHKの取材やニュース・番組制作に携わった情報の送り手たちが、正確な情報を見極める大切さを伝えています。 

○「高校生のためのメディアリテラシー講演」
茨城キリスト教学園高校生向けに2022年12月に開催
https://www.icc.ac.jp/edu/2022/detail/221226.html

NHK水戸放送局 小川航局長による高校生向けのメディアリテラシー講演(茨城キリスト教学園ローガン・ファックス記念講堂にて)

○「大人のためのメディアリテラシー講座~NHKの番組作り、その舞台裏から~」せたがやeカレッジ(開催 成城大学/成城 学びの森 オープン・カレッジ) ※無料配信で講座を受講できます
せたがやeカレッジ講座|大人のためのメディアリテラシー教育 ~NHKの番組作り、その舞台裏から~ (setagaya-ecollege.com)

せたがやeカレッジ講座より

今後もNHKグループでは、メディア・リテラシー事業を通じて、情報の読み解きや発信のしかたについての学びを提供するとともに、より良く豊かな情報社会を構築していくために貢献していきます。

(文/NHKサービスセンター 木村与志子)