どうも! 朝ドラ見るるです。

家族を養うために「裁判官として雇ってほしい」と、司法省の桂場さんにじか談判(!)したトラコ(とも)。その願いは叶わなかったものの、変わり者の“殿様判事”ライアンことどうよりやすさんに見込まれて、司法省の「民事局民法調査室」で働くことに。仕事内容は、なんと民法改正に関わるもの!

何もかもが順調ってわけではないけれど、少しずつ前に進んでいるんだなあ。トラコ、ファイト!

ところで、法律に明るくない見るるとしては、トラコたちが苦しんで成し遂げたことの重みが、イマイチピンときていない……ここはやっぱり、専門家に伺いたいと思います!

今回お話を聞いたのは、明治大学法学部の村上一博教授。「虎に翼」の法律考証をご担当の村上先生、専門はずばり民法! というわけで、久しぶりの特別講義をお願いします。教えて、村上先生〜!

トラコが働いている「司法省民事局民法調査室」ってどんなところ?

見るる 今週、トラコたちは「明治民法」を改正するために奔走していました。この明治民法がどんなものかについては、以前、お話を伺いましたが(第1回「無能力者って何よ~!」)、ざっくり言うと、明治時代にヨーロッパから輸入されたものなんですよね?

村上先生 そうです。明治民法が成立したのは、1986(明治29)年。日本にとっては初めての“民法”でした。ただ、日本の旧慣習に加え、男尊女卑を前提としたヨーロッパの法律を参考にして作ったため、明治民法における女性の地位はすこぶる低かった。そこで、それを改善するために、戦後に大きな改正が行われたわけです。

見るる そのひとつが「家制度の廃止」ですよね! で、ドラマではその下準備をしていたのが、トラコたちが働く「民事局民法調査室」だったと……。ちなみに、トラコのモデル・ぶちよしさんも、同じような形でかかわっていたんですか?

村上先生 ええ。民法改正の条文作り、GHQとの交渉を主に担当していたようです。ところが……それ以上詳しい仕事内容は、はっきりとはわからないんですよ。

手がかりは、1956年に出版された『戦後における民法改正の経過』(我妻栄編著/日本評論新社)という本くらいなのですが、憲法改正に比べて民法改正については、ほかに資料が残っていないのです。

でも、やはり大変な仕事だったでしょうね。先に「日本国憲法」ができて、それに則ったかたちで民法を作り変えなくてはならなかったわけですから。

見るる なるほど。ドラマでも、日本国憲法はすでに公布されていましたもんね。えっと、1946(昭和21)年11月3日でしたか。

村上先生 そうです。対して、民法の改正案成立は1947(昭和22)年12月、翌年1月から新民法が施行されました。ですから、この約1年の間は、とりあえず応急措置的な法律を作って対応していたようです。まさに、てんやわんやだったでしょうね。

見るる 戦前と戦後で、いろいろな価値観や基準が変わって大変だったというのは、よく聞きます。けど、その根幹になる部分に、トラコ……もとい、三淵さんはいらしたんですね!

村上先生 そういうことです。のちに、三淵さんはこんなふうに当時を振り返っています。


戦前の民法の講義を聴いたときは、法律上の女性の地位があまりにもみじめなもので、じだんだを踏んでくやしがりました。それだけに、何の努力もしないで、新しくすばらしい民法ができることは夢のようでした。また、一方「あまりにも男女が平等であるために、女性にとって厳しい自覚と責任が要求されるだろう。はたして、現実の日本の女性が、それにこたえられるだろうか」と、おそれにも似た気持ちをもったものです。
                     (『婦人法律家協会会報』第17号)

民法改正の議論には、さまざまな考えの人たちがいた!

見るる ところで、ドラマの「民法改正審議会」では、保守派の神保先生とリベラルな穂高先生がバチバチやりあっていました。実際には、どういう人たちが委員として参加していたんですか?

村上先生 民主的な考えをもった人たちが多かったようですが、やはり、中には、まだ家制度を守りたい人もいたでしょうね。実際にも、さぞかし紛糾したでしょう。

ちなみに、委員の中には女性もいたんですよ。たとえば、『赤毛のアン』の翻訳者として知られ、婦人運動にも積極的に参加していた村岡花子さんのような女性活動家たちもメンバーに入っていました。

見るる え!? 村岡花子といえば、朝ドラ「花子とアン」(2014年放送)のヒロインじゃないですか! 朝ドラファンとしてはうれしいつながり……。そうか〜、花子が参加していたのか〜(ホクホク)。

それはともかく、ドラマで婦人代議士の集まりにトラコも参加していましたね。皆さん、しっかり意見を持っていて、かっこよかったです。

村上先生 その村岡花子さんのほか、労働省の初代婦人少年局長となった山川菊栄さん、小説家の平林たい子さんなど、全員女性で構成されていた「家族法民主化期成同盟会」がまとめた意見書は、当時からすると、ずいぶん大胆なものだったんですよ。

今の民法と比べてそんしょくないほどに。もちろん、家制度は全面廃止です。そして、その意見書の末尾には、司法事務官として三淵さんの署名(当時は「和田嘉子」さん)も──。三淵さんが、改正草案の作成にどこまで関与していたのかはわかりませんが、少なくとも共感していたことは間違いないでしょう。

見るる うんうん、ドラマでも、トラコが意見書に署名していました! このあたりは、しっかり事実とリンクしているんですね〜。

見るる 一方で、家制度の廃止に反対されていた方もいたんですよね?

村上先生 旧来の家族制度を尊重する立場から、東京帝国大学の教授などが、意見を譲らなかったと言われています。そのために入ることになった条文というのは、これもドラマでやっていた通り。成人になった子どもと親との間の「相互扶助」の関係の条文──「直系血族及び同居の親族は、互いにたすけ合わなければならない」です。

これは現行民法にもまだ残っています。道徳的にはともかく、法的義務として扱うのが適切かどうかは、今でも意見が分かれるところでしょうね。

見るる なるほど~。三淵さんはじめ、当時の法律家の皆さんが侃侃諤諤かんかんがくがくの議論をして改正したものが、今の民法ってことなんですね! それからずいぶん経ってますけど、その後、民法が改正されることはなかったんでしょうか?

村上先生 いえいえ、しょっちゅう改正していますよ。最近では、相続法の大改正とか、離婚後の共同親権を認める改正とか、ニュースになるような大きなものから、細かなものまで、ちょこちょこ変わっています。やはり、時代や世界情勢にあわせて、法律のあり方も、変わっていくものですからね。

見るる いろいろ納得できました。これからも、法律関係でわからないところがあったら、またお話、聞かせてください。ありがとうございました!

参考文献:我妻栄編著『戦後における民法改正の経過』(日本評論新社)


次週!

第11週「女子と小人は養い難し?」6月10日(月)〜6月14日(金)

意味:《女性と徳のない人間とは、近づけると図に乗るし、遠ざければうらむので、扱いにくいものである。》(小学館『デジタル大辞泉』より)

今週のラスト、衝撃的でしたよね。

花岡が亡くなったなんて……新聞にも載っていたし、うそや冗談ではなさそうだけど、なんで? 戦争は終わったんじゃなかったの? 花岡の身に一体何が……。

そして、そして、新キャラ・多岐川幸四郎役の滝藤賢一さんはなぜに滝行を⁉︎ え、これなんのドラマだっけ? あ、頭が追いつかない……次回も気になりすぎる〜! とにかく見るしかありませんね!

というわけで、今週の「トラつば」復習はここまで。
来週の先生方の講義も、お楽しみに!

村上一博(むらかみ・かずひろ)
明治大学法学部教授、明治大学史資料センター所長、明治大学図書館長。1956年京都府生まれ。日本近代法史、日本法制史、ジェンダーを専攻分野とする。著書に、『明治離婚裁判史論』『日本近代家族法史論』(ともに法律文化社)など多数。「虎に翼」では法律考証担当として制作に参加している。

取材・文/朝ドラ見るる イラスト/青井亜衣

"朝ドラ"を見るのが日課の覆面ライター、朝ドラ見る子の妹にして、ただいまライター修行中! 20代、いわゆるZ世代。若干(かなり!)オタク気質なところあり。
両親(60&70代・シニア夫婦)と姉(30代・本職ライター)と一緒に、朝ドラを見た感想を話し合うのが好き。