再びどうも、朝ドラ見るるです!
……と、いうわけで! なんと、今週はまさかの講義をハシゴ!(前編はこちら
ここからは、明治大学法学部教授で、「虎に翼」で法律考証も担当されている村上一博教授にお話を伺いたいと思います。

そうなんです、れっきとした“リーガル朝ドラ”たる「虎に翼」には、時代考証などとは別に、しっかりと法律専門の先生が考証についているんです! 具体的には、ドラマの中で扱う事件の法的根拠や、前提となる当時の社会状況などの監修をされているのだとか。

ちなみに、村上先生の専攻分野は、日本近代法史、日本法制史、ジェンダー。おお、まさにこのドラマにぴったりのお方! 見るるの疑問にも、いろいろ答えていただけそうです。
それではさっそく、いってみましょう。教えて、村上先生〜!

日本で初めて女性が法学を学べる大学“明律大学”のモデルは、明治大学!

見るる 村上先生、今回はどうぞよろしくお願いいたします! あの、大学まで押しかけちゃってすみません。

村上先生 いえいえ、よろしくお願いします。ようこそ明治大学へ!

見るる 本題に入る前に、その大学の話から教えてください。ドラマの中でトラコが入ろうとしていた“明律大学”って、つまり……?

村上先生 気づいてしまいましたか(笑)。そうですね、この明治大学がモデルと言っていいでしょう。トラコのモデルである淵嘉ぶちよしさんは、明治大学のご出身ですから。なので今回、私たちの大学もドラマに協力したり、応援したりしているというわけです。

見るる そうなんですね〜! じゃあ、トラコが来週から通うことになる“女子部”も、明治大学にあったんですか?

村上先生 もちろんです。明治大学では、「専門部女子部法科」といいました。当時としてはかなり先進的な学科だったんですよ。

見るる そういえば、ドラマでも、松山ケンイチさん(←違う、東京地方裁判所判事の桂場等一郎さんね!)が、「時期尚早だ」って言ってました。やっぱり、あの時代は、女子学生を受け入れている大学って珍しかったんですか?

村上先生 ええ、その通りです。明治維新後、ようやく女性も教育を受ける権利を得ました。しかし実際には、小学校や女学校ならまだしも、大学などでの高等教育を受けられる機会は、ほとんどなかったんです。大正時代になると、もう少し、女子教育の必要性が話題にのぼるようになりますが、それでも大学に進む女性の数は微々たるものでした。

見るる えー、そうなんですね……。

村上先生 法学に話を絞りますと、1923(大正12)年に東北帝国大学が、文学部と法律学部をセットにした“法文学部”を新設。初めて、そこに女性を受け入れることを決定します。しかし、文学専攻の方には入学志望者が来るものの、法学専攻の希望者はゼロ。こんな状態が長く続きました。

見るる ぜ、ゼロ!? せっかく門戸が開かれたのに……なぜだったんでしょう。

村上先生 おそらく一番の理由は、女性が法学を勉強しても就職先がなかったからでしょうね。この頃はまだ、女性が弁護士になることはできなかったんです。1925(大正14)年には九州帝国大学にも同じく法文学部が新設されますが、こちらも文学部にしか入ってこない。初めて九州帝国大学に法学専攻の女性が入学したのは、結局、なんと1936(昭和11)年だったそうです。

見るる じゅ、10年以上も経ってる……。でも、あれ? そんなに女性から不人気な法学部なのに、なんで明治大学は“女子部”を作ったんですか。

村上先生 大きな転換点となるのは、弁護士法の改正です。ドラマでも「まもなく女性が弁護士になれる時代がくる」と言っていましたよね。当時、実際に女性にも弁護士資格を与えようという議論が政府内でなされていました。

そして、その審議会には、法学分野に強い明治大学の教員も多く参加していました。このことから、「だったら、うちで女性に法学を教えようじゃないか」という機運が高まったわけです。

それ以前は、明大でも女性は聴講生としてしか、受け入れられていませんでしたから。これが、1929(昭和4)年のお話です。

見るる なんか……女性弁護士どころか女子大生もいなかったなんて、ちょっと信じられない世界です。でも、それを聞いて納得しました。当時のトラコは、圧倒的マイノリティーの道に進もうとしていたんですね。お母さんが猛反対するわけです。そりゃ心配にもなるわ……!
※明治大学の女子部についてのお話は、来週、もっと詳しくお聞きする予定です。

「女性は無能力者」!? 詳しい意味が知りたい! 

見るる で、ここからが本題なんですが……「女性が無能力者」って、一体どういうことなんですか? パワーワードすぎて、ちょっと忘れがたいというか、ムカつくんですけど!

村上先生 インパクトの強い言葉ですから、無理もないですね(苦笑)。でもこれ、当時の民法にも、そのものズバリの言葉が記載されているわけではないんですよ。民法について解説した教科書などで使われている言葉なんです。

見るる まあ、それでも十分ムカつきますけど……どういう意味なんですか?

村上先生 まず「無能力」という言葉の意味から説明しましょう。これには2通りの意味があるんです。まずは、「権利無能力」……権利そのものがないという意味。それから、「行為無能力」。権利はあるんだけど、法律行為ができないという意味です。「女性は無能力者」という場合は、後者の意味ですね。

見るる 松山ケンイチさん(←桂場さんだけどね!)が「結婚した女性は、ジュンキンチサンシャと同じように責任能力が制限される」と、呪文のようなことを言ってましたね。それのことですか?

村上先生 「準禁治産者」、精神が弱っていたり、浪費癖があったりするために、自分で財産を管理する能力のないと判断された人のことです。今はこの言葉は使わなくなっていますが、当時はこういう言い方をしていました。

まず、未成年の女性は父権のもとにあります。成人するとその支配からは外れますが、結婚すれば今度は、夫権のもとに入ることになる。日常の家事を除き、既婚の女性が社会的活動を行う際には、夫の許可が必要になります。

見るる あ! 社会的活動ってもしかして、ドラマにも出てきた「財産の利用、負債、訴訟行為、贈与、相続、身体にはんを受くべき契約……つまり、雇用契約を結んで働くこと」ですか?

村上先生 まさにそれです。松山ケンイチさん(←桂場さんです! 笑)も言っていましたね。

見るる 言ってましたけど……う〜ん、説明聞いても正直、全然納得いかないです。明治の人は、なんでそんな民法作っちゃったんですか?(泣)

村上先生 それはですね、明治政府が民法を作るときに参考にした、当時のフランス法やドイツ法に、似たようなことが記載されていたのが大きいと言われています。女性に社会的活動をさせたくないというのは、他の国でも同じだったんですね。

見るる うえ〜、なんかげんなりしちゃう。なんで、そこまでして女性を家庭に縛りつけたかったんだろう? 法律で押さえつけるのってどうかと思う! まあ、今怒っても仕方ないんですけど。

村上先生 実はですね、明治民法は、一度、ボアソナードというフランス人法学者監修のもと、フランス帰りの明治大学の教員たちによって、1891(明治24)年に完成するんです。ところが、この内容が、少し進歩的すぎるというので作り直しに。

1898(明治31)年に再度完成したのが、今も伝わっている家制度を基盤にした明治民法です。ですから、「女性は結婚すると夫の家の名字になる」と、定められたのは、このときだったんですよ。

見るる 昔といえば昔だけど……意外と最近なんですね。じゃあ、その明治民法ができる前、女性はもうちょっと自由だったんですか?

村上先生 お、鋭いですね。実は、民法がないからこそ、そのときどきの裁判官の判断で、進歩的な判決が出ていたんです。離婚の問題でも、女性側から夫の放蕩ほうとうに対して堂々と離婚訴訟ができたり、夫婦別姓が許されていたり。ところが、明治民法ができたから、これを守らなきゃいけなくなった。国の定めた法律ですからね。

見るる なるほど。憲法の歴史や民法の歴史なんて、これまで考えてみたこともなかったけど、こうして聞いてみると面白いものなんですね……! ありがとうございました。また、お話うかがわせてください。

村上先生 はい、いつでもどうぞ。それに、いま、明治大学博物館では「女性法曹養成機関のパイオニア 明治大学法学部と女子部」と題して、明治大学出身で日本初の女性弁護士となった三淵嘉子さんに関する資料展示をしていますので、ぜひそちらもご覧になってください(明治大学博物館の公式サイトはこちらです)。

見るる はーい! 今日は失礼します!


さて、次週のタイトルは……

第2週「女三人寄ればかしましい?」4月8日(月)〜12日(金)

意味:《「女」の字を三つ合わせるとやかましい意の「姦」の字になるところから》女はおしゃべりで、三人集まるとやかましい。(小学館『デジタル大辞泉』より)

ワーッ、第1週に引き続き、また変なことわざだ! というか、これに関してはことわざだけじゃなくて漢字もだいぶひどいですよね。「姦」っていう字には、「よこしま」とか「悪い」とかって意味もあるらしく……な、なんでこんな漢字ができたんだろう。

そんな来週は、念願かなってトラコが明律大学女子部に通い始めます! ということは、3人どころかもっとたくさん、法律家を志す女の子たちが登場するってことですよね。

今週も個性豊かなキャラクターがたくさん登場したけど、来週も期待大です♪
ちなみに今のところ、見るるのイチオシキャラはトラコのお兄ちゃん。自称、水もしたたるいい男こと、直道さんです!

演じているのは「べっぴんさん」「まんぷく」にも出演した上川周作さん。このドラマ、女性の生きづらさに焦点が当たった内容ではあるけど、松山ケンイチさん演じる桂場さんといい、仲野太賀さん演じる優三さんといい、男性キャラが魅力的なのも見どころだと思う!

というわけで、今週の「トラつば」復習はバッチリかな?
来週の講義も、どうぞお楽しみに〜!!

村上一博 (むらかみ・かずひろ)
明治大学法学部教授、明治大学史資料センター所長、明治大学図書館長。1956年京都府生まれ。日本近代法史、日本法制史、ジェンダーを専攻分野とする。著書に、『明治離婚裁判史論』『日本近代家族法史論』(ともに法律文化社)など多数。「虎に翼」では法律考証担当として制作に参加している。

取材・文/朝ドラ見るる イラスト/青井亜衣

"朝ドラ"を見るのが日課の覆面ライター、朝ドラ見る子の妹にして、ただいまライター修行中! 20代、いわゆるZ世代。若干(かなり!)オタク気質なところあり。
両親(60&70代・シニア夫婦)と姉(30代・本職ライター)と一緒に、朝ドラを見た感想を話し合うのが好き。