源明子は、父・高明が藤原兼家(段田安則)との政争に敗れ、幼いころに後ろ盾を失った。一族の再興を目指して政敵の息子・道長(柄本佑)のもう一人の妻となった明子だが、実家が裕福な嫡妻の倫子(黒木華)に比べ、明子が頼れるのは己の才覚だけだった。
演じる瀧内公美に、明子の心情をどう捉えているのか、話を聞いた。
男の子3人の母親として、より気持ちがパワーアップしている
──道長との間に子を授かり、変化はありましたか。
もう3人も子どもがいるんですよね! 時の流れが早くて驚きました(笑)。でも私は、明子の心情にあまり変化はないと感じています。というのも、明子のモチベーションは、兼家によって失脚させられた父・高明の無念を晴らし、醍醐天皇の血を引く一族を再興させること。
(兼家に対する)呪詛が成功した今、次なる目標は、自分が産んだ子を高い地位にのし上がらせることではないのかな、と思っています。
男の子3人の母親として、より気持ちがパワーアップしている印象です。地位を落とされた悔しさ、みじめさを知っているからこそ、自分の子どもにはそんな思いをさせたくない、と考えていて……。だから、根本の思いや強さは変わっていないと思います。
──道長との夫婦関係に変化はありますか?
演出の方からは、「明子は道長を好き」と言われているのですが、私自身は、「明子って本当に道長のことを好きなの?」と疑問に思っていて……。
むしろ、明子と道長の会話は“腹の探り合い”とすら、思っているんです。それを強く感じたのは、(第15回の)2度目の懐妊のとき、明子が道長に「(お腹の子は)男子のような気がいたします」と告げるシーンです。
道長からは、無事に産んでくれればどちらでもいい、みたいなことを言われるんですけど、ドラマとしては、「道長の家系から帝が出るかもしれない」という文脈を受けての発言。つまり、男子であれば、私が産んだ子にもチャンスが……! 明子の本心が込められたセリフと思ったんです。
復讐を果たしたあとの明子が、次に舵を切ったのはそっちの方向だったんだ、と個人的には認識したシーンでした。
──第22回では「殿を心からお慕いしてしまった」と道長を押し倒しましたが……。
明子にとって道長は、来てくれないと会えない人。来てくれたからには帰らせたくない。そこはもう必死ですよ(笑)。一緒に過ごす時間の、一瞬一瞬が勝負なんです。まさに、このドラマにおける私の立場と同じなので、ちょっと共感します。
要所要所で登場するキャラクターですから、遊び心も必要で、ワンカットワンカットを大切に演じさせてもらっています。
大石さんの台本には「……」が多く、意味が書かれていない。どう演じるかを任せていただけるのは、すごくやり甲斐があります
──大石静さんの台本について、どんな感想をお持ちですか。
大石さんの台本は、流れがとっても気持ちいいです。私のセリフにしても、短いシーンながら、ひとつひとつ深いところまで解釈が求められる、余白のある台本だと感じています。
あと、すごく嬉しいなと思うところがあって、それは「……」が多いことです。しかも、その「……」に意味が書かれていない。どう演じるかを任せていただけるのは、すごくやり甲斐があります。
「セリフの裏に隠されている気持ちを見つけてね」って言われているみたいな気がして、台本を読むのが楽しいんです。なんだか宝箱みたい(笑)。
──大石さんとはお会いになりましたか。どんなお話をされたか教えてください。
一度、お会いしました。少しだけお話しした最後に、「負けないで」とお声がけいただいて、私の中ではすごく腑に落ちました。「頑張ってね」じゃなく「負けないで」。
瀧内公美としても励まされましたし、やっぱり明子として、道長を巡るライバル・倫子との関係に、改めて強い気持ちを持つことができました。
──平安時代の一夫多妻制については、どう思われますか。
とんでもないな、と思ってます(笑)。でも、とんでもないからドラマになるんですよね。その分、恨みやねたみも増幅されて……(笑)。
当時の女性にとって、男性が自分のところに来てくれたときが勝負。少しでも自分のことを気にかけてくれるように、いろいろ戦略を練ったでしょうね。時には気を引くためにえげつないウソをつくこともあったかも。
心の内を見せずに、その内面をいかに表現するか。明子は特にそこを求められているキャラクターなんじゃないかなと思っています。
──夫の道長についてはどう見ていますか?
序盤に比べると、どんどんパワーアップしてると感じています。妻への接し方もそうだし、政治家としてもそう。若い頃は、裏表のあることを言えるタイプではなかったのに……。
その変化は、見ていて面白いですね。明子には基本、優しいですけれど、きっとそういう素振りを見せているだけだと思ってます、私は(笑)。
──柄本佑さんとの共演はいかがでしょうか。
柄本さんは、私が申し上げるのも失礼な話ですが、佇まいが素敵な、素晴らしい俳優さんだと思います。柄本さんと共演するときは、余計なことを考えなくていい。すごく自然体で演じることができるんです。私にとって、とても稀有な存在の俳優さんです。
兼家への恨みが消えるとしたら、子どもが立派に育ったとき。これから明子は教育ママ全開になる予定です(笑)
──ライバル・倫子についてはどう思われていますか。
(先々の回で)一緒にお芝居をしてわかったんですけども、倫子は明子の存在に、まったく動じていないですね。裕福に育ち、嫡妻ですから、余裕があるんですよね。黒木華さんと話しても、そう感じます。
明子のほうは、ずっとたぎっているんですけど、倫子のほうは、悪意を知らない、すごく純粋な目で明子を見てくるんです。全くもって勝ち目がないですね。
──兄の俊賢(本田大輔)との関係は、いかがですか。
お兄ちゃんは本当に素直な人、いいキャラクターですよね。自分を「道長に推薦してくれ」という申し出に対して、「褒めるところがございません」なんて、結構きつい言い方もしていますが、明子にとっては、いちばん本音を言える相手なんだと思います。
それに、本田さんとは目を見ているだけですごく通じあえるものがあるんですよ。不思議な感覚ですね。
──明子をたぎらせる原動力とは何でしょう。
やはり、父親がいなくなった悔しさだと思います。これは一生忘れられませんし、彼女の中で大きすぎたからこそ、呪詛や子どもへの執着につながっているのだと……。
父の仇だった兼家が亡くなっても、じゃあもういいや、とはいかない。復讐を果たしても、父親が戻ってきてくれるわけではないですからね。もしもその恨みが消えるとしたら、それは子どもが立派に育ったときでしょう。これから明子は教育ママ全開になる予定です(笑)。
──まひろ(吉高由里子)も藤原家に母を殺された恨みがありますが、方向性が全然違いますね。
その分、まひろは『源氏物語』に全精力を傾けていくわけですよね。あんなに長い物語を書きあげるって、なかなかすごいことですよ。私、友達になるなら、断然、紫式部より清少納言のほうが、明るくさっぱりしていていいなと(笑)。まあ、まひろさんは暗くはないですけどね。
公式ホームページの明子の人物紹介に、「まひろの存在にも鬱屈がたまっていく」と書かれているので、いつか会うのでしょうが、どうやって出会うんでしょうね。あと、道長とまひろとの関係にいつ明子が気づくのかも気になります。
今の時代ならSNSとかですぐバレそうですけど、平安時代だからどんな形で知るのかな(笑)。すごく楽しみにしています。