猪爪家の書生として登場し、弁護士を目指す寅子(伊藤沙莉)を全力でサポート、そして今や彼女の最愛の夫となった“優三さん”こと、佐田優三。
人がよくて真面目、しかし緊張すると腹を下してしまう万年浪人生……というコミカルなキャラクターから一転。今週は、夫として寅子に見せる優しく頼もしい姿に、改めて魅了された人が多かったのでは。
そんな優三を演じるのが、仲野太賀さん。仲野さんから見た彼の人物像について話を聞きました。
トラちゃんの夫として、みなさんから愛される“優三さん”でありたい
──先週(第7週)は急展開で、寅子にプロポーズして結婚、そして娘が生まれたかと思ったら、今週(第8週)のラストでは赤紙が届いて戦地へ。なんともつらい展開でした。
そうですよね。僕も、撮影前からこの週のことを考えると泣きそうでした。でも、これまでずっと隅っこのほうにいて、時々トラちゃん(寅子)に優しく手を貸す人でしかなかった優三の、人となりみたいなものが初めて描かれていて、僕としては思い入れのある週です。
特に河原でトラちゃんに「好きなように生きてほしい」と話すシーンや出征のシーンなどは、気持ちを寄せて考えるとそれだけで胸がキュッとして。でも、優三ならトラちゃんのために、絶対に涙を見せたりしないはずだと思って。そんな思いで臨みましたね。
──明日からしばらく登場しないのかと思うと、優三ロスがありそうです。
トラちゃんの夫として、みなさんから愛される“優三さん”でありたいと思うので、そう言っていただけるとありがたいです。ずっと、どうしたらそういう人物になれるのか考えながらやっていて。
彼の持つ柔和で温かい空気感を大事にしながら、時に、緊張でお腹が痛くなっちゃうようなエピソードなんかもありつつ。あれは、朝から顰蹙を買うのではと、実はハラハラしていました(笑)。
──では改めて、仲野さんは、佐田優三とはどんな人物だと捉えているのか、お聞かせください。
奥手だし、自分の意思や気持ちを素直に表に出すのは苦手で、そのせいで一見頼りなくオドオドした人に映るかもしれません。でも実はすごく男らしい人で、相手に寄り添ったさりげない優しさを持っている。
高等試験に合格はできませんでしたが、青春をこれ一つに注ぎ込んで取り組める人でもある。だから、いざというときには、その強さや芯の太さがすっと出てくる、そんな人だと思っています。
──そういえば優三は、早くに親が亡くなって天涯孤独の身の上でした。このことは、彼の人格形成に影響があったと思われますか?
彼は、自分を物語の登場人物に入れようとせず、一歩下がって後ろのほうでみんなを見守る立場でいようとするところがあります。そこが優三ならではの奥ゆかしさでもありますが、それはきっと、早くに両親を亡くした彼が、これまで生きてきた中で、自分を守るために身につけたことなんじゃないかとも思えるんです。
例えば、妬みや嫉みといった負の感情で、自分自身が傷つかないように、いろいろな感情に蓋をして生きてきたのではないかなと……。そんな彼にとって、猪爪家は書生時代からあたたかく迎え入れてくれた大切な場所。孤独な優三にとって居場所をもらえていたことは、本当にありがたかったと思います。
──気づけば自分を追い越して高等試験に受かり、弁護士になった寅子への対抗意識やコンプレックスはなかったのでしょうか。
それはないですね。
むしろ、第1週で優三の学校にお弁当を届けにきたことが、トラちゃんが(普通の若い女性たちのようにお見合いをして嫁にいくという選択肢を選ばず)法律に興味を持つきっかけになってしまったわけですから、間接的であれ、セリフにもあったとおり「自分のせいで申し訳ない」というのが素直な気持ちだったと思います。
そして、一緒に法律について勉強するなかで、自分の意見をはっきり言うところや、ものの見方、猪突猛進ぶりなど、自分にはない、トラちゃんならではの強さに惹かれていったんだと思います。
──寅子役の伊藤沙莉さんとは「拾われた男」(2022年放送)でも夫婦役を演じていました。俳優としての相性はいかがですか。
沙莉ちゃんとは、お芝居をしていて、とても呼吸が合うなと感じています。臆することなくいろいろな表現を投げられるし、沙莉ちゃんも思い切り飛び込んできてくれるので、その阿吽の呼吸も心地よくて、すごく楽しいです。
疑問に思ったり違和感があったりしても、それを共有するのも解決するのも自然にできるんです。何かあれば率先して前に出て物事を解決してくれる姿は、本当にトラちゃんみたいです。
沙莉ちゃんのおかげで、明るい現場で風通しも良くて、もうみんな沙莉ちゃんが大好きだと思います。
──第7週では、最初は「社会的地位を得るための結婚相手」として立候補しておきながら、実は「僕はトラちゃんのことがずっと好きだったんだけどね」と告白するというサプライズもありました。
見ている皆さんへのサプライズにしたかったので、それまではあまり分かりやすい表現はしない方がいいかなと思っていました。ただ、トラちゃんを見ている眼差しや、疑問を持った彼女へ助言を与える場面などでは、どこか特別なやさしさを持って演じていましたね。
──優三の気持ちに気づいていなかったのは寅子だけ、という説もありますが……。しかし、ついに今週、寅子と本当の意味で“両思い”になりました。ずっと思い続けてきた優三としては、それまで、どんな気持ちの揺れや変化があったと思いますか。
僕は、優三は、あまり気持ちの変化はなかったんじゃないかと思っています。もし彼女が花岡(岩田剛典)と結婚することになっていても、トラちゃんが幸せなら、それでいいと思っていたでしょうから。
それくらい優三にとっては、トラちゃんの気持ちが第一で、彼の愛の量は、おそらくずっと変わらない。昔も今も、ずっと彼女を支えたい、力になりたいと思い続けているんです。
だから、結婚してからも、自分がどうというより、トラちゃんが自分と一緒にいてどう思っているかが大事。最初は、彼女が欲しかった「社会的地位」のために結婚したわけですが、トラちゃんは僕の隣にいて幸せなのだろうかと常に考えていたと思います。
だから、両思いになって、トラちゃんが自分を愛してくれるようになったことは、もちろんうれしかっただろうけど、それ以上に、彼女のためにホッとしたんじゃないかなって。トラちゃんが無理せず自然でいられるのがいちばんなので。
こんないい男がいるのかと思いつつ(笑)、とにかく優三の主語は常にトラちゃんなので、そういう彼の愛情や優しさが表現できているといいなと思って演じています。
なかの・たいが
1993年2月7日生まれ、東京都県出身。NHKでは、大河ドラマ「「江〜姫たちの戦国〜」「八重の桜」「いだてん〜東京オリムピック噺〜」など5作品、連続テレビ小説「あまちゃん」、ドラマ10「オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ」「拾われた男」など。近作にドラマ「初恋の悪魔」「ジャパニーズスタイル」「季節のない街」、映画『すばらしき世界』『笑いのカイブツ』『四月になれば彼女は』ほか。7月からドラマ「新宿野戦病院」でダブル主演、また、2026年のNHK大河ドラマ「豊臣兄弟!」での主演が決まっている。