ふじわらの道長みちなが(柄本佑)や公任きんとう(町田啓太)らと青春時代を過ごした斉信ただのぶは、時の関白・道隆みちたか(井浦新)に仕えるも、道長が出世しはじめると変わり身の早さを見せ、腹心としての地位を築いていった。演じる金田哲に、自分の役柄やドラマに対する思いを聞いた。


二枚舌三枚舌四枚舌くらいの、どこにも重心を置かない「軽さ」を意識して演じました

——「長徳ちょうとくの変」の流れに乗る斉信をどんな気持ちで演じましたか?

長徳の変は、斉信にとっては巻き込まれた、ハプニング的なものでしたが、チャンスをつかむのがうまいと思いましたね。

始まりはすべて斉信の妹たちなんですよ。亡きよし(井上咲楽)はざん天皇(本郷奏多)のちょうあいを受けていたし、出家後の花山院がたけのところに通ってきて、みつ(竹内夢)には伊周これちか(三浦翔平)が訪ねてくる。

斉信自身は渦中にいないのに、全て把握している。これはいつか使えるぞ、みたいな戦略的な考えがあったと思うんですよ。

そんなところに、たまたま(伊周の弟の)隆家たかいえ(竜星涼)と花山院の間にいさかいが起きて、情報を利用して、伊周を一気に失脚させるわけですからね。パパパッと瞬時に判断して、道長を言いくるめて……。二枚舌三枚舌四枚舌くらいの、どこにも重心を置かない「軽さ」を意識して演じました。

——斉信としては、千載一遇せんざいいちぐうのチャンスを生かしたわけですね。

きっちり生かさせていただきました(笑)。出世争いでは公任に先を行かれているし、とにかく焦っていたと思うんですね。だから好機が回ってきたときには「絶対にものにしよう」感があって……。演じながら自分で「悪いヤツだな~」と思っていました。

伊周が泣きながら道長に「なにとぞ、なにとぞ」って頭を下げるシーンを撮影しているとき、僕はスタジオの前でモニター画面をずっと見ていたんです。「これ、俺のせいなんだ」って、本当に申し訳ない気持ちになって……。

胸が痛くなって、一度楽屋に帰って、気持ちを落ち着かせました。それぐらい、斉信が出世のために使った手段は冷酷に感じますね。

——撮影中に印象的だったことは?

花山院が射かけられたシーンはロケだったんですけど、かなり寒い日で、途中から感覚がなくなるほどでした。寒すぎて、「院っ!」とずっと言ってた記憶しかない(笑)。

この声を張った「院っ!」が、世の中でいちばん言いづらい言葉じゃないかと思うんですよ。「いーん!」って、ふざけた声とか、高い声とかならいけるんですけど、マジのテンションでの「院っ!」って、難しいですよね。

その日、おそらく一生分の「院」を言って(笑)。寒くて、「“院”だったよな、“いん”でいいんだよな」って、わからなくなるんですよね。放送でどうなってるか、“院”がどうなってるのか、“いん”はどこへ行ってしまうのか、ちょっと楽しみです。


千鳥のノブさんには「ドラマ自体がめっちゃおもろい!」って褒めていただいて

——初めての大河ドラマ出演ですが、ご覧になっての感想は?

僕は歴史好きで、大河ドラマファンでもあるのですが、「こんなにすごい大河、見たことなかった」というのが率直な感想ですね。セットも、セットというより建物、建築物みたいな迫力を感じましたし、衣装もきらびやかで……。ありそうでなかった、ネオ大河を見たような。

その中に自分がいることはとても光栄ですが、少し不思議な感覚もあって、演じている斉信を僕じゃないと思って見ています。別人格で、全然実感がないんですよ。

——反響はいかがですか?

「平安顔だね」って、よく言われます(笑)。そのイメージが、僕の中にはあまりなくて、それこそ実資さねすけを演じるロバートの秋山(竜次)さんのような、シュッとキレイめでちょっとふくよかで、なんだかドシン、というのが平安貴族のイメージだったんですよ。なので「平安っぽい」って言われるのが驚きでした。

芸人仲間も見てくれていて……。秋山さんも、(乙丸役の)矢部(太郎)さんも、僕も出るから「じゃあ見てみようか」と、大河ドラマを初めて見た方が、すごく多いんですよ。

千鳥のノブさんには「ドラマ自体がめっちゃおもろい!」って褒めていただいて。ほかにも「入りこみやすい」「わからなくなっちゃうかと思っていたら、全然そんなことなくて」という意見が多いので、それもうれしく思っています。


思春期のキャッキャしていたころよりはちょっと落ち着いた感じ、「赤い火」から「青い火」になりつつある感じにしています

——大人になって出世もした斉信ですが、お芝居は変えましたか?

衣装を含めて、ビジュアル的なものは変わっています。性格的にも、あいきょうがある中に、ずる賢さが見え隠れするようになっているし。ただ、意識してお芝居を変えたのか?と言われると、どうだろう……。演じ方自体は、基本的には、そんなに変わってないかもしれないです。ききょう(ファーストサマーウイカ)に遊ばれている感じとか(笑)。

でもまあ、ちょっと貫禄がでてきたかな……。あの思春期のキャッキャしていたころよりはちょっと落ち着いた感じ、「赤い火」から「青い火」になりつつある感じにしていますね。

——道長、公任、行成ゆきなり(渡辺大知)との関係性はいかがですか。

正直、道長があんなに出世するとは考えてなかったと思います。次は公任か自分だろう、くらいの感じで。

もともとおさなじみで、優しく包み込んでくれるお兄ちゃんが道長。で、道長も斉信もオープンマインドなタイプだから、お互い相談をして、心がかなり通じあっている感じはありますね。人の悪口とか出世のこととか全部口にできて、道長が「まあまあ、俺も大変なんだよ」って。寄り添ってくれる長男みたいな感じは変わらないです。

で、公任は憧れであり、目の上のたんこぶであり、嫉妬しっともあって……。才覚は全世代でナンバー1じゃないですか? ものすごく仕事をするし、完璧ですからね。だから、「いつか抜いてやりたい」ってずっと思っている存在です。たぶん能力は一生追いつかない感じがするから、せめて官位だけは上に行きたい、みたいな。

行成は、ずっとわいい弟みたいな感じです。行成からは、うるさいお兄ちゃんと思われているだろうけど(笑)。やっぱり彼も才能がすごいんだけど、4人の中では、変わらず癒やしポジションにいると思います。

権力闘争の中で立場は変わってきたけれど、友情自体は変わってない気がするんですよ。政権の中枢に入るので、話題がまつりごとのことばかりになって、プライベートな話はしなくなっているけれども、友情自体は……。

仕事だと関係性が変わるけど、最後はまた友情に戻る。そんな4人組の話かもしれないですね。だから、またきゅうをやりたいです。おじいちゃんになって「全然動けないなー」とか言いながら(笑)。

——まひろ(吉高由里子)に対して「地味な女」という印象を変えていませんね。

全く興味がないんでしょうね。まひろ、紫式部さんに。ききょうのような、才能をバーンと見せる、自分はイケてると思っている女性にかれるんでしょう。斉信もそういうタイプなので。だから、まひろに対しては覚えてるか覚えてないかぐらいの記憶しかない(笑)。

僕、まだ一度も吉高さんと一緒にお芝居をしてないんですよ。漢詩の会では同じ空間にいましたけど、からみは全くなく、斉信の視界に入っていなかったようなものなので。だから、まひろに「嫌だなぁ」と思われているのはすごく感じます(笑)。これからどうなるのか、楽しみですね。