制作スタート時に「台本を読んだ時にとても考えさせられました。不妊治療、卵子提供や少子化問題、貧困問題が深刻な昨今、これはいま現在も多くの人が悩んでいることであり、決して他人事にできないお話」とコメントした稲垣吾郎さん。代理母出産を望む草桶くさおけもといというキャラクターをどうやって作り上げたのか、お話を伺った。

【あらすじ】
派遣社員として暮らすリキ(大石理紀/石橋静河)は悩んでいる。職場の同僚から「卵子提供」をして金を稼ごうと誘われたのだ。生殖医療エージェント「プランテ」で面談を受けるリキ。そこで持ち掛けられたのは「卵子提供」ではなく「代理出産」だった。元バレエダンサーの草桶基(稲垣吾郎)とその妻、悠子(内田有紀)が、高額の謝礼と引き換えに2人の子を産んでくれる「代理母」を探していた――。

――今回、ドラマ「燕は戻ってこない」のオファーを受けたとき、どんなお気持ちでしたか?

(原作の)桐野夏生さんの作品って、どれもおもしろいじゃないですか。だから楽しみでしたね。以前、僕が司会を務める番組にゲストで来ていただいたことがあって、その縁も嬉しかったです。

今回のドラマはなかなか重いテーマではありますが、原作はすばらしいし、そのドラマに俳優として関わることができるのも光栄だと思いました。

――草桶基というキャラクターを演じる上で大事にされたことは?

ちゃんと「草桶基」という人に見えること、その存在に説得力を持たせることですね。基の執着、ナルシシズムにはこだわりました。

共感できないキャラクターだと思うのですが、ちょっと憎めない部分、欲望に一生懸命でちょっとわいいところが伝わったらドラマとしても魅力的になると思うし、もしかしたら少しは共感してもらえるかな、と思って演じています。

でも撮影現場っておもしろくて、自分の芝居は自分でコントロールできないんですよ。その空間の中で草桶基として生きる、それをみんなで共有して足並みをそろえる。そうすると、草桶基に見えるようになってくるんです。

――主演の石橋静河さんはどんな役者さんですか?

静河という名前の通り現場では本当に静かにたたずんでいて、何かを主張するわけでもないし、自己主張の強いお芝居でもないんです。だけど、完成した映像を見ると彼女の強さというか、意志の強さ、芯が燃えている感じがちゃんと画面に映っている。全然静かじゃないなって思いました(笑)。

リキという役に臨む覚悟もすごく伝わってきたし、現場で起きることをすごく大切にされています。演じる相手によって変わるライブ感というか、その時に感じたことを大切にする役者さんという印象です。

――基は自身のDNAに執着しましたが、稲垣さん自身が絶対に手に入れたかったものはありますか?

そういうことを考える暇もなく突っ走ってきちゃいましたね。ずっとグループとして活動をしてきて、与えられた立場と使命で発信していくことをずっと考えてきたので、自分自身というものがあるようでなかったのかもしれません。

でも今、1人で仕事をするようになって変わってきているかな。執着するとしたら僕はやっぱり自分が商品なので、自分を作っていくこと、自分にうそがないように、自分が納得する形で世の中の人に見ていただくことでしょうか。

――猫を飼われて新しい家族が増えたそうですが、基の気持ちがわかることもありますか?

実は父性が芽生えたんですよ。うちはメス、オス、オスの3匹で、飼う前は女の子じゃないと無理かな、と思っていたんです。メスの猫を可愛がる自分は想像できていたんですが、実際に飼ってみるとオスの方が可愛くて。

ダメなところが自分に似ているから、自分と重ねてしまうんでしょうね。基は子どもが欲しいと願って、その子どもにもバレエを習わせたい。そんな夢をみています。僕の場合は猫ですが、わからないでもないです。

――この先、生殖医療ビジネスが進歩していくかもしれませんが、稲垣さんはどんな未来を望みますか?

今回、ドラマを作っていて本当に難しい問題だと思いましたが、それによって幸せになる人が1人でも増えたらいいですよね。生殖医療をビジネスにするには課題もたくさんあると思いますが、技術が進化するのは悪いことではないと思います。ちゃんと見守りながら、良い未来がくることを期待したいです。

 

いながき・ごろう 1973年生まれ、東京出身。1988年、アイドルグループSMAPを結成。’91年にCDデビュー。俳優としては’89年、連続テレビ小説「青春家族」でヒロインの弟・大地役を演じ、ドラマデビュー。翌’90年には『さらば愛しのヤクザ』で映画デビューを果たす。以降、ドラマ「二十歳の約束」「ソムリエ」「稲垣吾郎の金田一耕助」シリーズ、映画『十三人の刺客』『半世界』などで見せた演技力が高く評価される。NHKでは大河ドラマ「炎立つ」、「陰陽師」などに出演。

 

広告代理店を経て、編集者、フリーライターに。ファッション誌、旅行誌、美容誌、書籍などを手掛ける。最近は「ソーシャルグッド」な取り組みの取材や発信に注力。お寺好きが高じ「おてライター」としてあさイチに出演したことも。取材の基本スタンスは「よりよく生きること」