トランスジェンダー女子(性別は男性)の日常をフィーチャーした「女子的生活」(2018年)、ゲイ男子とボーイズラブ好き女子の恋と現実を描いた「腐女子、うっかりゲイに告る。」(2019年)、恋愛感情や性的欲求を持たないアロマンティック・アセクシュアルがテーマの「恋せぬふたり」(2022年)、同性愛者であることに気づいた主人公のほか会食恐怖症の女性も登場した「作りたい女と食べたい女」シリーズ(2022年、2024年)。

そして今春は代理出産がテーマの「燕は戻ってこない」(総合テレビ)……これまで多様性をさまざまな角度から扱ってきた「これぞNHKのドラマ」と言っていいでしょう。

しかも放送されるのは、女性の生き方を描き続け、今春25年目に突入した「ドラマ10」。そういえば同ドラマ枠では、母親が娘の代理出産に挑む「マドンナ・ヴェルデ~娘のために産むこと~」(2011年)という作品もありました。

さらに主演は、令和版「東京ラブストーリー」(フジテレビ系/2021年)で赤名リカ、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(総合テレビ)で静御前を演じた石橋静河さん。

放送前からドラマフリークの間では「絶対に面白くなるはず」などと噂され、「4月30日という遅いスタートが待ちきれない」という声もあがっていました。

ここまで全10話中の3話が放送され、いよいよ代理出産の本編に突入。ドラマフリークの間で高まっていた期待感に応えられる作品なのか。どんな見どころがあるのか。そんたくなしで掘り下げていきます。


倫理観を問われるセリフを連発

本作では冒頭、「現在、第三者の女性の子宮を用いる生殖医療『代理出産』について、国内の法は整備されていない」というテロップを表示。続いて「倫理的観点から、日本産科婦人科学会では本医療を認めていない」というフレーズも追加されます。

これらのテロップは、「『燕は戻ってこない』がいかに挑戦的で倫理観を問う物語なのか」を視聴者に伝えること。さらに「それを見せるから覚悟しておいてください」という挑戦状のようにも見えます。

実際、ここまでの3話では、視聴者の倫理観を問われるようなセリフが続出しています。

第1話では、主人公・大石(石橋静河)と同僚・河辺照代(伊藤万理華)の会話で、

理紀「普通に気持ち悪くない? 自分の卵子に知らない男の精子入れられて、知らない女のお腹で育つんでしょ」
照代「考えすぎだって。献血と一緒じゃん」
理紀「自分の卵子からできた子どもが知らないうちに世の中のどっかにいるとかさ、想像しただけで不気味なんだけど」
照代「毎月ムダに流れているものがお金になるんだよ。たくさん取ってもらって500万(円)になんないかな」
理紀「そんなに簡単なのかな。危なくない?」
照代「やろうよ。29(歳)なんだし最後のチャンスじゃん。一度くらい『女で得した~』って笑おう」

第2話では、「生殖医療専門エージェンシー プランテ」の青沼薫(朴璐美)が理紀を説得するシーンで、

青沼「一度くらい『女性として生まれてよかった』って思ってみませんか? 子どもを妊娠し、出産する…こんな奇跡は女性にしか起こせません。これはあなたにしかできない人助けなんですよ」

第3話では、理紀と、代理母を依頼した夫婦の妻・草桶くさおけ悠子(内田有紀)の会話で、

悠子「どうして代理母に申し込んだの?」
理紀「ビジネスです。お金がほしい。それだけです。私は子宮を差し出す。そちらはお金を……対等ですよね」
悠子「『最初の赤ちゃんは好きな人の子どもを産みたい』って思うでしょ。後悔とかしないかな?」
理紀「わからないです私も。実際産んでみないと」
悠子「でも『子どもができたら変わる』って言うし、『理屈じゃなくて母性があふれちゃう』というか、産んだら子どもに会いたくなる……」
理紀「あなたこそいいんですか? 愛する息子、他人の子ですよ。遺伝子は他人じゃないですか。ご主人と私の遺伝子から生まれる子です。あなたは本当にいいんですか?」

少子化が叫ばれ続け、不妊治療の法整備が議論され、子どもたちの間で「親ガチャ」なんて言葉が飛び交う昨今、ここまで倫理観を問うセリフをたたみかけるドラマは見たことがありません。

だからこそ当作は、見ていると息が苦しくなり、見終えたら疲れを感じてしまうほどであり、ネット上には「痛々しい」「不気味」などのネガティブな声も見られます。

しかし、Xの動きを見る限り、それでも見ることをやめずに引き込まれていく人が多いのも事実であり、その理由はどこにあるのでしょうか。


選択肢を持てない過酷な人生の描写

「痛々しい」「不気味」と感じても引き込まれていく理由は、徹底した厳しい描写。特に女性たちの異なる苦しさを描き分けることで、「この先どうなってしまうのか」「幸せになってほしい」という視聴者感情につなげています。

病院事務の派遣社員である理紀は、1日、9時間30分働いて手取り14万2505円。古びたアパートに住み、猟奇的な隣人に悩まされている。仕事の昼休憩では「外食」「贅沢ぜいたく」と称してコンビニのイートインコーナーでカップラーメンを食べ、サラダやサンドイッチは買えない。

同僚の照代も、大学卒業の時点で親が生活費を上乗せして借りた奨学金の返済が500万円あり、風俗で働いているが客から首筋に歯形をつけられてしまう。さらに雇い止めの不安が忍び寄っている。

悠子は長い不妊治療の末に子どもをあきらめており、元バレエダンサーの夫・もとい(稲垣吾郎)は代理母の話をどんどん進めてしまうほか、義母・千味子(黒木瞳)からは厳しい言葉を浴びせられている。

理紀の叔母・佳子(富田靖子)は、独身を貫く一方で、かわいがっていた理紀に「自由になれる方法」として結婚を勧めるなど後悔をにじませ、自身は病気になり彼女と会えないまま亡くなってしまう。

それぞれ「人生の選択肢が持てない」という状況下に置かれていることがわかるでしょう。さらに、理紀の古びたアパートと、セレブである草桶一家の家や「プランテ」のオフィスの落差・格差もいかに厳しい状況であるかを物語っています。

だから見ている人々も自分事のような息苦しさを覚えてしまうのですが、それでもNHKは民放のように「息抜きのシーンやコメディパートを入れて苦しさを中和する」ようなことはしません。厳しい状況を徹底して描き、そこで女優たちに渾身の芝居をしてもらうことで見応えを生んでいるのです。


男優たちの怪演でエンタメ性アップ

息抜きどころか、彼女たちに相対する男性たちの描写は不気味そのもの。妊娠した理紀にせいを浴びせて逃げるバイト先の店長・レイジ(町田悠宇)、理紀に因縁をつけて執拗に迫る隣人・平岡(酒向芳)、性的経験のない理紀に不倫を持ちかける老人ホームの上司・日高(戸次重幸)、そして優しげなたたずまいや言葉とは裏腹に、傲慢ごうまんさがにじみ出る草桶基。

その基は第3話でも、代理母を受け入れた理紀に対して平然とした顔で、「(帰省のために)飛行機乗るなんてありえなくない? 母体は健康に保つ。危険は一切排除する。それが彼女の仕事だろ? あっ、契約事項に盛り込んでおくか。禁止事項の一覧を」と話すシーンがありました。

つまり、「素晴らしい芝居を見せる女優たちを支える男優たちが怪演を連発していて、それが当作の不穏な面白さにつながっている」ということ。

代理出産に関してはノンフィクションを思わせるリアルな描写を重ねる一方で、人物設定に関しては、けれんみたっぷりに描くことで、エンターテインメントとしての魅力を感じさせているのです。

「ドラマ10」のドラマらしく、まじめかつ丁寧に作られていながらも、差別や暴力を前面に押し出すようなぶっ飛んだ世界観が他作にはない強烈な引力となっていることは間違いないでしょう。

挑戦的な作品だけに、最後まで「NHKならではの妥協なき制作スタンス」が貫かれたら、見た人にとっては2024年を代表するドラマになるかもしれません。

コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者、タレント専門インタビュアー。雑誌やウェブに月20本以上のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』『どーも、NHK』などに出演。各局の番組に情報提供も行い、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。全国放送のドラマは毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。