「どうしてもほしいものがあるならば、“したたかに”生きなさいってこと!」

親友にして義理の妹となるとも(伊藤沙莉)に助言し、その賢くもしたたかな生き様でお茶の間の話題となった猪爪いのつめ(旧姓・米谷)花江。

実際に、女学生のうちに結婚するという夢を叶え、早くに家庭に入った花江を演じる森田望智さんに、演じる上で大切にしていることや、撮影現場の様子などについて、その思いを伺いました。


花江の“したたかさ”は、当時としては普通のことだったのかも

──森田さんが“朝ドラ”に出演するのは、2021年放送の「おかえりモネ」から3年ぶり2度目です。出演が決まったときのお気持ちはいかがでしたか?

私にとって朝ドラは、挑むたびに自分の小ささを痛感させられる“大きな門“のイメージです。でも今回は、オーディションなしで素敵な役をいただくことができたので、本当に胸がいっぱいでした。

花江のようなキャラクターは、あまり演じたことがないのですが、実は私に似ているところがたくさんあるんです。

──ということは、森田さんにも、花江のような“したたか”な一面があるのでしょうか?

私は、“ふわふわした人”だと思われることが多いんですけど、実は頑固だし、自分の気持ちに素直に生きているなという自覚があります(笑)。なので、花江とは、表面的なふわっとした部分と、内面的などっしりした部分のギャップが似ているなと思いますね。

でも、花江の“したたかさ”って、当時としては普通のことだったのかもしれません。現代でも「素敵な家庭を築きたい」「幸せな結婚をしたい」と考えるのは特別なことではないと思うんですが、この時代の女性にはそれしか生きる道がないし、それが人生のすべて。

かわいらしい感じで言ってはいますけど、そうでなければ死んでしまうくらいの大きな夢だったんじゃないでしょうか。直道さん(上川周作)との結婚にも強い覚悟を持っていたからこそ、夢に向かって“したたか”になれたんです。

──ところが第3週では、そうして夢を叶えたはずの花江が、実は人知れず悩んでいたことが明かされました。おまんじゅう作りのシーンでは、花江の気持ちが爆発しましたが、森田さんご自身は、花江の気持ちの揺れをどう感じていましたか?

時代的なものもあると思うんですが、当時のお嫁さんって、家での立場がずっと下なんですよね。けれど、たぶん花江本人としては、あまり自分を抑え込んでいるという意識はないんです。

結婚して、男の子を産んで、立派に育てて、その子を素敵なお仕事に就かせる。そんな目標のために自分が犠牲になっているという感覚はなくて、家族のために尽くすのが当たり前だと思っている。

だから、気付かないうちにどんどん溜め込んでいるんですよね。今だったら簡単に気づける“我慢”が、当時は“当たり前”だから気づけなかったってことだろうなと思います。

──親友である寅子が家の外で活動的に動いているというのも、花江が不安定になる原因の一つになっていたようですね。

そうなんです。ずっと一緒にいた寅ちゃんが、初めて見る世界をどんどん持ち込むので、信じていた価値観が揺らいでくる。結婚したのはいいけど、私ってなんのために生きているんだろう……みたいな。

しかも、家に寅ちゃんの同級生が来ると、これもまた初めて見る人たちなわけです。それまで寅ちゃんの隣にいたのは自分だったのに、彼女たちと難しいことを話して、キラキラしていて。うらやましいな、そういう生き方もあるんだって、初めて思ったんじゃないですかね。

──最終的には、みんなの前で思いを言葉にしたことで、無事、しゅうとめのはるさん(石田ゆり子)とも和解できました。

悩んで悩んで、思っていることを口に出して、自分と向き合えたからこそ、自分にとっての夢はやっぱり「幸せな家庭を築くこと」だって、改めて気づくことができたのだと思います。だから、これからは無理に合わせるんじゃなく、本当の真心でお義母かあさんといい関係を作れるようになっていくはずです。


自然に生まれた温かさが、家族のシーンにそのまま反映されている

──そんな花江を演じる上で、大切にしていることはありますか?

実は、今回現場に入ってからはいい意味で何も考えていないんです。花江のキャラクターが自分に似ているというのもありますが、“朝ドラ”はやっぱり放送期間も撮影期間も長く、ひとつひとつのエピソードを丁寧に描けるし、それぞれのキャラクターにフォーカスできる分、わざと役を作り込まなくても成立するんですよね。

おまんじゅう作りのシーンでは、感情があふれて突然涙を流すというようなト書きがあったのですが、これも自然にポロン……といった感じでした。ただ、花江が育ってきた環境については、自分なりにいろいろ想像しているんです。たとえば、花江が寅ちゃんに対して「いつもにこやかにね」と言うシーンがあるのですが、この言葉はきっと、自分が母親からずっと言われてきたことなんじゃないかって。

それに、“花江”という名前は、かわいらしい、華やかという意味の“花”に、広い、大きい川という意味の“江”。名は体を表すじゃないですけど、そんな名前をつけてもらったんだから、無意識のうちに、おおらかでかわいらしいイメージに近づいていくと思っていて。なので、声色は、いつもより少しトーンを上げて演じています。

──花江は、猪爪家の皆さんとのシーンが多いかと思います。ドラマでは複雑な関係でしたが、はる役の石田ゆり子さんとは、ふだんどんな関係なんですか?

もちろん、トゲトゲしたり、殺伐としたりすることは全くないです(笑)。衣装で着物や浴衣を着る機会が多いんですけど、私は昔、日本料理店でアルバイトをしていたことがあって、自分で着付けができるんです。

そしたら、ゆり子さんが「(帯の結び方を)教えてくれない?」と声をかけてくださって、一緒に帯を結んだりして。そんなふうにゆり子さんの方から優しく距離を詰めてくださったことが、とてもうれしかったです。

あと、休憩のときに、ゆり子さんが折り紙を持っていらしたときもありました。それで猪爪家のみんなで折っていたのですが、その次の撮影で、ゆり子さんが「(折り紙の)本を買ったの」と持ってきてくださって。さらに次は、「今日は大きい折り紙を買ったの」って(笑)。ゆり子さんのおかげで、すごく自然に家族の雰囲気ができたと思いますし、そういう温かさが、家族のシーンにはそのまま反映されているんじゃないでしょうか。

──一方で、親友・寅子を演じる伊藤沙莉さんとは、今回で3度目の共演だそうですね。森田さんにとって、伊藤さんはどのような存在ですか?

沙莉ちゃんは、本当に素敵な俳優さんです。沙莉ちゃんの演技にはうそがないので、シリアスなシーンでも笑えるシーンでも、見ていて“本当だ”と思えるんですよね。

だから、一緒に演じている私も思わず素直になってしまうし、そうやって周囲を巻き込むこともできる、まさに唯一無二の存在だなと思います。そのうえ人間的に魅力のある方なので、気遣いもできるし、ヒロインとして現場がどうしたら良くなるか常に考えていて、両方の面ですごいなあと思っています。

――最後に、花江としての今後の見どころなどを教えてください。

そうですね……実は、撮影が始まる前、花江がどういう人なのか、監督たちとお話しさせていただく機会があったんです。そのときに言われたのは、「花江ちゃんは家庭に生きる女の人の代表」だということ。

寅ちゃんみたいにバリバリ働いて道を切りひらいていくわけじゃないけれど、そういうふうに働く女性だけが偉いわけじゃないよ、ということを表現しているのが、花江なんです。

人のため、子どものため、旦那さんのために生きている女性が劣っているわけでは全くなくて、どの女性もいちばん。家庭に生きる女性だって、外で仕事をする女性と同じくらい尊いんだよ、ということを伝えられる人だと思っています。

今はまだ子どもっぽい部分もありますが、今後も、花江なりの成長を見守っていただければうれしいです。