杉本昌隆すぎもとまさたかさん(55歳)は、昨年八冠達成という将棋界の偉業を成し遂げたふじそうさんの師匠です。

天才棋士を弟子に持った師匠の気持ちとは、どんなものでしょうか。藤井さんとの出会いや、師弟のほのぼのとしたエピソードなどについて伺いました。
聞き手/恩蔵憲一この記事は、月刊誌『ラジオ深夜便』2024年3月号(2/16発売)より抜粋して紹介しています。


──弟子となった藤井さんはいかがでしたか。

杉本 弟子になったのは小学4年のとき。私は弟子にしたら、まず記念にハンデなしの平手(注)で一局指すことにしています。当然のことながら師匠が勝つのが普通なのですが、聡太少年には1回目で負かされました。

当時の私は七段。本当にこの子は強いんだと、改めてその才能に驚いた記憶があります。

師匠として、悩んでいる弟子には声をかけ、将棋の指導もします。けれど彼は自ら学んで成長していくタイプで、手のかからない、すごく楽な弟子でもありました。私以外の誰の弟子になっていても、おそらく今と同じような活躍をしていたと思います。
(注)どちらの駒も落とさず、対等に将棋を指すこと。


決勝で敗れ「うれしいけど残念」

──杉本さんと藤井さんは公式戦でも対決していますね。

杉本 過去に三局あり、全部私が負けました。八冠達成には、私のこの3敗もアシストしています(笑)。

記憶に残る対局の1つに、竜王戦三組のランキング戦の決勝があります。優勝すれば賞金もメダルも手に入る。その先には将棋界で最高峰のタイトル・竜王が続いている。大きい対局で、私としても絶対勝ちたかったんですよ。

ここで師弟でぶつかるのか、という思いもありました。結果、優勝は藤井七段で、私は2位。弟子の優勝はもちろんうれしいことですが、正直残念な気持ちもありました。

でもファンの方から「杉本一門で1位と2位を取った。一門の勝利ですね」と言われて、なるほど、と納得しました。

──将棋の対局は、上位者が上座に座るそうですが、藤井さんとの対局ではどうですか。

杉本 基本的には段位や肩書が上位の棋士が上座に座ります。師弟では弟子が上位であっても、弟子の方が下座に座ることもある。

だから藤井八冠がタイトルを獲得したあとの対戦では、彼が下座に座ってしまわないよう、1時間ぐらい前に対局室に入って下座に自分の荷物をたくさん置いて、彼が座れないようにしたことがありました。

対局後の会見で「師匠に先に下座を取られて打つ手がなくなってしまった」と話していましたね(笑)。
※この記事は2023年11月28日放送「青は藍より出でて……」を再構成したものです。


「藤井聡太八冠は、最高の弟子」杉本昌隆さんのお話の続きは月刊誌『ラジオ深夜便』3月号をご覧ください。

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